39話 あたたかいなぁ。
39話 あたたかいなぁ。
「ああ、知っているさ。お前の、そのイカれっぷりは、つい恨んでしまうほど深く知っている。だから俺は必死こいてクズを熱演していたんだ。こうなる事が分かっていたから」
彼女の、このクソ鬱陶しさが、砦をここまで連れてきた。
しかし、だからこそ、ゆえに、砦は諦めない。
「トコ、本当に、分かってほしい。俺にとって、死は、むしろ望んでいる結果だと。だから、どうか頼む。俺が死んだからといって、悲しまないでくれ」
「……無茶、言うなや」
「頼む、トコ。俺は決して強がっている訳じゃない。生きたいのに死にたいと無理をしているわけじゃないんだ。お前が助かるなら、それでいいんだ。それ以外は、本当に、どうでもいいんだよ。マジで、この期におよんで生きたいだなんて欠片も思っちゃいないし、それに――」
と、そこで、トコは、黙って立ちあがり、
「ちょっ……と、トコ……何を……」
あぐらをかいている砦の膝の上に、向かい合う形で乗ってきた。
そして、砦をギュっと抱きしめる。
「ふざけんなよ、ほんまぁ。あんたが死んでもうたら……もう、あんたを抱きしめられへんやないけ、ぼけぇ」
陽だまりのような優しさが、穏やかに包みこんでくる。
柔らかいな……あたたかいなぁ……
こみあがってくる愛しさに、積み上げてきたモノ全てが、砕け散りそうになって、
「あんなぁ……あんたは、あたしを守るためだけに、200年間も必死に戦ってきてくれた男なんやで? そんな男の『あたしを守ろうと、命を張ってボロボロになっとる姿』を見せつけられて、あげく、『あたしを守りきれへんかもしれん』っていう、ただそれだけの理由で、枯れるんちゃうか心配になるほどボロボロと号泣しとる様を目の当たりにさせられて……それで、なんも思わん女は、流石に、そうそうおらへんと思うで。まあ、なんとも思わん女も、探せばどっかにおるんやろうけど……あたしはそうやない」
伝わってくる。
とっくに知っていると勘違いしていた、彼女の底知れないカルマ。
そして、誰よりも知っていると自惚れていた、彼女の――
「生き延びる方法、考えてみようや。一緒に生き残って、一緒に生きてみて……それでも死にたかったら、そん時、死んだらええ。普通に幸せになるルートがあってもええやないか。それをあえて拒絶する理由なんかないと思うで?」
無敵のワガママで、トコは、砦を追い詰める。
改めて、砦は、自分が誰に惚れたのかを自覚した。
「ちゃんと、ドストレートにカッコええ所を見せてぇな。ホンマの完璧なエンディングに連れてってぇや。そのための協力やったら、なんぼでもやったるから」
「……『最強の神様相手に、命を賭さずに勝ちなさい』って……バカかよ。そんなの、かぐや姫でも流石に自重するレベルの超無理難題だぞ」
「しゃーないやん。あたしって女は、並べたら、月の姫さえ霞んでまうほどの超絶美少女なんやから」
「……はっ……はは……ははは」
砦はうなだれて、かすれた笑い声を漏らした。
「ほんと、この女、頭おかしいぜ……バカで、自分勝手で、高飛車で、強欲で、頑固で、愛想なくて、口が悪くて、品がなくて、ナルシストで、人の言う事をまったく聞かねぇ……男に嫌われる要素てんこもりじゃねぇか……おまけに、ほとんどサイコパスときてんだから、マジで、いい所が一個もねぇ……」
「言いたい放題やな」
「そんな最低最悪のクソ女を……世界で一番愛している俺は……マジで救いようがねぇ」
砦は顎をあげた。
まっすぐにトコの目を見つめる。
体の奥底から、驚くほど、活力がわきあがってくる。
「それじゃあ、もがいてみようか……『これより下はない地獄』だった数分前よりも遥かにしんどい釜の底で、救いようがない宇宙一のバカ野郎らしく、とことんまでみっともなく」
「安心せぇ、サイゴ。ここから先の提供は、この究極美少女、薬宮トコとの二人三脚でお贈りする。こいつはもう既に勝ったみたいなもんやで。てか、もう勝ってるんとちゃう? そんな気しかせぇへんで?」
「深呼吸しろ。全力で気のせいだ。事態は最悪の一途しか辿ってねぇ――ちなみに言っておくと、俺がお前と一緒に『力を合わせて運命と戦ってきた回数』は合計すると20回を越えている訳だが、その全部で、お前、しっかり死んでいるからな」
「過去の事なんか、知ったこっちゃない」
「いや、お前視点だと未来の話になるんだが……」
★
take0
――『砦と南雲。2015年9月』
『……南雲さん、それ、もしかして本物?』
