6話 もう、タイムリープするな。
6話 もう、タイムリープするな。
take15
『ああ、知っている。お前の、そのイカれた発言がガチだという事を、オレは死にたくなるほど知っている。なんせ、だからこそ、こんなにも長く闘い続けるハメになったんだからな。薬宮トコという女が、【重度の変態】ではなく【自分の命を第一に考える普通の人間】だったなら、オレは、タイムリープすることもなく、サクっと死ねていた。何十年も地獄の釜の底を這いずり回るより、そっちの方がよっぽど楽だった。……マジ、ムカつく。訴訟も辞さない。ジャンピング土下座を要求する』
『理不尽すぎるやろ。どんな言いがかりやねん』
『本当に、この世界は理不尽だ。ふざけすぎている』
『………………なあ、サイゴ』
『なんだ、急にマジな顔になって』
『もう、タイムリープすな』
『……』
『同じ二年間を何回も何回も……いつか、絶対に頭がおかしなるわ。てか、もう、若干、おかしなってんのとちゃう? あんたの目、普通やないで? 言うてる事も、けっこう頻繁にメチャクチャやし』
『……』
『どうせ、神には勝たれへん。勝てる訳がないやん。あんたも、本当は分かってんねやろ?』
『……』
『もう、あんたは充分に戦ってくれた。せやから、ほんまにもうええんや。あたしのために、何十年も戦ってくれた男がおる。その事実があるだけで、あたしは――』
『俺は……諦めない』
『サイゴ、聞け。ほんまに、ガチで、ええ加減にせぇという話をしたいんや。あんたの姿は、正直、見てられへん。絶対に覆らん不可能を前に、みっともなく駄々をこね続けるガキ。そんな痛々しいもんを見せつけられるこっちの気持ちも、ちょっとは――』
『何度でも言うぞ。俺は絶対に諦めない』
『……サイゴ……』
『死んでも諦めねぇ。お前を守るためだったら、オレは、何だってする。必要だってんなら、すするどころか、ジョッキで泥を飲んでやる。ふやけて溶けるまで、悪魔の靴をナメてやる! 最強神の首が必要だってんなら、無間地獄に落ちるのも覚悟で、もぎ取ってきてやらぁ! 何をしてでも、オレは、必ず、お前を助けだす!』
『……っ……ぃ、いらん言うてるやろ、ぼけぇ! その暑苦しい感じが鬱陶しいねん! そんな、キチ○イじみた自己犠牲、こっちは、なんも嬉しないんじゃぁああ!!』
『お前が言うなぁあ!!』
『あたしは、自分を犠牲にした事なんかあらへん! さっき、あんた、【薬宮トコは、自分を第一に考えてへん】とか完全にズレきった事を言うとったけど、全然違う。全っ然! あたしは、常に自分の欲望を第一に考えてきた! 自分が欲しいものを手に入れるために、自分が守りたいもんを守るために! いつだって! 常に! 徹底して! ワガママに! 貪欲に! 自分にとっての最適解を出してきた! それを、あんたがやっとるような【押しつけがましい自己犠牲】扱いされるんは何より我慢できん!』
『……お前は、いつだってそうだ。今だって、俺の地獄を終わらせようと、必死に自分を悪者にしようとしている。その言動が、【結果として、どれだけ俺を傷つけるか】すら計算した上で、どうすれば俺を救えるかを冷徹に考えている!』
『そんなんして――』
『だまれ! いい加減にするのは、テメェだ! どうして、そんな事が出来る! 俺をうまく利用して生き残る事だけ考えてりゃいいのに! どうして! いつも! なんで! おかしい! お前は異常だ!』
『そう思うんやったらほっとけぇええええ!! もうあたしに関わるなぁあああああ!』
★
take100
――『2015年五月。深夜』
「……はぁ……はぁ……」
南雲奈桜は走っていた。
息を切らして、第三校舎の廊下を駆け抜けている。
