41話 ひっかかり。
41話 ひっかかり。
虹色の円錐が霧散した数秒後、放心状態から復活したトコが、
「まさか、ナオが人間やなかったとはなぁ……」
「……人間のフリをしている神話生物なんか珍しくもない。ニャルは、医者や科学者のフリをして遊んでいるし、俺らのクラス担任の小場だって神話生物だしなぁ」
「え、そうなん?!」
「ヤマンバの血が八分の一ほど入っている人間とのミックスだ。ちょっと力が強いだけで、ほぼ人間だし、人間に対する害意もないから、あれは放っておいていいけどな」
「ふぅん……神話生物って、実は、あっちこっちにおんねんなぁ。……大丈夫か、地球」
「時空ヶ丘に沸く奉仕種族以外は、だいたい穏健派だ。たまにヤバい思想を持ったヤツも沸く事はあるが、地球上だと、龍脈が集中している時空ヶ丘以外では、GOO以上の召喚なんかは出来ないから、放っておいていい。そんな事より、あいつの言っていた事が問題だ」
「……『地球が大丈夫かどうか』が『そんな事』扱いか……どんだけ豪胆やねん」
「違和感……引っかかり……」
「あぁ、それなんやけどなぁ、サイゴ。実はなぁ、さっき、あんたから色々と教えてもらった時に、二つほど『なんか変やな』って思った事があんねんけど……」
「本当か? ……どんな?」
「まず、ツミカが、あたしに呪いをかけるとか、ありえへんと思うねん」
「それは説明をしただろう。茶柱は、自分の弟がお前に――」
「ああ、そういう意味やないねん。あいつがあたしに復讐するはずないって話やなくて、復讐という発想自体が、あまりにも、ツミカらしくないって話や」
「そうか? 俺はむしろ、頭がおかしい茶柱らしい、まっすぐにイカれた行動だと思ったが」
「200年も一緒におった割には、あんた、あのアホの事、あんまり理解できてへんな」
「それは……そうかもしれない。200年を共にしたと言っても、あいつとはほとんど話さなかったからなぁ……というか、まともな会話にならなかったから、あいつが、実際、どういう人間か、結局、イマイチ理解できなかった……」
「あいつは、常にテンションを間違えとるドアホやけど、ホンマもんのキ○ガイやない。弟が死んで悲しいなら、その悲しみを拭い去る適切な方法を考えるはず。少なくとも、あたしにアウターゴッド召喚の呪いをかけるとか、そんな訳わからん事はせぇへん。あいつなら……そうやな……蘇生方法を探すはずや」
そこで、『ウムルとの戦い』が、二人の頭をよぎった。
ウムルの背後に控えていた9匹の内3匹は蘇生魔法が使えた。
「いや、蘇生魔法は、そもそも難易度が高い上、蘇生対象の生命エネルギーを大量に消費する。バカみたいに生命エネルギーが多いGOOの蘇生なら不可能ではないが、人間を蘇生させる事は――」
「アウターゴッドクラスの蘇生魔法でも無理なん? 魔法って、高位になればなるほど、メリットが増して、デメリットが減るやん。たとえば、あんたやミレーが使えるトランスフォームとかドライブとか分かりやすい。ランクが上がれば上がるほど、使える時間は増えて、体にかかる負担とか反動とかが減って、さらに強化値が増える。ヨグに、地球の破壊やなく、最高位の蘇生魔法を頼めば、人間の子供でもデメリットなしで生き返らせられる可能性も――」
「神は、こっちの言う事を素直に聞いてくれるような存在じゃない。『エイボンの書』によると……ああ、ヨグの召喚について書かれている本なんだが、そのエイボンの書によると、ヨグに頼めるのは『星の消滅』だけで――」
「ヨグは無理。OK。けど、ほな、ヨグやなく、蘇生の願いを聞いてくれるアウターゴッドを召喚したらええだけやん」
「エイボンの書に、蘇生の願いをかなえてくれるアウターゴッドの詳細は――」
「書かれてなかったんやったら、必要な情報が書かれた魔道書を探せばええだけちゃう? あたしが、毎晩、アホみたいに必死こいて『呪いを解く方法』を探しとるんは、この学園内のあちこちに、人知を超えたアイテムが隠されとるからで、その事を、ツミカも当然知っとる」
「なかったんだ。蘇生の願いを叶えてくれるアウターゴッドは存在しない。蘇生機能を積めるアイテムもなかった。だからこそ、俺は、過去に記憶を飛ばすという手段しか――」
「あんたが知らんのはええ。200年探してきたんやから。多分、時空ヶ丘には、人間を蘇生できるアイテムはないんやろう。けど、ツミカは? あいつは200年探したんか? 言うとくけど、あいつが神話狩りになってから、まだ三年経ってへんのやからな? あのアホ、三年未満で、このクソ広い学校を探索し尽くしたん? 凄いな。初めて、あのアホを尊敬したわ。ぃや、待てよ……あたしが呪いをかけられたん、二年ちょっと前やから、ツミカがこの学園の探索に費やせた時間は、実質、半年ちょいやな。みじかっ。もし、半年で探索し尽くせんねやったら、あんた、200年も何やってたん? 随分、のんびりと探索してたんやねぇ。んな、アホなっ」
「……」
――そこで、砦は考え込む。
『なぜトコに呪いをかけたのか』に関する茶柱とのやり取りは、
当然、砦の記憶に残っている。茶柱罪華の回答を、砦は今でもハッキリと覚えている。
『ユウキは私が知る限り、もっともまともな人間だった。その人間を容赦なく殺した、この世界が許せないと心底思った。だから、全部なくなっちゃえばいいのにって神様に願った……それだけ』
(あの時、俺は、茶柱の『壊れ方』を理解した気になった。もともと壊れた人間が、さらに壊れたのだから、何をしてもおかしくはないと、勝手に茶柱を量った。……だが、思い出してみれば、あの時、トコたちは、『得体の知れない何か』を見ているような顔をしていた……あの顔は、もしかして、友人の性癖や奇行そのものに引いていたのではなく、茶柱罪華がそんな思考に至る訳がないという、違和感を表した顔だったのか?)
当時、砦は、茶柱の動機について、深く追求しなかった。
理由は多々あるが、一番は、やはり、純粋な嫌悪感。
砦は、彼女という存在そのものに対し、心底からの『気持ち悪さ』を感じてしまった。
世界に対する潔癖な感情論と、
普段の彼女が徹底している毒々しいほどの天真爛漫さは、
砦にとって、あまりにも食い合わせが悪すぎた。
不良が雨の中で犬を拾っているのを見た時のギャップ……その対極にある感情とでも言おうか。
「もう一つの疑問についても話しとこか……まず、前提として、『呪い』って、術者の力量によって解呪が難しくなるもんやん?」
「そうだな」
「ほな、なんであたしの呪いって解けへんの? 罪華よりも圧倒的に強いあんたなら、罪華がかけた呪いくらい秒で解けるんとちゃうの?」
「それについては、エイボンの書に、シッカリと記載されている。ヨグの召喚は『運命のアリア・ギアス(狂気の干渉式)』で統制されているからキャンセルは出来ないらしい」
「絶対にキャンセルできんって明確に分かっとんの? 益々おかしいやん。もし、ヨグが強制召喚されるまでの間に、ユウキを蘇生させる方法を見つけたらどないするん?」
「どうすると言われても、俺は茶柱ではないから、答えようが……」