『う、うん。紅院さんにもらったの。ベレッタっていう名前の拳銃』
『へぇ……携帯ドラゴンで具現化できる銃と全然違うんだねぇ。うわ、重……本物の銃ってこんな感じなんだ……えっと、てか、なんで、こんなもの、貰ったの?』
『毎回助けるの面倒くさいから、今度からは、これで自衛しろって』
『は、はは……』
『私……こんなの使えないよぉ……』
『だろうねぇ。あのキチ……紅院さんは、相変わらず、無茶ばかり言う……』
『と、砦くん……お願い……もしもの時は、守って……お願い』
『ぼくがゴミだってことくらい、君も知っているだろ? 中学の時から戦い続けてきた紅院さん達と違って、ぼくは、つい最近、携帯ドラゴンを召喚できるようになったばかりのペーペーなんだ。奉仕種族が相手なら、流石にまあ、なんとかなるけど、GOOが相手だと最下級でも裸足で逃げだす事しかできない』
『でも、トコちゃんの話だと、砦くんは携帯ドラゴンを扱う才能があるって……』
『薬宮さんが言うんだから、ぼくには才能的なものが、なくはないのかもね。けど、武器を扱う才能があったからって、戦場で英雄になれる訳じゃないだろ? 君だって、今、人を殺せる道具を持っている訳だけれど、悪漢に襲われた時、それで完璧な自衛ができる?』
『……』
『できるだけ守ってあげたいとは思うけれど、ぼくなんて所詮はゴミだから、ヒーロー的な活躍を期待されても困るよ』
『砦くんは、ヒーローになりたいとは思わないの?』
『ははっ。思う訳がないよ。ゲームとアニメだけが友達の、ヘタレ泣き虫でクソボッチなこのぼくがヒーロー? 冗談にもならないね』
『でも、砦くん……トコちゃんの事好きだよね?』
『な、な、な、な、な、なにを!』
『……そういう、しょうもない反応はいいから。見てれば分かるって』
『す、好きとかどうとか、そんな畏れ多い事は考えてないよ。ただ、尋常じゃなく可愛いなぁって思っているだけで、それに、何度も守ってもらって感謝もしているし……そういう意味で、尊敬させていただいているって感じで……ぼ、ぼくなんかが――』
『そんな可愛いトコちゃんを守るためにヒーローにならなきゃ、とかも、一切思わない?』
『……守ってもらってばかりなのは申し訳ないって思うよ。正直にいえば、アニメのイケメン主人公みたいに、カッコよく彼女を守るシーンを妄想する事はよくある。迫りくる敵を、シュバシュバァって一刀両断して、そして彼女から言われるんだ。【砦、助かった、ありがとう。あんたは私のヒーローや】みたいな……そういう楽しい夢想にふけるのは、ぶっちゃけちゃえば、ほとんど日課みたいなものさ……けど、それは決して現実にはならない。彼女の方が圧倒的に強いし、ぼくは、ご覧の有様だし、それに――』
『トコちゃんや美麗ちゃんは、砦くんがヒーローになる事を期待しているんじゃないかな。砦くんは、今の委員会では、唯一の男子な訳だし……』
『今の時代は男女平等。むしろ、女性の方が強いまである。……てか、あの紅院さんがぼく如きに期待なんてする訳ないじゃん。携帯ドラゴンを召喚できなくても、紅院さんの強さくらいは分かるでしょ? あの人は、マジでヤバいんだよ? トランスフォームとか、ドライブとかっていう、超かっこいい技がたくさん使えてさぁ。文字通りアニメの主役みたいに、GOO相手でも勇猛果敢に立ち向かえるっていう凄い人なんだ。薬宮さんだって、変身はできないけど、超性能のシステムが使えて、超かっこよくて……ほんと……ぼくみたいなゴミとは……全然違う世界の住人で……』
『憧れては……いるんだね』
『あぁいう風に成れたらなぁって、思わない訳じゃないよ。でも、ぼくの現実はコレだもん。なんにもできない、ただのお荷物。ルナはすごく可愛いくて大好きだけど、ぶっちゃけ引くくらい弱いし、ぼく自身は、今までケンカの一つもしたことない、しなびたモヤシだし……』
『よくよく考えてみると、砦くんって、ほんと酷いかも……』
『ぅ、うるさいよ! 南雲さんなんて、携帯ドラゴンの召喚さえできない足手まとい以下じゃないか!』
『あのねぇ、砦くん。言っておくけど、仮に携帯ドラゴンを召喚できたとしても、私、バケモノと戦うとかできないから! さっき砦くんが言っていた通り、どんなに優れた武器を持っていようが、敵を前にしたら何も出来ずに気絶するまでがワンパッケージ! それが私、南雲奈桜クオリティなの!』
『なんで、それほど極まって情けない事を、そうも誇らしげに?!』




