36話 告白。
36話 告白。
take100
――トコを自室に入れて、座布団の上に座ってもらってから五分。
涙が渇き、落ち着いてから、砦は、心の中で、
(みっともねぇ……情けねぇ……泣き虫で甘ったれのクソヘタレ野郎……200年前と何も変わっちゃいねぇ……くそったれが)
シンとした空気の中、
トコが、ゆっくりと切り出した。
「で? あんたはナニモンなん? 全部、教えてぇな」
「俺…………は、」
砦は、まだ、言うべきかどうかと悩んだが、
「二年後から……タイムリープしてきた」
「ああ、なるほどなぁ、そういう事かぁ」
トコは顎に手をあてて、考え込むように天を仰いだ。
「それは、携帯ドラゴンの力?」
「違う。『銀の鍵』というアイテムを使った。時空を司るアウターゴッドが創造した、時間を超越できる鍵」
「時間超越なぁ……すごいアイテムやな。無敵やん」
「確かに強力な神器だが、無敵ではない。携帯ドラゴンのステータスと銀の鍵以外は持ち越せないとか、二年以上飛べないとか、一度でも使ってしまうと最初に飛んだ時空以外には飛べないとか、色々と制限がある。そして、今は……もう使えない」
「まあ、そんだけのチートが無制限って事ぁないわなぁ」
「はは……こんなにすんなり信じてもらったのは、今回が初めてだな。いつもは、話すとしたら、初日に話していたから、信じてもらうのに、毎回、ちょっとだけ苦労していた」
「毎回? もしかして、記憶を跳躍させたんは一回だけやないん? まさか、今回は二回目……いや、『いつも』という表現を用いとる以上、二回はありえんな……もしかして、あんた、五~六回くらい飛んでんのやない?」
「今回で100回目だ」
「ひゃっ……えぇ?! ぃ、いやいや……ぇっ……二年間を100回やないよな?」
「一つ前の時だけ、数時間で飛んだが……それ以外の98回では、色々とやる事があったから、だいたい、二年丸々を使ってから飛んでいた」
「ほ、ほな、あんた……に、200年ぐらい戦って来たって事? ウソやろ。な、なんで、そんな事が出来たん……同じ二年間を100回って……そんなん――」
「お前が守ってくれたから」
「……は?」
「お前は、優しい。異常なくらい優しい。正直、お前の精神は歪んでいると思う。一個の生物として失格なくらい……お前は……優しすぎる。お前の優しさは、もはや、狂気の沙汰と言ってもいい。変態と言い換えてもいいかもしれない」
「あたし、今、褒められとんの? それとも、ディスられとんの?」
「普段は、性格ブスのテンプレみたいな最悪のクソカスワガママ令嬢なのに……震えている弱者を目の当たりにした途端、歴史上の聖人が何人束になっても敵わないイカれた天使になる奇人。自分だって、怖くて怖くて堪らねぇくせに、ただの泣き虫のくせに、クソの役にも立たないザコのくせに……」
「完全にディスっとんな! よう聞かんでも、罵詈雑言の嵐やないけぇ! 上等や! 表出て、かかってこい!」
「お前は、いつだって揺るがない。俺が心底憧れた、世界一のラリった天使……今回の場合で言うと、お前は南雲を守っていたな。あのポジションが、かつての俺だったんだ」
『なんかあったら、あたしを盾にせぇ』
『心配せんでもええ。あたしが守ったる』
「俺は、お前に守ってもらった。俺がゴミだった時、お前は、ずっと、俺の盾になってくれた。高校入って、ほとんどいきなり、神話生物だの、携帯ドラゴンだの、訳の分からない世界に迷い込んで、辛くて不安で怖くて堪らなくて、だからうずくまって震えていた……そんなクソの役にも立たない俺を守ってくれたのは、お前だけだった」
「なんや、一転して、えらい美化した言い方してくれとるけど、新入りに手ぇかすんは、先輩としての、ただの義務やで。あたしも、最初は先輩に色々と助けてもろた。それに、今は戦力が足りんでヒーヒー言うとる状態や。たとえ、どんだけのゴミでも多少は便宜を――」
「take0の時の紅院や黒木は、俺をスゲェ雑に扱っていたよ。無能な足手まといはいらないって感じで」
「ぁあ……いや、でも、あいつらも――」
「分かっている。そんな扱いをされても仕方なかったと、今では思う。あいつらだって一杯一杯なんだ。当時の俺みたいなゴミを歓迎できる訳がない。南雲みたいな、庇護欲をそそる同性が相手なら、紅院も、それなりに情を示すみたいだが、軟弱なクソ男子に対する、あいつらの……その、なんていうかな、『守ってもらいたいのはこっちだよ』と訴えてくる、あの露骨な感じ……今なら『仕方なかったんだ』と思えるが……正直、当時は、キツかった……ふざけんな、と思っていた」
砦は、当初の紅院や黒木の態度を思い出す。
紅院は、中学三年の終わりに起こったGOO大戦で、先輩を一気に失って、急遽リーダーをやるハメになった。
その重責ゆえ派手にテンパっているのが、高校入学直後における、紅院美麗の心情。
妙にテンションが高いのは、必死に自分を鼓舞しているだけ。
「苦しかっただろう、辛かっただろう。ぁあ、助けてほしかっただろうさ……分かる、わかるさ。今の俺なら、あいつらの気持ちが……引き千切れてしまいそうなくらい」
委員会の戦力が大幅に低下してしまい、
『こんなもん、どうしろってのよ!』
と頭を抱えていた当時の紅院。
19人もいた心底頼もしい先輩達や、
無敵だと信じていた超人の親友――が、
目の前で次々と、呆気なく死んでいき、
最終的に、それまでは何も考えず先輩達についていくだけで良かった紅院が、
いきなりリーダーとして、生き残った連中を引っ張っていかなくてはいけなくなった。
「神話生物対策委員会の代表。それ、すなわち、人類の命運を背負う事と同義」
そのふざけた重みに、実際のところ、彼女はまったく耐えられていない。
『人という種の未来』は、16歳の少女に背負い切れる重さじゃない。
「紅院が、『委員会のトップを長年務めていた前リーダー』の事を尊敬していたって話も聞いた。だからこそ、リーダーという責を余計に気負い過ぎていて潰れかけていると……確か、名前は内野だっけ? すげぇ強かったんだろ?」
「そうやな。内野は……まあ、もちろん強かったんやけど、何より、あいつは、とにかく、理想のリーダーやった。歳は30ちょっとのくせに、妙な貫禄のあるヤツで……内野さえおれば大丈夫。そう思わせる何かがあった。浅黒い肌のオッサンでなぁ、『強いGOOとの闘いは楽しいなぁ。相手が強いとワクワクするなぁ』なんて事をぬかす、まんまどっかの戦闘民族みたいなアホやった」




