5話 100週目スタート。
5話 100週目スタート。
take100
「ミレー、珍しいなぁ。あんたが遅刻してへんとか、どんな奇跡?」
「トコ。私は生まれてこの方、遅刻なんてしたことないわ」
教室の片隅で、
砦は、有象無象に紛れ、完璧なモブと化し、
彼女達の会話を聞き流しながら、
自分の机の上でノートを広げて、今後の計画について、細かく文章に起こしていた。
(まずは、今夜……『南雲 奈桜』のイベントだ)
サラサラと箇条書きで、イベント内容を記していく。
『南雲奈桜』
『今夜』
『奉仕種族に襲われる』
『GOOが召喚される』
『紅院たちが助ける』
(南雲が襲われるこのイベントは、最初の関門……)
これまでに何十回も経験した事なので、いつどこで何がどのように起こるか、その流れは全て完璧に把握している。
(もちろん、できるだけ、全員が生き残るよう努力するつもりだが、最悪の場合、トコ以外は切り捨てる。南雲は、最悪、邪魔だと判断できた時点で、俺がこの手で殺す……トコを助けるためなら、俺はなんでもする)
南雲奈桜は、クラスメイトだが、属性は限りなくモブ寄りであり、この時点では、紅院のグループに所属している訳ではない。
紅院たちと違い、携帯ドラゴンを召喚する事もできず、なんの背景もない。
ルックスは悪くないが、かなり甘く見て『上の下』が精々という一般女子。
……ただ、『生贄適正』が妙に高いため、
今後、頻繁に『奉仕種族』にさらわれる運命にある、なんとも可哀そうな女の子。
――ちなみに、神話生物のランクは次の通り。
『アウターゴッド』「神様。ほぼ無敵」
≪越えられない壁≪
『グレート・オールド・ワン』「通称、GOO。神の下僕。超強い。人間では勝てない」
≪↓アホほど劣る。↓ただの使い魔≪
『奉仕種族』「夜中の時空ヶ丘学園内で際限なく沸いてしまう、迷惑な化物。
一般人でも、銃器を使えば、ギリ殺せる。猛獣くらいの強さ。
封印されている神やGOOを解放する事だけが存在する理由」
(――今夜10時27分、トコたちが、奉仕種族に拉致られた南雲を助ける。諸々あって、11時15分、E級のGOOが召喚されてしまう。そのGOOとの戦いで、俺が戦力として参戦しない場合の誰かが死ぬ確率……10%)
紅院が二回。
トコが一回。
黒木が二回。
これまでの数十回のループ中――『これから起こる戦い』で、それだけ死んだ。
(出来れば、数時間前と同じく、何もかも、あらいざらいブチまけて、トコたちと一緒に行動し、トコを直接警護したいんだが……)
彼女に全てを話した方が諸々スムーズに事は進むだろう。
(しかし、それは出来ない。『半年後』に敢行する予定の最終決戦で、俺は確実に死ぬ。命を賭さなければ、最強の神であるヨグには敵わない)
そこで、砦は、フっと自嘲する。
(俺の死そのものは、どうでもいい。すでに、普通の人間の倍以上生きた。いまさら、人生に未練なんてない)
むしろ、『さっさと死にたい』とすら思うほど、『人生』に対して疲れ果てている。
(トコは、一見、性根が腐った人嫌い&自己愛の塊というサイコ女に見えるが、あれは、異常なほど繊細な心を隠すための歪な仮面。トコの優しさは生物として失格の域にある異常……ハッキリ言って、イカれてんじゃないかと思うほど、あいつは優しすぎる。『自分を守るために俺が200年を費やし、あげくこれから死を前提とした闘いに身を投じようとしている』と知れば、あいつは、確実に、自殺という道を選び、俺を生かそうとするだろう)
トコがそんな女だから、砦は、200年も闘う事ができた。
……できてしまった。
(トコの優しさはキ○ガイ級。だから、俺は、トコが知らない所で、ひっそりと戦い、ひっそりと死ぬと決めた。この選択が、俺を含め、誰にとっても最良)
――いつのまにか薬宮トコの呪いは解けていました。理由は分かりませんが、ああ、良かった、良かった。めでたし、めでたし。ちゃん、ちゃん。
