53話 心。
53話 心。
「まあねぇ。それで? 今の君は、ステータス的に、S級GOO級くらいにはなっているっぽいけれど、その程度じゃあ、ボクに勝てない事くらい分かるよねぇ」
「20分を稼ぐんは?」
「はははははは。いやいや、絶対に無理だよ。ボクがその気になれば、君が防御に徹したとしても、まあ、持って五分が精々。ていうか、それ以前に、融合状態で戦うと魔力消費量がハンパじゃないから、君自身の魔力が持つのは二・三分が限界だろう?」
「せやな。このモリモリと魔力が減っていく感じやと……全力で戦える時間は、二分ちょっとが限界やろうなぁ」
「ははっ、分かってるじゃないか」
と、そこで、ニャルは、眉間にしわをよせ、
「……んー、あのさぁ、マジで聞きたいんだけど……君、なんで出てきたの? ほんと、謎なんだけど。その行為に、何の意味があるの?」
「神話生物には心がない、とは聞いとったけど……ホンマみたいやな。心がある人間やったら、誰でも、今のあたしの行動理由が理解できるはずや」
「へぇ、そうなんだ。心というのは、とってもすごいセンサーなんだねぇ。そんなパッシブスキルを生まれた時から身につけているだなんて、いいなぁ。うらやましいなぁ」
「……なあ、ニャル。30秒でええ。砦と喋らせてくれへんか?」
「いいよ。なんなら、5分くらい喋ってもいいよ」
「なんや、随分と気前がえぇなぁ」
「君達が、どんな絶望を語りあうのか興味があるからねぇ。ボクは絶望と破滅が大好きな、オチャメで小粋な神様なのさ」
そこで、トコは、砦に向き合って、ゆっくりと近づき、
「サイゴ……あんた、ほんま、アホやなぁ」
自然と重なる。
抱きしめられて、砦は、反射的に奥歯を噛んだ。
「……ト……コ……」
「こんな、なんで死んでへんのか分からんくらいの状態で、よう立ってられんなぁ……自分、ほんま狂ってんのとちゃう?」
「離れて……ろ……なんとか、あいつの魔力が……切れる……まで……時間を稼ぐ。心配するな、俺はまだ、折れていない……必ず守る……かなら……ず――」
「アホやなぁ、ホンマ」
トコはニコっと微笑んでから、
砦の頬に両手を伸ばし、
「――っ」
背伸びをして、キスをした。
柔らかに揺れる。
輝きの華。
芯の奥が、かすかに痺れて、トロリと甘く溶ける。
触れたのは、間違いなく心だった。
注がれた愛情に、砦は固まって、両目を見開く。
こみあげてくる。
プクプクと何かが湧き上がってきた。
涙が流れた。
トクンと音がした。
心の全てが分かった気がした――
「いっぱい……ありがとうなぁ。アホみたいに頑張ってくれて、ほんま、今のあたし、胸が爆発しそうなくらい嬉しくて……ああ、なんや、その……あかんなぁ……正直、なんていうたらええか、分からへん。はは……てか、あんた、どんだけあたしのこと好きやねん。キモいわぁ」
「……トコ……」
「いっぱい……いっぱい頑張ってくれたのに……ごめんな」
「……ぁ……?」
トコはニャルに視線を向けて、
「なぁ、ニャル。あたしの命をやるから、サイゴを殺さんといてくれへんか?」
「っっっ!! トコォオ!!」
溢れ出る砦の怒気に、
トコは、
「全宇宙が嫉妬するオメガファンタスティック究極美少女のあたしを失う絶望は、よぉ分かるでぇ。辛いやろ。苦しいやろ。うん、分かるで、その気持ち」
精一杯、明るくそう言ってから、
「……だって」
背を向けたまま、左手を少し下げて、
彼の左手を掴むと、力なく俯き、
「おんなじやもん……一緒やもん……」
泣きそうな声を、必死に抑えつけ、
「あんたが死ぬところは見たぁない」
狂ったワガママで締めくくる。
ありえない暴挙。
時空が戦慄した。
天使の階段が苦笑いを浮かべている。
ニャルは、両手を広げ、天を仰ぎ、
「素晴らしいぃ! 最高だ! これほどの絶望は、そうそう見られるものじゃない! 薬宮トコ! ボクは、君に敬服する! 今の君は美しい! 今の君は最高に輝いている!!」
歓喜を全身で表現。
神が震える。
「こうなったら、封印されたって構わない! OKだ! 薬宮トコ! 神として、君の願いを完璧にかなえよう! 砦には、ボクの全魔力を賭して、自殺できない呪いもかけよう! これで砦は死ねない! 君の望みは完遂する! ははははは! 美しいぃ! 完璧だぁ! 愛する女を守るために200年を費やした男! その男の目の前で、それほどの愛を注がれた女が自ら命を絶つ! そして、その男は、死ぬこともできずに、この先、のうのうと生き続ける! 美しぃいいいいいいい!! これ以上の絶望があるか?! ない! これぞ、至高の絶望! 完璧だ! ああ、無上! 薬宮トコ、ボクは、君の死に対して、心の底から敬意を表する!」
恍惚がニャルを走らせる。
止まり方を忘れて前へ、
「薬宮トコ! 砦才悟の存命は、この! ニャルラトホテップの名にかけて誓おう! アリア・ギアス(魂の盟約)の誓いを望むなら、今すぐに血判を押そうじゃないか!」
「いらん。あんたは、とんでもないウソつきのクソ野郎やけど、何があっても、この約束だけは、絶対に守るから」
「その通りだ! 砦が死んだら、何も面白くない! いまや、彼の命こそが至宝! なんなら、彼の守護霊となり、永遠に彼を守っても構わない! ふ、ふははははは! あぁぁぁぁぁぁああああ、たぁぁのしぃいなぁああああ!!」
高らかに、詠うように、大声で笑ってから、
「さあ! 薬宮トコ! ショータイムだ! 彼に、君の死に様を魅せつけてやりたまえ! 今ここに! 究極の絶望が完成する!」
トコは、再度、砦と向かい合い、
「ホンマにゴメンな……でも……守りたいんや。ワガママなんは分かっとるよ。けど、嫌なもんは嫌や。きっと、冷静な第三者の視点で見たら、あたしの行動は間違っとんのやろう。アホやないんやから、そんくらい分かっとる。ぁあ、わかっとるよ。けど、どうでもええ。知らん誰かの意見なんか知ったこっちゃない」