いつもはフワっとさせている明るいピンクアッシュのボブヘアーは、現在、汗でべったりとしており、比較的かわいらしい顔は恐怖に歪んでいる。
その平均的な体躯を必死に駆動させて、南雲は、深夜の学校で独り、必死に逃げていた。
「……誰か助けて……」
目が覚めたら、妙な化け物に囲まれていて、何かの儀式の生贄にされようとしていた。
絶対に起きないと思われていたらしく、一切拘束等はされていなかった為、モンスター共の目が離れた隙に、儀式場(理科室)から逃げだす事に成功した。
――が、
「はい、そこまで」
南雲の進路を防ぐように、二本足で立つ『酸で溶けた犬』のゾンビのような化け物が立ちふさがり、
「まったく……せめて、痛みはないようにと手心を加えてやれば、図に乗りやがって……二度と逃げ出せないよう、両足の腱を切断させてもらうぞ」
くぐもった声でそう言って、腰に携えていたナタを取り出す化け物。
「い、いや……やめて……」
南雲は、無我夢中で、すぐ近くにあった掃除ロッカーを開き、モップを取り出して、
「こないで! それ以上、近づいてきたら、これで、思いっきり叩く!!」
「そんな事をしても無意味だって事くらいわかるだろ。――おい、構えるな。やめろ。ここでわたしを怒らせても、いい事は何もな――」
「やぁあああ!!」
南雲は、力いっぱいモップを振り下ろした――が、化け物の細い右腕に、あっさりと防がれる。
化け物は、握りしめたモップの柄にグっと力を込めて、
「言っておくが、普通に痛いんだぞ。我々、奉仕種族は、『神』や『GOO』の方々とは違い、魔力をほとんど持っていないからなぁ」
「ひ、ひぃい……」
モップから手を離して後退り。
うっすらと浮かぶ涙。
イヤイヤと首を振る。
そんな南雲に、モンスターは、怒りを込めて、
「魔力とは、魔法を使うためだけの居所的なエネルギーって訳じゃねぇ。筋力・俊敏性・耐久値なんかの身体能力も、内包している魔力の総量によって上下する。意味がわかるか? つまり、魔力をほとんど持たない『奉仕種族』の中でも下位存在である我々『グール』は、貴様ら人間と、肉体スペック的にはさほど変わらないという事だ。『硬い棒で強く叩かれる』となぁ……痛いんだよぉ!」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ゆ、ゆるしてぇ……」
「謝るくらいなら最初から暴れるんじゃねぇ。このクズがぁ」
「――どの角度から見ても、あんたの方がクズだけれどね」
突如、化け物の背後に現れた赤髪長身の女は、右手で握っているコンバットナイフを、化け物の首に躊躇なく突き刺した。
「ぐぬぅぁあ! ――くぅっ!!」
首を刺されているが、絶命には至っていない。
若干フラつくが、動けない訳ではない。
人間とほぼ同じ耐久値であっても、急所まで同じという訳ではない。
「くそが!」
どうにか距離を取ろうとする化け物の足を、その美少女は、思いっきり蹴り払う。
化け物をその場に横転させた直後、
その赤髪――紅院は、
化け物の額めがけて、ナイフを一直線に突き刺した。黒い血がブシャっと飛んだ。
「ぬぁ……かぁ……て、てめぇ、『神話狩り』か……く、くそったれがぁ」
「あれ? まだ生きているわね。『グール』ってこんなにしぶとかったかしら?」
首をかしげている紅院の背後からトコトコと歩いてくる小柄な金髪ツインテール――薬宮トコが、右手に握っているハンマーを振りかぶり、
「グールは斬撃耐性があるから、ナイフやったらあかんねん。殴打属性で頭を丸ごと叩き潰せば――」
思いっきり振り下ろした瞬間、
「がかぁ!! っ――」
ドサっと、力なく倒れて、グールの意識はこの世から消えてなくなった。
「ほい、死んだ」