(これがベスト。トコは、俺の事など知らず生きていく。このエンディングこそが至高。トコにとっては勿論、俺にとっても完璧なラスト)
さらさらと、次々に、これからの半年間で起きる事を詳細に記していき、どこで何をすべきかを丁寧に記していく。
(感謝はいらない。喝采も、賛美も、何も、何も、何もいらない。もはや、ほんのわずかな愛情だって望みはしない)
狂気の領域に至った想い。
崩壊した精神。
砦の頭が完全にバグってしまった事を示す証。
(トコ……お前を助けられるのなら、俺は他に何も望まない)
サラサラと刻まれていく。
思い出の嵐。
全ての記憶が、鮮明に残っている。
百回も繰り返したのだ。
忘れる方が難しい。
(俺的には、他の誰が死のうと、トコさえ助かれば、それでオールオッケー……なのだが、トコ視点でのトゥルーエンドは、やはり、俺以外の全員が生き残る事)
薬宮トコにとって、紅院は大事な家族であり、黒木と茶柱は無二の親友。
(俺以外の全員を生き残らせる。その難易度は、本来、夢想する事さえ不敬なウルトラナイトメアモード。――だが、今の俺ならば不可能じゃない。まあ、あくまでも、不可能ではないというレベルでしかないが)
そこで、砦は、窓の外を眺める。
薄っぺらな雲が流れていく。
早朝の海に若草色を垂らしたような五月の色。
柔らかいのに冷たい花の薫り。
ツンデレな風が吹いていた。
(丁寧に行こう……この半年間で起こる事は熟知している。俺がつまらないミスさえしなければ、トコを完璧なエンディングに送り届けられるはずだ)
★
take15
――『砦と薬宮。2017年。三月。教室。夕暮れの放課後』
『呪いの強制発動まで、あと二カ月。それまでに自殺せなあかんのかぁ……ああ、死ぬん、イヤやなぁ』
『誰だって、そうだろ』
『でもなぁ……あたし、やっぱり、ミレーやサイゴが死ぬ所を見る方がイヤやねんなぁ』
『それは、誰でもそうという訳ではないな。少なくとも、オレは違う。仮に、紅院が死ぬ事でお前が助かるのであれば、オレは喜んで、あいつの頭を鈍器でぶん殴る』
『サイゴって、なんか若干、ミレーに冷たいよなぁ』
『前に説明しただろう。タイムリープする前のオレはカスだったから、あいつのオレに対する態度は、すげぇ悪かったんだよ。足手まといのゴミはいらねぇって感じで』
『しゃーないやん。ミレーは、高校入るちょっと前に、いきなり委員会のリーダーを押しつけられてもうて、それ以降、ずっとテンパってんねんから』
『理解はしている。中三の終わりに起こった大きな闘いで、委員会メンバーの大半が死んで、今のあいつは、すげぇ心細い状態にある……そんな事は、もう何週もしているから、百も承知。しかし、だからって、あいつに好感を持てる訳じゃない。ソレとコレは別ってヤツだ』
『ミレーは、あたしの家族なんや。できる限り、助けたってくれや。それに、最初の時はどうやったか知らんけど、今のミレーは、あんたにめっちゃ感謝してんねんで? この前、ミレーがあんたにあげたバレンタインのチョコとか、かなりのガチチョコやったし。あれにかかった金額、教えたろか? 笑うで? 総製作費2000万。チョコ一個作るんに、何でそんなかかんねん! って、思わず、ミレーの頭を思いっきりドツいてもうた』
『どうでもいい。他人からの感謝や愛情なんていらない。今の俺にとって、お前の生存以外に価値のある報酬など皆無。紅院も、黒木も、茶柱も、南雲も。全員、等しく、心底、どうでもいい』
『ゴリゴリのサイコパス発言やなぁ』
『オレが同じ二年を繰り返し続けているのは、お前を助けるため。もし、仮に、オレが死ぬ事でお前が助かるというのであれば、オレは喜んで、自分の頭を鈍器でぶん殴る』
『……さっきも言うたけど、今となっては、あたし……自分が死ぬより、あんたが死ぬんを見る方がイヤなんやからな?』




