38話 主人公に会えたら伝えておくよ。
38話 主人公に会えたら伝えておくよ。
『そうですね……トコさんは、普段の言動や態度からは想像もできませんが、根っこは、とても優しい人です。というより、普段のハチャメチャな偽悪的態度は、一個の生物として失格なほど優し過ぎる自分を隠すためのATフィールドなんですよね』
『生物として失格なほど……ははっ。的確な表現だぜ。あのバカ女だけは、本当、完全に狂っていて、なんというか――』
『でも、だからこそ、あなたほどの男にそこまで愛されている』
『……俺ほど、って……はっ。俺がナンボのもんだってんだ。ここにいるのは、クソの役にも立たなかった、ただのヘタレ泣き虫だ』
『私はトコさんがうらやましい。あなたに出会うまで、私は一度として、他者をうらやんだ事がありません。私という人間は、私という人間の内面世界で完成しているという自負があったからです。でも、今は違います。今の私は……ただただ、あの子に嫉妬している』
『確かに、うらやましい要素だらけだよな。親がいなくて精神がイカれているって点を除けば、大金持ちで、全体的に高スペックな超美少女』
『ここまで徹底してはぐらかされると、闘おうとする気力も湧きませんね』
『……あ? なんか言ったか?』
『いまどき、難聴系主人公は流行りませんよ』
『耳よりの情報だな。主人公に会えたら、そう伝えておくよ』
『ふふっ……』
『なにわろてんねん、って、トコなら言うんだろうな』
『ぁの、最後に一度だけ聞かせてください。どうしても、私ではダメですか? 私、紅院さんやトコさんの横にいるから、あまり目立っていませんけど、実はかなりハイスペックですよ。グループの中では、一番の巨乳ですし、脚線美も相当なものですよ』
『……』
『どうしても、トコさんじゃないと……ダメですか?』
『これまでの百数十年で、あいつは、俺に何度か、自身の弱さを見せてきた。こぼれ出てしまった本音という名の、脆い弱さ。その時でさえ、あいつは俺を気遣った。自分の痛みよりも、俺を優先したんだ。信じられるか? どうしても我慢できなくなって、耐えきれなくなって、だから、ついうっかり《死にたくない》と口にしてしまった……そんな時でさえ、あいつは、俺の心を慮った』
『……』
『ケンカになったよ。大声で互いをののしりあう大喧嘩。当然だろう。マジで、真剣に、いい加減にしろって思ったぜ』
『……』
『最初の質問に答える。俺は、だから、あいつには何も頼まないし、何も話さない。あいつが苦しむ姿は、もう一秒たりとも見たくない。俺が苦しむ事で、あいつが苦しむというのなら、俺はあいつと関わる事をやめる』
『だから……今から60年後に行われる予定の最終決戦でも、トコさんには何も伝えずに、ひっそりと戦って、ひっそりと死ぬつもりだと?』
『そうだ。薬宮トコを守るために砦才悟が200年と命をかけた……そんな事、あいつが知ったらどうなるか。想像するだけでゾっとする』
『あなたが死ぬ前に自殺して、全てを終わらせよう……きっと、そう考えるでしょうね』
『俺が俺を賭そうとしているのは、俺が勝手にやっている事。俺がやりたいからやっている事だ。そんな俺のワガママがあいつを苦しめるのは、何より我慢できねぇ。俺はトコを死んでも守るが……トコがその事を知る必要はない。だから、ひっそりと戦い、ひっそりと死ぬ。どう考えても、それがベストだ』
『はは……ははは』
『なんで、泣いてんだよ』
『どうしても……トコさんじゃないと……ダメなんだなって……分かったから……』
★
take100
――砦から、あらかたの話を聞き終えた薬宮は、
「ふぅむ……まさか、ナオの推測ドンピシャやったとはなぁ……信じられへん……いや、まあ、まずは、それより何より……」
一度唸ってから、スっと立ち上がり、
砦の目の前まで歩を進めると、
拳をつくって、ゴツンと、砦の頭を殴った。
「……ぃた……は?」
「アホか、あんた」
「聞くまでもないだろう。200年も積んでおきながら、しかし、死ぬほど惚れた女の一人もロクに守れそうにない、ヘタレ泣き虫のクソカス野郎。それが俺だ」
「仮に助かったとしても……あんたがあたしのために必死に頑張ってくれたんを知らんで、それどころか、あんたのことを変態やナンやと罵ったまま、『死んでくれてよかった』とか寝言ほざきながら生きていくとか、それこそが、ほんまもんの地獄やからな。その状態でのうのうと生き続けるとか、最悪やん。あたし、ただのクズやん」
「そう思わせたヤツが悪いってだけの話だろう。俺にとっては、お前の存命だけが全てだ。他はどうでもいい。というか、もういい加減、死にたい。だから、お前を助けて、俺は死ぬ。――それが、俺にとっての完璧なトゥルーエンドなんだ」
「こんだけやってもらっとって、何の礼も出来んとか、ありえへんから」
「だから、これは、俺が、お前に対して礼をしている状況であって――」
「ぁあ、ぁあ! この水掛け論、もうええ! 意味ない!」
「……そうだな」
そこで、砦は、トコに目を向けて、
(もう、こうなったら、嫌われるという手段はとれない。ならば、事実で乗り切る。俺は必ず、トコをトゥルーエンドにつれていく。――厳しい? 難しい? 守れないかもしれない? 知った事か。どうであれ守り切る。それだけの話だ)
徹底して、慎重に、言葉を選びながら、
「トコ。これだけは覚えておいてくれ。俺は本当に、さっさと、この人生を終わらせたいんだ。普通の人間の倍以上……それだけ長い時間奔走してきて……本当に、もうしんどいんだ。お前を助けるという目的がなければ、俺は、とっくの昔に自殺をしている」
「……200年か……まあ、そら、しんどいやろなぁ……」
「ありえないが、もし、万が一、お前を守るための戦いで生き残ったとしても、遠からず俺は自殺するだろう。お前に、それを止める資格は無い」
「……まあ、確かに、資格とかは無いわなぁ」
「そう。だから――」
「せやから言うて、黙って、あんたを死なすほど、あたしは素直な女やない」
「……トコ……いや、もう、ほんとに――」
「200年も付き合ってきたんやったら、流石にあたしの事わかっとるやろ。あたしは、この完璧な見た目からも想像できる通り、超絶的にワガママなんや」




