44話 もう一つの転。
44話 もう一つの転。
「むぐ……ぅ……」
必死に声を出そうとしている。
必死に動こうとしている。
だが、指一本動かない。
「この場における君が、どれくらいのゴミか、よぉく理解できただろ? というわけで、騒がず、動かず、黙って、そこにいろ。君たちは、ただのゲスト。ただの観客。……紅院と黒木も動かないでね」
そこで、紅院が、
「……こ、これだけは聞かせてほしいのだけれど、あんたは、いったい誰なの?」
ニャルはニコっと笑い、両手を広げて、声高らかに、
「ようやく聞いてくれたね! さあ、とくと聞くがいい! このボクこそが! 破滅と絶望を愛した千なる異形、闇に潜みし無貌の神、這い寄る混沌、ニャルラトホテップさ」
そこで、砦が、
「……ニャル、やる前に一つ質問だ」
「ん、何かな?」
「お前、結局、俺で何がしたかったんだ?」
「答えてあげよう。ちょっとした実験だよ」
「実験ねぇ……どんな?」
「タイトルをつけるなら『人間は、アウターゴッドになれるかな?』だね」
砦の瞳に、チリっと黒褐色の炎が灯った。
「ボクが想定していたルートだと、take35前後くらいで、君はボクに踊らされていると気付き、ボクをどうにかしようとするのだけれど、到底かなわず、絶望の底に沈んじゃうんだ。そこに、ボクが、『例の話』を持ちかける」
『人をやめ、心を失い、完全なる異形になってでも、神を狩りたいかい?』
「君はボクと契約し、異形となる。その時、君の絶望は、君を神に押し上げるのか。数十年という、人間にとっては甚大な時間を積み重ねた末に出た答えが『理不尽な地獄』だった場合、その絶望は人の許容量を超えるだろう。極限を超えた絶望は、果たして、人を神にしうるのか……そういう実験だったのに……」
「……」
「君は、『理不尽な絶望』を『自力』で乗り越え、勝手に『人を超越した領域』に至ってしまった。実験は、とっくの昔に破綻している。だから、さっさと終わって欲しかったんだけど、君ってば、本当に、いつまで経っても気付か……」
そこで、ニャルは、顎に手を当てた。
「あれ? んー、なら、さっきは、なんで、あんなにアッサリとボクに……」
んー、んー、と唸り、
「人間という下等種は、よほどのバカなのだろう……としか思っていなかったけれど、さっきは、すぐに辿り着いた……となると……おいおい、まさか……」
急に、ブツブツと呟いたかと思うと、砦に向けて、バっと右手を掲げた。
警戒して戦闘態勢に入る砦。だが、攻撃の兆しはなく、
「や、やはり……『アリア・ギアス(彷徨う制約)』がかかっていやがる……この旋律……間違いなくヨグの波形……だが、なんのため? ……いや、決まっている。確実にボクを封印するため……ぁ、あのオッサン、ボクの実験を、逆に利用しやがった……」
そこで、ニャルは、右手の人差指を、こめかみに当てて、
「聞こえるか、ジジィ。……この老害が……ナメたマネしやがって」
『クソガキぃ……よくも、オレの鍵を盗みやがったな』
「死ぬほどあんだから、100本くらい別にいいだろうが。あと、そんなに大事なものなら、もっと時空門のセキュリティを上げておくんだな。簡単に盗めたぞ、はっ!」
『ガキがぁ……好き勝手できたのも今日までだ。ボコボコにされて、封印されやがれ』
「あぁぁぁあああああん?!! ジジィ、ごらぁ……まさか! この! おれ様が! 人間如きに負けると! 本気で思ってんのかぁぁ?!」
『負ける。勝てる訳がない。お前は今日までの『お遊び』で魔力を使いすぎた。そんな、ほぼ空っぽの状態で、砦とまともに闘う事などできる訳がない。お前は、今日、終わる』
「はっ……ナメんなよ。砦とてめぇの戦いはキッチリと見させてもらった。確かに、想定を超えて強くはなったが、所詮、脆弱な下等種族。限界に辿り着いたと言ってもタカが知れている」
そこで、ニャルは、
すぅ、はぁ、と深呼吸をしてから、
ニタっと微笑み、
砦を見つめる。
身内との会話では明らかに崩れていた神としての体裁――キャラ作りを、しっかり整え、
「砦才悟。種の限界に届いた者よ。君に、神の力……ボクという神の偉大さを見せてあげるよ。ふふ、人間と本気で殺しあうとか、ワクワクしてきた。なんだか、とっても、たーのしーなー」
そう宣言すると、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、薬宮トコの体がフワっと浮かび、紅院たちの近くまで運ばれる。
「薬宮トコと、それ以外の連中……マジで普通に邪魔だから、全員、そこから動かないでね」
ニャルは、さらに追加で、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、彼女達を守るように、ドーム型の魔法障壁が現れる。
「これで、あの子たちにボクらの攻撃は当たらない。意味わかる? 攻撃が逸れたからって『庇ったりすんなよ』って言っているんだよ。そんなのを負けた理由・言い訳にされちゃあ敵わない。君は、ただただ実力で、ボクに負けるんだ」
ニタニタしているニャルを強い目で睨みつけながら、
砦は、
「……トランスフォーム。モード・アウターゴッド/レベル10」
「ははは。しょっぱなから、フルスロットルじゃないか。さあ、待っていてあげるから、システムやドライブを、どんどん使って、もりもりと自分を強化してくれ」
「とことんナメくさってくれるな……ニャル」
「何をしても無駄だという事を、初手から教えてあげたいだけさ。コア融合すらできない、初期OSの魔皇ドライブに無改造のカオスインフィニッター。挙句の果ては、コードも神式も組み込まれていないバージョン1のシステムやユニット。くく、所詮、人間の限界。ヌルい、ヌルい。お粗末なバフをいくら積んだところで話にならない! それがボクの高みなのさ」
「そうか……じゃあ、遠慮なく」
すぅうっと大きく息を吸ってから、
「……アルティメット・オメガトランスフォーム!! モード・アウターゴッド/レベル17!! ルミナス‐コア融合!! GX夢幻魔皇ドライブ起動!! 全リミッター、強制解除!!!!!」
「へ?」
「 カオスインフィニッターMRカスタム【レゾナンス/改X】クリアランスUV。
――『朧月華』―― 接続!!! 」
砦の存在値が跳ねあがる。
全て、惜しみなく、限界突破状態でフル投入していく。
胸部で眩しく輝く、白銀のGQCコアが、無尽蔵のエネルギーを生成し、ドクドクと駆動ラインに流し込んでいく。
肉体にフィットしたメカニカルドラゴンフレームを荒々しく包み込む黄金のフォトンは、限界を超えた稼働率を実現するIS流式半永久回路。
朧月華と銘打たれた両腕のガンブレイドは、火力のみを追求して魔改造された、荒々しい殺意の象徴。
最適化されてスタイリッシュに仕上がっている龍化外骨格とは面白いほど対照的。
ただただ無骨に、自身の凶悪性だけを惜しみなくアピールしている生への冒涜。
メタリックな死色の花びらが幻想的に舞う。
その禍々しい姿を見て、ニャルは目を見開いた。頬を冷や汗が伝っていく。
「あれ、ちょっと待って。なに、それ――」




