48話 たかが200年程度で……
48話 たかが200年程度で……
――朧月華をふるい続けながらも、
その一連の様子を見ていた砦は、
「茶柱のヤツ……あれほどの領域に立っていたのか……200年も気付かなかった俺は本当にマヌケだな。つぅか、この時点だと、あいつ、神話狩りになって、まだ三年経ってねぇよな。あいつの根源的な存在値って俺より上なんじゃ……まあ、いいや。考えても悲しくなるだけだ。さて、それはそうと、ニャル。俺と戦いつつ、クルルーを支援しながら、となれば、流石に、神話狩り数人を呪縛し続けるのは厳しいか?」
「出来なくはないよ。ただ、リソースを割いてまで、あの女たちみたいなカスを止めるより、クルルーの強化に集中した方が楽だし、能率的かもって思っただけさ」
トコと黒木も後衛として、支援行動を開始する。
本領発揮。
前衛を得た今、彼女達は躍動する。
さらには火事場の馬鹿力も発揮。
それぞれに出来る最高のパフォーマンスを披露。
碧と紅の火花が舞い散る。
決して敵に隙を与えない計算されたフォーメーション。
罪華の『本気』がない状態でもウムルを追い詰めた事がある彼女達。
圧巻の連携に、クルルーはなすすべもなく、ただただ追い込まれていき、
「この私が……たったこれだけの戦力に……負けるのか……ぁあ………………美しい……っ」
――結末は呆気なかった。
本気を見せた罪華を中心とした総攻撃に耐えきれず、クルルーは無様に膝をつく。
その様を見て、ニャルは、ギリっと奥歯をかみしめて、
「うっそだろぉ! マジでぇ?! あんなゴミ女どもにクルルーがやられたぁ?!」
ニャルが、『心底呆れ果てた』とでも言いたげな悲痛の声で叫ぶ。
そんなニャルの顔面に朧月華をつきつけながら、
「どうした、ニャル……防御が荒くなっているぞ? お疲れか?」
「……ちっ」
「クルルーの強化に魔力を割きすぎたんじゃないか? 動きが緩慢になってきているぞ。防御するだけなら楽勝と言っていたくせに……ほれっ」
「ぬぉおお!!」
斬撃からの砲撃。
そのシンプルな連撃を直にくらい苦悶の表情を浮かべるニャル。
砦は、手を休めることなく、
「神の中の神? 序列二位? うたっていた割には……随分と弱いな。というより、俺が強くなりすぎたのか? まあ、なんでもいいが」
見下した口調で、ズタボロのニャルに、砦は続けて、
「まだ五分くらいは戦える。封印するだけなら、二秒もあれば充分。もう少し、ボコボコにさせてもらう。積年の恨みだ……しっかり受け取ってくれ」
「がはっ、ごほっ……はぁ……あっれれー、砦くんさぁ、ボコボコにして封印するだけでいいの? ボクのこと、殺したいんじゃなかったの?」
「まだ不完全な人間である俺とは違い、てめぇら真なるアウターゴッドに死は存在しない。そんな事くらい知っている」
「うわぁーお、モノ知りぃ。たっくさんお勉強したんだねぇ。えっと、何年くらいお勉強したんだっけぇ?」
「200年だ」
「はっ……ガキが」
ニャルは、そこで、小馬鹿にしたように笑い、
「たかが200年くらいで……ナメた口を利くな、ぼけぇ。こっちは銀河が生まれる前から存在してんだぞ」
「そりゃすげぇ。しかし、だからって、なんでもしていい訳じゃねぇだろ」
「道理だねぇ……けれど、道理ってのは、『人の行うべき正しい道』って意味なんだよね。つまり、神様には関係のない概念なのさ」
「……そりゃそうだ、ごもっとも」
そう言うと、砦は、懐にしまっておいたトラベゾヘドロンを取り出して、
「もうしばらくイジめた後で、こいつにお前を封じる。お前を呼び出すためだけの道具が、これからお前を囲う最強堅牢な『アリア・ギアス(月下の牢獄)』になる訳だ」
「おやおや……まさか、もう勝った気でいるのかな?」
「お前じゃ俺には勝てない」
「はっはっは」
ニャルは楽しそうに笑い、
「君の決め台詞、『俺の200年をナメるな』について少し聞きたい事があるんだけど、やっぱり、200年間戦ってきたというのは君にとって最大の自慢であり誇りなのかな?」
「ああ。俺には、それしかないからな。……で? それが?」
「なに、一言だけ言わせてもらいたいと思っただけさ。これは、君の言葉を引用して、からかっているとかじゃなく、ボクの本音だから、そのつもりで聞いてね」
そこで、ニャルは、ギロっと砦を睨みつけ、
「……ボクの、200『億』年をナメるなよ、人間!!」
よろよろしながら、ゆっくりと立ち上がり、右手を天に掲げると、
「幽界を結合し、結晶となりて、集え! 果てなき、災厄と狂気を、ニャルラトホテプの名のもとに祝福しようじゃないか!!」
集まっていく、無明の闇。
混沌の具現化。
概念の膨張。
謳うように輝きを増すコズミックホラー。
狂乱の讃美歌。
――ニャルの魔力がどんどん高まっていく。
膨らんでいく絶望は、宇宙的恐怖の結晶体。
「……砦才悟。生命の限界に辿り着いた者よ。創世神のフラグメントたるこのボクと出会えた事を、『祖』となる神々に感謝するといい。ボクは、這い寄る混沌、ニャルラトホテプ。永遠の闇に潜み、純粋で無垢なる破滅と絶望を愛した無貌の神」
膨れ上がるニャルの暴力。
まさしく神の力。
「言ったよねぇ……魔力が万全でさえあれば、君よりもボクの方が強いって……はは、そりゃ、そうだろう? だって、ボクは、脆弱な下等生物なんかじゃない、本物の……神様だからさぁああああ!」
ニャルの真の姿を目にして、砦の心に恐怖心が沸き起こる。
超越した狂気。
ガリガリとSAN値を削ってくる絶望のオーラ。
砦は、思わずつぶやく。
「この闇は……もしかして、お前のお遊びによって生まれた業か? ……人間の苦悩、絶望……身の破滅による狂気の渦……」
「そう……コスモゾーンに蓄積しておいた、ボクの手によって生成されしコズミックホラー。そのエッセンス。これだけ使えば、全力が出せる! もったいないけど、背に腹はかえられない! 全部使ってあげるよ! タイムリミットは、数十分が精々! けれど、はっ! 人間一匹を殺すくらい、それだけあれば充分さ!!」
発狂してもなんらおかしくない、
――そんな闇の奔流の中で、
砦はまっすぐに立っていた。
「……ニャル。お前は、どうしようもないクソ野郎だが、しかし、流石は神様。とんでもないオーラだ。敬服するぜ」
砦は朧月華を構え、
「最後の最後の最終決戦。……さあ、いくぞ、性悪の神様! 俺の200年で、てめぇの自由を殺す!!」




