4話 神殺し。
4話 神殺し。
「なるほど。人という種が辿りつける限界には達しているようだ。ふむ……いいだろう。暇つぶしに、少しだけ遊んでやろうじゃないか」
虹色に輝くローブを纏った美青年のスピリチュアルボディが、強大なオーラを発しはじめる。
輝くほどに、ヨグの闇が深くなっていく。
「さあ、くるがいい。神の高みを教えてやろう」
開始の合図もなく、砦は主導権を握ろうと飛び出した。
そんな砦を優雅に迎え撃つ虹の闇。
残像だけが、認知の領域内に深い傷跡をつけていく。
人の目では追えない知覚の地平面。
空間を駆ける二つの破壊神。
炸裂し、弾けて、破砕する。
断絶の重複。
色彩を超越した幻想。
美しく儚い『仄かな一瞬』が世界を満たしていく。
命が輝く。
「がはぁああ!!」
甘すぎた読みの代償として吹っ飛ばされた際、
砦の体は、偶然にも、自分のクラスに突っ込んだ。
窓と壁を豪快にブチ破っての、ちょいとダイナミックが過ぎるお邪魔します。
ケガ人多数。
半壊した教室内部は大混乱。
紅院「はぁ?! どういう状況? って、その格好、まさかトランス――」
黒木「な、な、なんですか、一体? えぇ?!」
茶柱「ほにゃ?」
「き、君は……と、砦くん?! 君、一体、何を――」
今まさにホームルームをしていた担任教師・小場の驚いている顔。
クラスメイト達の驚愕。
紅院達の唖然とした顔。
無論、今の砦に、そんなものを気にしている余裕はなかった。
「流石だぜ、神様! 強ぇ、強ぇ!!」
砦は、ナイトメア・ユニットに魔力を注ぐ。
背中に浮かぶ闇色の翼が、
不浄なる銀と気品なき紫の輝きを放ち始め、
砦の体をフワっと浮かせてみせた。
「SEファイル/メトス:インサニティ・コール! ルナ! 『今』のお前に出来る全てを! 俺にくれ!!」
粉塵をあげて飛び出す砦。
暴力が昇華されていく。
万雷の拍手が聞こえてきた。
非線形の幾何が踊っている。
七色の万華鏡。
轟き、舞い上がる。
神殺しの兵器。
淡い殺戮の戯画。
狂気を纏いて踊り猛る、月光の龍を駆りし『砦才悟』と、
神々の頂点に君臨する、万能なる時空の王『ヨグ=ソトース』。
螺旋状の巨大な衝撃波を撒き散らしながら加速して、次元の断層を擦り減らす。
重なった乱解が世界を無遠慮に切り裂いた、その時、
「――よく頑張った」
ふいに、ヨグが、ニっと微笑み、
「素晴らしい力だったぞ、人間。名前を聞いておこう」
「砦才悟! 貴様を、理へと還す者だ!」
「人の限界に達した者、砦才悟よ。我が名を聞くがいい。我こそが万能なる時空の王、ヨグ=ソトース。全にして一、一にして全なる者。つまりは真理そのもの! 神々の頂点!」
ヨグの名乗りを聞いてから、
砦は、飛空ユニットに大量の魔力をブチ込んで天高く舞い上がった。
その勢いのまま、二丁のカオスインフィニッターを合体させる!
瞬間、ガチャガチャっと巨大な剣へと変形!
神を殺す剣。
その覚悟そのものを、大きく振りかぶり、叫ぶ!!
