35話 決壊。
35話 決壊。
take100
――前触れもなく訪問してきたトコの顔を目の当たりにして、
砦は、一瞬だけ素の顔で狼狽したが、
すぐに奥歯をかみしめて、とびっきりの嫌悪感を顔に張り付ける。
「――クソロリぃ……てめぇの顔は二度と見たくねぇって言わなかったか?」
とげとげしい口調になるよう、
声音を調整して、そう言った、
――のだが、
「ほんまに、あんた、完全に無理しとんな。気付いてないと思うけど、段々、演技がヘタになってきてんで。……ぃや、というより、どんどん余裕がなくなってきとる感じやな。もしかして、また、さらに、何かあったんか?」
「……」
「あんたが、『何か』を一人で抱えとる事くらい、流石にもう、みんな、分かっとる。頼むから、ええ加減、話してくれや。あんたからしたら、あたしの力なんか微力以下かもしれんけど、なんも出来ん訳ではないんやで?」
「そうか。じゃあ、パンツをよこせ」
「ほい」
トコは制服の内ポケットから一枚のフリフリショーツを取りだして、
「やるわ。こんなんが、あんたに対する報酬になるとは思えんけど、昨日も言うた通り、欲しぃ言うんやったら、なんぼでもくれたる。十枚でも百枚でもええで。それとも、今はいとるヤツをぬいで渡したろか?」
「……」
「いらんのか? まあ、いらんやろうなぁ。あんた、ぜんぜん欲しそうちゃうもんなぁ。逆に傷つくレベルや。同級生の美少女が下着を渡してんねんから、ちょっとぐらい鼻の下伸ばせや。こっちにも女のプライドとかあんねん。……もう、しまうで。さすがに、外で自分のショーツを握りしめとるこの状況は恥ずかしいからなぁ」
小さく丸めた薄い布を内ポケットに押し込んでから、
トコは、
「ほかに何かやってほしい事は? あたしは何をすれば、あんたの……」
ゆっくりと近づいてきて、砦の右頬に片手を添えて、
「あんたの、その泣きそうな顔を、どうにかできんの?」
散々な目にあってきて、
一人で抱えて込んできて、
我慢できなくなって、
だから、
「うぅ……うぁ……」
号泣しながら、砦は、
ギュゥっと、ゆっくり、優しく、トコを抱きしめた。
「ごめん……ごめんなさい……結局……ぼく……カッコいいところ……見せられ……守って、あげられ……うぅ……あぁあ……ぁぁぁあああ……」
「……よう分からんけど……多分、あんた、ずっと独りで……頑張ってきたんやろ……」
薬宮は、泣きすがってくるヘタレ泣き虫を抱きしめ返す。
力一杯、たくさん、たくさん、抱きしめて、
「ありがとうなぁ……いっぱい、いっぱい……ぁりがとうなぁ」
伝えたい想いが溢れ出て、言葉がふにゃふにゃになった。
涙でかすんで……けれど、届く。
ようやく繋がって、こぼれ出る。
それは、想像していたよりもずっと温かくて、とけてしまいそうで、
「砦。話してぇな。せめて……今まで助けてもらった分の恩くらいは返したるから」
「ちがっ……たすけて……もらった……ぼくが……ずっと……たくさん……うぅ……あぁあああぁぁ……」
★
take3
『もう失敗はしない! 必ず、君を守る。絶対に守ってみせる』
take5
『また救えなかった……何度、やりなおせばいい……この苦行はいつ終わるんだ……』
take6
『もういやだ!! 終わりが見えない!! 辛い。苦しい。もう嫌だぁぁあ!!!』
take7
『薬宮さん……ごめん……ぼくは……もう……無理……』
take17
『ぅぅ……ぁあ……ぁあ……うぅ……辛いよぉ……痛いよぉ……苦しいよぉ……もう、嫌だぁ……ほんとに……もう……無理……』
take39
『随分と……長く生きた……時々、自分が何なのか分からなくなる』
take57
『辛い! 辛い! 辛い! 辛い! 辛いぃい! いぃいいいいいい!!』
take65
『まだだ……まだ、戦える。俺は……まだ……』
take77
『ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい死にたいシニタイシニタイシニタイ』
take82
『お前のせいだ。薬宮トコ。お前のせいで、お前が存在したせいで、俺は! こんなに苦しんでいるんだ! お前さえいなければぁああああああ!!』
take89
『俺の全部が死んでいくのが分かる……全ての俺が……壊れていくのがハッキリと分かる』
take90
『あと二十年……にじゅう……ねん……は、はは……ひゃはは……ひゃひゃひゃ……』
take91
『二年まるまるかけたのに……SS級の強化アイテムのはずなのに、それなのに……存在値上昇率……たったの……六%……六パー……は、はは……ははは……はははははははは……ひっぐ……ふぐっ………ぁあ……ぅぅ……ダレか……タスけて……』
take92
『……なぁ、俺は、まだ生きているか? 俺は、まだ、ここにいるか?』
take98
『トコ。トコ……トコ……ありがとう……ありがとう……こんなに長い時が経ったのに、俺は今でも鮮明に覚えている。実は恐くてたまらなかったくせに、本当は誰よりも弱虫で泣き虫なくせに、怯えながら、震えながら、それでも俺の盾になってくれた君の背中を、200年も経ったのに、俺は……俺は、今でもハッキリと思いだせるんだ――』




