7話 携帯ドラゴンとは。
7話 携帯ドラゴンとは。
「ほい、死んだ」
トコが、蚊を叩き殺した時とほぼ変わらない顔でそう言った後、
「ヒドラ。武器変更、ハンドガン『コルト・ガバメント』」
そう宣言すると、ハンマーがグニャリと歪み、軍用自動拳銃に変化した。
「はい、これ、おまけぇ」
トコは、銃弾を数発、グールの死体にブチ込み、
「GOOと戦うんは、しんどいからイヤやけど、ザコを殺すんは、ストレス解消になるから好っきゃわぁ」
言いながら、狂人的な笑顔を浮かべて、
さらに二・三発ブチこんだところで、
「トコさん、無意味な暴力に酔っていないで、南雲さんの心配をしてあげてくださいよ」
トコの背後から現れたメガネの黒髪ポニテ――黒木が、南雲に駆け寄って、
「南雲さん、大丈夫ですか? 安心してください。あなたを助けにきました」
「た、たす……け……ぁ……はぁ……」
気が抜けたのか、そこで、ヘニャリとへたり込む南雲。
そんな彼女を支える黒木。
二人の横で、紅院が、
「アレス。武装モード解除」
そう宣言すると、コンバットナイフが粒子化し、即座に再構築されて、
「きゅいっ」
小さな龍が紅院の目の前に出現した。
紅院の携帯ドラゴン『アレス』を見て、南雲は「ひぇっ」と小さな悲鳴をあげた。
南雲の怯えている様子を見て、紅院は、柔らかく微笑んでから、
「南雲奈桜。怖がらなくていいわ。アレスは味方だから」
「み……かた……」
「そうよ。ほら、かわいいでしょう」
アレスは、パタパタと南雲の眼前まで飛んで、
「きゅいっ!」
ペロっと、彼女の鼻先を舐めた。
「こ、この、羽が生えた二頭身の丸っこいトカゲ……? なに、これ……」
問われた紅院は、深紅のパッツン前髪を指でなぞりながら、フンスと、ふんぞり返り、
「携帯ドラゴン。究極の携帯情報端末よ。千年後のスマホと言ってもいいわね」
「……?」
「ミレー、ほんま、説明、ヘッタやなぁ。そんな一言で分かるわけないやん。南雲の顔を見てみぃ。ごっつ険しい表情になってんで」
そこで、黒木が嬉々として、
「この小さなドラゴンは、契約者を全力で守ってくれる、究極のPDAです。生きていて、しかも守ってくれる汎用量子コンピュータ内臓個人情報端末……と、いきなり言われても、理解に苦しむと思いますし、そもそも信じられないでしょうけれど、私が語る事は全て事実です。正式名称は、IS=GPQC/タイプD5005‐G7。エキゾ単結晶を使用したヨクトマシンの集合体であり、その機能は多岐にわたります。3Dオブジェクトの量子データ化による亜空間収納、ISAグラフィーによる高性能デジタル解析機能――」
その長々とした説明に、トコがイライラした顔でピクついている、
が、そんな事はお構いなしに、
黒木は、気持ち良さそうに、携帯ドラゴンの解説を続ける。
「――領域外GISネットワークにハックしての情報収集、デジタルマイクロホワイトホールを使ったオールレンジ索敵、未来兵器のFDMコールによる五次元オブジェクト化と、とにかく何でも出来る夢の万能ガジェット。この究極端末は、実は過去からの贈り物で、かつて、この地球を支配していた『イス人』という、我々地球人からすると先輩にあたる、人間に対して好意的な、超絶的に頭脳が優れているS級GOOが遺してくれたオーパーツで――」
「もうええぇえええ! 逆に、あんたの説明はウダウダと長いねん! いらん解説が多すぎて、結局、なんのこっちゃわからへんし!」
パシンと頭をシバかれて、黒木は、不満げな顔でトコを睨む。
トコは、黒木の視線をガン無視し、
「まあ、とにかく、もう大丈夫や。なんせ、あたしのヒドラ一体だけでも、奉仕種族なんか、たとえ三ケタおろうが楽勝で駆逐できるからな」
トコにぽんぽんと肩をたたかれ、南雲は、ようやく、心底からホっとした顔になった。
そんな南雲に、紅院は、自分の右手に乗せた携帯ドラゴンの顔を向けて、
「アレス、南雲奈桜をサーチ」
指示を受けたと同時に、アレスの目が、ペカーっと光る。
赤い光が、南雲の体を包み込んだ。
二秒ほどで解析が完了すると、携帯ドラゴンの背中に、
南雲の情報が表示されているエアウィンドウが現れる。
「ああ、なるほど」
「どしたん、ミレー」
「この子、生贄適正があるわ。しかも、かなり上質。この子を使って召喚すれば、E級……いえ、D級のGOOくらいまでなら完全にコントロールできるわね」
「そら、厄介やなぁ。ええ上司を欲しがっとる奉仕種族からしたら垂涎もんやん」
「これほど面倒な性質を有していると、これからも狙われ……って、あ! 嘘、マジ?!」
「ぅるっさぁ……なんやねん」
「ラッキィ! 新人発見! この子、召喚適正があるわ!」
「ぇ、美麗さん、本当ですか?!」
「ぉお、やっと新入りが見つかったなぁ。いやぁ、まさか、同じクラスにおったとはなぁ」
「500万人くらい集めて調べても見つからなかったっていうのに、まさか、クラスメイトにいたなんて……」
「ぁあ、あの『モニターのバイト』って嘘ついて、アホほど人を集めたやつな。あれ、確か、結局、なんやかんやで百億円近くかかったんやったっけ? あれの費用、完全に、ミレーが使える小遣いの範囲を超えとったけど、大丈夫やったんか?」
「パパに泣きついたから余裕よ」
「オジキ、ほんま、あんたに甘いなぁ。……まあ、それはともかく、あれだけやっても見つからんかった召喚適正持ちが、まさか、こんなにサクっと見つかるやなんてなぁ……」
「結局、魔道書に書かれていた通り、アリア・ギアス(巨視的な福音)の収束によって、運命的に私達の元へと導かれるまで、私達は新人とは出会えないという事なんでしょうねぇ」
「てか、前から思ってたんやけど、なんやねん、アリア・ギアスって。魔道書にちょいちょい出てくるけど、ついぞ、意味が理解できた事ないねんなぁ」
「アリア・ギアスは、神々の共通概念を暫定的に言語化した固有定型詩です。ようは五次元以上を感知できない人類では処理しきれない『認知の領域外』にある特異概念を一時的に処理してくれるコンパイラの擬言化ですね。まあ、正確には、そのコンパイラを創るパーサジェネレータの――」
「日本語しゃべれぇえ! 口、裂いたろか、ぼけぇ! てか、ガチで知りたかった訳ちゃうから、黙っとれぇ!」




