33話 詰んだ。
33話 詰んだ。
ルールを聞いた時から理解できていた。
このサードステージは『完璧に対処する方法』がない。
クズを演じて嫌われればどうにかなるような甘いルールじゃない。
頑張ってボロボロになったところで無意味。
もし、仮に、
『狼の発見に成功さえすれば、狼は精神寄生から解放されてゲーム終了』
というルールだったならば、いくらでも解決策はあった。
行動の不自然性や、記憶の矛盾点などから推測し、
とにかく全力で狼を見つけ出せばいい。
しかし、『狼を見つけ出して殺せ』というルールでは完璧な解決策などない。
「トコは当然として、紅院が選ばれていてもヤバい! 家族同然のあいつが死ねば、トコは死ぬほど苦しむ!」
最終局面であるこのtake100。
砦も、口では、『最悪、薬宮トコ以外の誰が死んでも構わない』とは言っていたが、
実際のところ、砦は、全員を守ろうと奮闘していた。
それが最善である事に変わりはないから。
だが、今回のルールでは、確実に誰かが死ぬ。
「黒木や茶柱が選ばれた場合だって、トコが苦しむ事に変わりはない! 南雲なら、この時点だと、まだ関わりが薄いから、精神的苦痛は少ないかもしれないが……繊細なトコの事だから、心に大きな負担がかかる事に変わりはない! 完全トゥルーエンドは死んだ!!」
もし、まだ全員生存ルートを目指すとなれば、
狼を精神寄生から解放するという手段しかない訳だが、
それは、ヨグが言っていたように不可能だろう。
「精神寄生って事は、『シャン』みたいに、本体が頭の中に直接入って寄生しているとかじゃねぇ! どっかから、精神だけ飛ばして乗っ取っている状態だ! 本体を殺せれば解放できるが、もし、本体が、地球外にいる場合、どうしようもねぇ! 月や火星くらいまでなら、ギリギリどうにかできるが、精神だけなら銀河を越えて飛ばす事もできる! ヨグの、あの言い方から考えると、本体は間違いなく違う銀河にいる! この状況を解決するとなれば、狼に選ばれた女を殺すしかねぇええ!! 詰んだぁああああ!」
はぁ……はぁ……と息を整える。
最後に息を大きく吸い込んでから、キっと世界を睨みつける。
もう充分叫んだ。
弱音を吐くのはここまで。
「まだ……だ……」
体をプルプルと震わせながら、
「まだ……終わってねぇ……」
奥歯をかみしめる。
最近、奥歯にかかる負担がハンパない。
どうでもいい。
もし砕け散ってしまったら、ルナに頼んで直してもらうだけ。
命以外なら、ルナはいくらでも直せる。
死んでさえいなければ、何だってできる。
だから――
「まだ、終わりじゃねぇ。絶対に終わらせねぇ……」
そこで、砦は、
ルナに預けてある、『輝くトラペゾヘドロン』に意識を向けた。
「ニャルに頼んでみるか……神の力を自由に使えるあいつなら、銀河の向こうだろうが何だろうが本体を探しだすくらい……ぃや、ダメだ……今の俺には、あの性悪な邪神を動かす材料がない。何か、ないか……何か……そう、たとえば……『トコが死んだらヨグを召喚する事が出来ない』と説得して働かせ……いや、無理だろう。それを提案しても、どうせ――」
『じゃあ、薬宮トコを使わない方法でオッサンを召喚すればいいんじゃない? 一週間くらいかければ、君一人だけでも、あのオッサンを召喚できるよ?』
「とか言うだけだ。ニャルは甘えを許さない。あいつには頼れない……自力でどうにかしねぇと……」
グルグルと自室の中を歩き回りながら、
「たとえば……狼を、どうにかして見つけだして、がんじがらめに拘束すれば……」
手錠と猿ぐつわで口と両手両足を拘束し、
人目につかない場所に監禁すれば――
「いや、ちょっと待てよ。そういえば、ヨグのやつ、『狼は、五人の中の誰かを殺す』と言っていた。って事は、自殺もあるって事じゃねぇのか? 一時的にならともかく、ずっと自殺させない方法とかないぞ……」
と、そこで、砦はハっとして、
「ぁ、ていうか、俺はアホか? あいつら、全員、携帯ドラゴンと契約してんだから、そもそも、口や手足を拘束しようが、携帯ドラゴンが緊急召喚されて脱出されるじゃねぇか」
考えれば考えるほど、今回のゲームがいかに詰んでいるかを思い知らされる。
「くそぉぉ……ど、どうすれば……携帯ドラゴンを殺して、召喚不可の状態に……ダメだ。どの方法で潰しても、数時間で簡易召喚くらいは出来るようになっちまう……な、何もないのか……いや、あるはずだ……何か……はぁ、はぁ……くそ……くそぉお……はぁ……はぁ……」
恐怖と絶望が膨れ上がっていく。
理解するたびに、息が荒くなる。
「だ、だめだぁぁ……」
ついには、頭を抱えて、うずくまってしまった。
苦悩という精神の輪が、脳の中を、ぎゅうぎゅうと締め付けている。
「無いぃ……無理だぁ……」
気付けばヨダレが垂れて、床に小さな水たまりを作っていた。
涙はギリギリ我慢しているが、それも、そろそろ決壊しそうで……
「ぃや、あるはず……ぁる……はず……考えろ……頼む……思いついてくれ……何か……なにかぁ――」
――ピンポーン。
「ぁ? チャイム? 外からの音も遮断するはずなのに……ルナ、どういう――」
ルナに視線を向けてみると、
知らん顔でそっぽを向いていた。
「……防音魔法を解除した? なんで勝手に……まあ、いい。とにかく、今は、相手をしている場合じゃあ――」
そこから、チャイムが連打された。
その数、二十数回。
「どこのキ○ガイだよ……」
イライラした顔で、玄関まで駆け足。
そして、
「ぁん?!」
バンっと勢いよくあけると、
「とっっ……………………薬宮……」
「ちょっと話があるんやけど」




