51話 オメガバスティオン。
51話 オメガバスティオン。
発した言葉が鋭利に尖る。
空気に触れて、酸化して、
だから、確かに、ニャルへと届く。
「立っているだけ、だけれどもね」
そう言うと、ニャルは、両手を砦に向けて、
「せめて、芸術的な力で消してあげる。これは、ボクの実験に付き合ってくれた君に対するご褒美だから、信じてもいいよ」
「終わりじゃねぇ……まだ、終わりじゃねぇ」
「ぁれ、君……本気でまだ抗う気でいない? はっ。ぇ、マジ? うわ、マジじゃん。ははははははははは! ぃや、凄いね。変身も解けて、魔力もほとんど零――だってのに君、強がりとかじゃなく、マジで、まだ薬宮を救おうとしているじゃないか。ふはっ。もう、ここまできたら、その執着はコズミックホラーとも言えるね」
心の底から楽しそうに笑うと、
「楽しかったよ。砦才悟。君は、確かに、辿り着いていた」
一度、深く頷いてから、両手に魔力を凝縮していく。
「君の事は、きっと、200年くらい忘れないだろう。――ん? 短すぎるって? そんな一瞬で忘れるなんてあんまりだって? あはは。ごめんね。ボク、記憶力には自信がなくてさぁ。あっはっは」
最後の軽口。
幕引きの言葉。
そして、
「ばいばい、砦才悟。本当に楽しかった」
収束が終わる。
「――無限調和・祖となる神の異次元砲――」
放たれた怪光線は場違いなほど優美だった。
瀟洒な魔力波の照射。
音が消えた。
比例して波動が軽くなる。
認知の地平面が飲み込まれていく。
創造と原始の対極。
混沌と調和した空間そのものが、砦の全てを終わらせようと神々しく煌めく。
――この極限状態にあっても、砦に『死の恐怖』は皆無。
いや、その概念が頭をカスらなかったわけではない。
ただ、それは『死にたくない』という諦観や絶望ではなく、
『どうすれば、最後までトコの盾であり続けられるか』
という本気の奮闘によるスパイクトレイン。
「見えた……見えたぞぉおお!!!」
最後の最後で、砦は届いた。
感情の鎖を自力で引き千切る。
運命を冒涜して、法則を穢した。
連鎖する同時発火が、記号化を省略して、一本の線に繋がる。
生命神経のフルダイブ。
つまりは、一目惚れよりも極まって単純な、
常軌を侮辱する、火事場のクソ馬鹿力。
――キィイイン!!
魅せたのは、神々でも呆れるような、ふざけた奇跡。
ニャルの照射の根源点に向けて、砦がイマジンナイフを突き刺し、
グルンと手首を回転させると、魔力の相殺が起きて、
怪光線は、ピチョンと水面が水滴を弾くような音をたてて消えた。
粒子が乱れて、調和された空間が色をはきだす。
「……ぇぇ、嘘ぉん」
ニャルは、呆れているというか、妙にしんどそうな顔をして、
「オッサンが手を貸した? ……いや、違うよね? ぇ、ぁの……今の、マジで、自力でやった?」
「ぶはぁ……はぁ、はぁ……」
脳を異常なレベルで酷使してしまった代償。
凄まじい疲労感に包まれている砦を見て、
「いやいやいや、混沌属性の神級魔波だよ? その核振動に、イマジンオーラを合わせて相殺させるって……ぃやいや、理論上不可能ではないけれど、そんなもん、200億年間、延々やり続けて、一回できるかどうかっていう量子論的な超低確率……なん……だけど……」




