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廃神~ぼくのループものクトゥルフ高校生活も遂に100周目突入~  作者: 閃幽零×祝百万部@センエースの漫画版をBOOTHで販売中


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56話 レッスン。


 56話 レッスン。


 叫んで、ニャルは、巨大な剣をふるった。

 火花散る。

 闇色の閃光。


 音速を超えた一撃一撃に空間が軋む。

 人間の目では追えない剣戟。

 放たれる魔法は全て無詠唱。

 世界の始まりを彷彿とさせる、止まらない咆哮の核分裂。



 邪悪なる神々の閃光が、無意識を超えて、

 無限の奥に潜む無粋で空っぽなコズミックホラーを飾っていく。


 カゲロウのような剣舞。

 目が眩み、魂が熔ける。

 いつかの、神が見た煌めき。


 爆発は空間の深部で凝縮される。

 下は上で、右は左。怜悧な諸行無常。


 まるで、剣の砂漠。

 カラカラに枯れていく。

 なんて無意義な数十秒。



 揺らめく剣騒。

 乾いていくピクセルデザート。

 終末の万華鏡。



 気付いた時には、認知の地平面が溶けていて、

 領域内の世界と重なっていた。


 汚い空気。

 汚れた世界。

 それでも空は青かったんだ。



 ――暗く濁った光源の中心で、トリデは気付いた。



「……ボロボロだな……あんた」

「ようやく気付いたかい?」



 トリデは、ニャルの剣を弾いて、自分も剣を捨てた。

 そのまま、ニャルの胸倉を掴み、


「ぐっ!」


 地面に叩きつけた。

 粉塵が舞う。


 トリデは、手を離すと、

 右足の底で、ニャルの首を地面に押しつけ、


「踊らされてやったんだ。最後くらい、私の質問に対し、正直に答えろ」


「……な、何……かな? 不愉快な質問でなければ、答えてあげなくもないよ」


「茶柱の弟、なぜ殺した?」


「ふ、ふふ……知りたいかい?」




「ああ。なぜ――」


 そこで、トリデは声のトーンを落として、


「――どうして、人間のガキなんかを『助けた』?」




 近くで聞いていた茶柱の目が大きく開いた。

 小さく『タスケタ?』と呟いている。



「――頼まれたからさ」



 妙に真摯な声で、そう言いきったニャルに、トリデは、


「私たち神々からすれば、茶柱何とかは、ミジンコと変わらないゴミの一粒でしかない。なのに、頼まれたからという理由だけで、その魂を救ったというのか?」


「そうだよ。……『もう、苦しみたくない』と、彼は言った。苦しんでいる自分――その姿を見て『苦しむ家族を見る苦痛』は、もうたくさんだ、と。体の痛みは耐えられても、家族が苦しみ続ける痛みがあと二年も続くのは耐えられない、と。だから、殺してほしいと……彼は心の底から神に祈った。あれは、本音だった。……毎秒、気が遠くなるほどの絶望的な激痛の中で、彼は己の家族の心を優先した」



 ――ボクは、それを美しいと思った。だから救ってやった――



「……神に心はないんじゃなかったのか? その回路、その想いは、心じゃないのか?」


「違うよ」


「……わからないな」


「レッスンワン。心どうこうは関係ない。理由や理屈ではなく、そして、それがどの方向に向いたものであれ、『純粋な願いには真摯に報いてやる』のが神というものなんだよ、トリデサイゴ。分かったかな?」


「分からない。なぜ、人間のような下等生物のために、そこまで出来た?」


「楽しかったからさ」


 ニカっと、幻想の太陽を巻き込んで笑い、

 目を閉じて、


「枯れ果ててしまった今のボクでは、もう、か弱く愚かな人類を守ってはあげられない。折角ここまで育てたんだから、どうせなら存続してほしい。でも、放っておいたら、人類はいつか確実に自滅する……と言う訳で、後は任せたよ、トリデサイゴ」



「私たち神々にとって、封印とは、睡眠と同義。ニャルラトホテプ……ずっと、独りで……不眠不休で、脆弱な人間共を守ってきた貴様の気持ちが、私には、まるで理解できない。人間なんぞに、神がそこまでするほどの価値があるとは思えない」



「まあね。けどさぁ――」


「――だが、先輩からの命令だ。むげにもできない」


「……」


「ここから先は、私が、できる範囲で、愚かな人間どもを守っていこう」


「ありがとう、トリデ」


「ニャル。一つだけ聞かせろ」


「何かな?」


「全部、茶番だったのか? 最初から、何もかも、ただ私を神にする為の、単なる――」


「もし、君が、どこかで、わずかでも諦めていたら、君に託そうなんて思わなかったさ」



 ニャルの目は、痛いほど、砦を貫いて、



「話にならないのさ。『ニャルラトホテプが本気で殺そうとしても殺せない』くらいの存在じゃないとね。――君は死ななかった。最後まで立っていた。だから神になった。それだけの話さ、全部ね」


「……」


「本当に単純な話なんだ。考えてもみなよ。君は、薬宮トコ(心から大事に思っているモノ)を、そこらの、しょうもない誰かに任せられるかい?」


「薬宮? あぁ、あの小さいガキか。……今の私にとっては、どうでもいいんだが?」


「……そうかい。まあ、いいや」


 少しだけ悲しそうな顔をしてから、


「……じゃあ、ラストレッスンだ。トリデサイゴ。力を持つから神なのではない。『折れない』からこそ、『柱』には意味と価値がある。ソレを忘れるな」


「柱……柱ねぇ……」


「ボクの名の下に認めよう。君は間違いなく、この世界を支える神の一柱だ」


「そりゃどうも」


「これから先の人類を、どうかよろしく頼むよ、月光の龍神」

「その要請、たしかに承った。いつかまた会おう、無貌の神」



 そう応えてから、砦はトラペゾヘドロンを取り出した。

 霧が晴れるように、音もなく、ニャルの核が封じ込まれていく。

 一瞬、モノトーンが世界を支配する。


 渦を巻く、神の影。

 ニャルの姿は、美しく、ユラユラと揺らめいて、

 穏やかに、小さな宝石の中へと収束していった。



 封印の完了。

 世界がモノトーンから鮮やかな七色に変わる。


 ――全てが終ると、トリデは、それをヨグに投げ渡した。



「異形にしてくれた礼だ。上神に献上させてもらう。……ニャルは、神としての教えを説いてくれた大事な先輩だ。粗雑には扱ってくれるなよ」



「無論だ。それで……貴様はこれから何をする?」


「ニャル先輩ほど精力的に活動するつもりはないが……まあ、もし、この先、人類が滅亡しそうになったら、適当に手を貸してやるさ」


「奇特な事だ」

「まったくな」


 トリデの発言を受けて、ヨグは目を閉じた。

 ほんの少しだけ口角をあげて、


「では、お別れだ。また、どこかで会おう。月光の龍神」

「色々と世話になった。また、いつか会おう、時空の王」


 軽く言葉を交わしただけで、

 呆気なく、ヨグは現世から姿を消した。


 音もなく拡散して、

 時空の底へ溶けていった。



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「もし、君が、どこかで、わずかでも諦めていたら、君に託そうなんて思わなかったさ」 ニャルの目は、痛いほど、砦を貫いて、 「話にならないのさ。『ニャルラトホテプが本気で殺そうとしても殺せない』くらい…
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