42話 都合。
42話 都合。
「どう考えてもおかしい。そもそも、ハッキリと大音量で『万能』の神様やぁ言うてんのに星の破壊しか出来へんってのも妙やないか?」
「いや、それは……おそらく、封印のされ方の問題だろうと思うが――」
「おそらく? だろう? その辺の事、魔道書には明記されてへんかったん?」
「……あぁ」
「あたしなぁ、実は、何よりソコが気になってん。前から思とってんけど、魔道書って、なんや大事な所が大体ぬけとるよな? ぬけとるというか、大概の事が、『アリア・ギアス』って言うとったらなんとかなるみたいな感じで、ぬるっとごまかしとるやろ。それにしては、ヨグの召喚はキャンセル不可とか、変に、こっちにとって不都合な事だけは細かく書いとったりなぁ」
一つ一つを抜き出して揃えて晒してみれば、そこには、典型的な詐欺の特徴が並んでいた。
典型的かつ特徴的であるがゆえ、精緻に散りばめられてしまうと、綺麗にごまかされてしまう悪意。
――そんなもんに騙される訳ないだろ。
騙される前は、世界中の被害者が同じ事を思っている。
例外はない。
「あと、銀の鍵の設定も、なんか、色々と妙やない? この宇宙が生まれるより前から存在しとって、無限という膨大な時間の枠外で生きとるアウターゴッドからしたら、二年なんて、あたしらの感覚で言う所のコンマ数秒以下やろ。そんだけの時間しか戻せんようなゴミアイテムを、万能で最強の神様が作るかなぁ? そんなん、なんの意味があんのって話やん」
そこで、砦は天井を仰いだ。
目線で木目をなぞりながら、
「銀の鍵に関する違和感は俺にもあった。……二年という、戻せる時間の妙な短さは、確かに……いや、ループリミットだけじゃないな。改めて考えてみれば、ニャルが盗んだ本数もどこか妙だ。計200年という時間は、不自然なほど絶妙……」
人の心とは繊細なもの。
特に長期的なモチベーションのコントロールは非常に難しい。
「仮に、猶予が、10年×100本の1000年や、100年×10000本の100万年なんかだったとしたら、そのあまりの途方の無さに、俺の心も、流石に途中で折れていただろう」
納期や締め切りというものは、短すぎれば当然話にならないが、
かといって、実際の話、イタズラに長ければ良いというものでもない。
『どれほどの長期間であろうと、永遠に折れずに戦い続けることができる化け物』も、探せば、どこかにいるのかもしれないが……少なくとも、『今の砦』はそうじゃない。
「2年×100本……200年というゴールがあったから、俺は完走できた。2年という区切り。100本という明確な目安。俺の精神的リミットにピッタリ一致。……少し……出来すぎていないか……?」
創作・勉強・スポーツ・建築、エトセトラ、
なんにでも共通して言える事だが、
成し遂げるために最も大事なのは、適切な目標の設定。
そういう意味で、200年は、あまりにも、砦にとって丁度よすぎた。
都合が良すぎたと言ってもいい。
――トコが、そこで、
「ぁ、もう一個、疑問が沸いた」
「まだあるのか? なんだ?」
「そもそも、ヨグに関する情報って誰が見つけられるん? 召喚してもうたら星が破壊されるんやろ? ほな、誰も、ヨグの情報なんか得られんやん」
「精神寄生という手段があるから、それで情報を集める手段も無くは無いと――」
「ほな、もっと、そもそもの前提に対する疑問なんやけど、召喚方法って誰が見つけたん? あの、妙な魔道書を書いたんって誰? 神様の召喚方法って、呪文とか魔法陣とか、一々複雑やけど、あんなもん自力で見つけられる訳なくない?」
「ヨグが、シュブを召喚した時のように、配下の人面虫やGOOを現世に召喚するなどして、やつら自身が、情報を漏らす事もあるから……」
「シュブが召喚されたあの状況、相当なレアケースやろ? あんな経験を、『本にまとめられるほど積んだ奴』がおるとは思えへんねんけど。ちなみに、あんた、書けんの? 200年も神話生物と関わってきた、神様に対する知識がハンパない砦才悟はん」
「書ける……訳がねぇ……」
『当たり前』だと勝手に思い込んで目をそらしてきた死角――その違和感が、
「ただ、『同族』やったらなんぼでも書けるわなぁ」
繋がって、収束していく。
辿り着いてみれば、あまりにもバカバカしい、極めてシンプルな解答。
「たとえば、そう……『封印されていないアウターゴッド』とか」
「……デスノート……」
砦はつい、ボソっとそう呟いた。
――魔道書に書かれているルールに、『意図的な嘘』がまぎれていたら――
「呪いは、基本的に、術者が強力であればあるほど解呪が難しくなる……ほな、あたしの呪いが解けへん理由も、もしかしたら実は単純で……罪華がかけたからやないんやない? もし、この推測が正しいなら、砦才悟というアウターゴッドクラスの超人でも解く事ができへんという前提が、明確な答えを示しとるよなぁ」
「ぁ、あの野郎ぉ……」
ギリギリと奥歯をかみしめながら、
砦は、ルナに命じて、輝くトラペゾヘドロンを吐きださせる。
宙で掴みとった多面体を、憎々しい顔で睨みつけ、
「……出てこい、くそぼけ……」
その直後、
「遅いよぉ……」
出現したのは、タイトなダークスーツの上に黒いドクターコートを羽織った、三十代後半に見える黒肌の男。
その上から下まで真っ黒な中年は、心底しんどそうな表情を浮かべて溜息をついた。
艶のある黒髪をガシガシとかきあげながら、ベッドに腰をかけて、
「遅すぎるってぇ……ほんと、気付くのに、どんだけかかるのぉ? あんなに、いっぱいヒントを残してあげたのに、君ったら、全然気付かないんだもぉん。ほんと、君を選んで後悔しているよぉ。take50以降は、ストイックに黙々と、デバイス(ルナ)の強化しかやらなくなって……クソつまんなかったぁ。もう、ぶっちゃけ、ボク、take52以降は見てなかったもん。他の事をして遊んでいたよ」