「これが、俺の200年だ!! 行くぞ! SEファイル/アンサー:コズミックコール!!!」
『CK‐承認。P32/SSSインストール。3、2、1……マニューバー解放。コールを』
「――アダム・エトワール・ベータ――」
音声入力で発動するマキシマムブーストスキル。
『了。リリース』という、簡素な音声ガイドアナウンスの直後、
刀身が、創世を想起させる耀きを放つ。
神を殺すために磨いてきた罪深き一撃。
次元ごと切り裂く――
――神殺剣。
一瞬、すべての音が遠慮して、
不完全な白黒がチカチカして、
そんな、
限りなく認識の限界点に近い一撃――
それほどの斬撃を受けたヨグは、
「……美しい……」
微笑み、呟いた。
形而の特異点にも届きうる神殺しの一撃を、
万能なる時空の王ヨグ=ソトースは、
涼やかに、片手だけで受け止めていた。
「素晴らしい一撃だった。貴様の根源的コアが、人間という脆弱種でなければ……もし、貴様の核が『人以上の何か』であれば、先の一撃は、私に届いていたやもしれんな」
極めて穏やかに、諭すかの如き柔らかさで、ヨグはそう言った。
そんなヨグを、しかし、全く折れていない目で睨みつけたまま、砦は、
「……大体、分かった」
カオスインフィニッターを手放し、ボソっと、
「コアオーラは、王次元と耀羅のダブル。ビルドは、オール完全耐性持ちで、万能系のワイルド。アリア・ギアス(不退転の自縛)による魔力制御と干渉率も解析完了。概ね、予想通り。――いける。これなら、いける」
「……はぁ?」
「ロケハン(下調べ)終了だ。ギリギリだが、勝てる……結局、『トラペゾ』を使わざるをえないってのは、正直、無念だが、俺が何もかもを諦めれば、この絶望を殺せる」
「……貴様は、何を……最初からずっと――」
そこで、砦は、懐から、『銀色の鍵』を取り出し、
「記念すべき、100回目の時間遡行だ。……はは……古今東西、ループモノのアニメやマンガは多々あるが。流石に、なかなか、いないぜ。自分の意志で、2年間を100回もやりなおすようなイカれた男は。まあ、今回だけは数時間で飛ぶ訳だが」
砦は、肺に大量の空気を送り込み、積み上げてきた覚悟の全てをブチ込んで叫ぶ。
「俺は、死んでもトコを守る! 絶対にトコを救ってみせる! トコを守るためなら、俺は、なんでもする! 最強の神だろうが何だろうが、この手で必ず殺してみせる!!」
★
take10
――『砦と薬宮』
『ウソだ! 何の解決策もないなんて! 薬宮さんが死ぬしかないなんて! こんなの、あんまりだ! こんな理不尽、あっていい訳がない!!』
『まあ、でも、逆に考えたら、あたし一人が死ぬだけで、人類滅亡を防げるんやから、不条理すぎる最悪って訳では無いやろ』
『人類なんてどうでもいい! 薬宮さんが死ぬのはイヤだ! 死んでほしくない! ぼく、ぼくは……あなたが――』
『ありがとな。そう言ってくれるヤツがおるってだけで救われる気がするわ。あたしが生きとった意味は確かにあったと思えるからなぁ』
『み、認めない……こんな結末、ぼくは絶対に認めない……絶対に死なさない!』
『吠えても、しゃーない。助かる方法はない。……まあ、でも、あたしかて、所詮はただの人間やから、当然いつかは死ぬ。結局のところは、遅いか早いかだけの話やて』
『ふ、ふざけるな……諦めないぞ……絶対に助けてやる。……ボクが……
――このオレが!
必ず、君を守る!! 絶対に死なせねぇええええええ!!』
★
take100
「――ふぅぅ」
深く息を吐きながら、砦才悟は上半身を起こした。
今回の跳躍では、心が壊れそうになる夢など見なかった。
「……下準備は全て終わった。後は収穫するだけだ」
ボソっと呟いてから、朝日が差し込む窓の外を睨みつける。
ここは、自室。
ぬくぬくと温かいベッド。
砦はベッドから起き上がり、机の上に置いてある袋に手を伸ばした。
「もう戻れない……」
袋の中をのぞくと、そこには何も入っていない。
百本もあった、この世で唯一、時空の門を超えられる貴重な鍵は、既に全て使い切ってしまった。
思わず袋の口を、ギュっと握りしめながら、
「正真正銘、最後の戦いだ……さあ、気合いを入れていこうか」




