32話 地獄。
32話 地獄。
take100
――翌朝。
「……だめだ……マシな手が……なんも思いつかねぇ……」
あの後、家に帰り、三時間ほど仮眠して以降は、
ずっと机の上で、頭を抱えてウンウンと唸っていた。
すでに、肉体は完治しているので、痛みや吐き気なども当然皆無なのだが、しかし、彼女達を命がけで守った事に対する言い訳は一切思いつかないため、頭を抱えている。
「もう、いっそ、あいつらの前で、南雲を犯してから残虐に殺してみせるか? いや、でも、流石に、それは……」
現時点における砦は確かに狂っているが、
しかし、純粋なサイコパスではない。
ゆえに、この期に及んで、
『人間的な線引き』という境界のはざまで苦しんでいる。
と、そこで、
『聞こえているか。砦才悟。人の限界に辿り着いた者よ』
脳内に響いた声。
認識すると同時に、砦は、一瞬、グっと両目を閉じて、
「……なぁ、偉大なる神の王よ……ちょっと、俺の話を聞いてくれないか?」
まるで子が親にすがるような口調で、
「予定していた戦闘用消費アイテムの回収を諦める。奉仕種族を100年ほど封印できる大儀式用の魔法陣製作も中止にする。もうここからは、何一つ、小細工しねぇ。だから、嫌がらせをやめてくれないか」
計画では、きっかり半年後、準備万端の状態でヨグと戦うつもりだった――が、
「一週間もあれば、トコを媒体にしなくとも、エイボンの書を使って、あんたを召喚する事ができる。一週間後、何の画策もせず、必ずあんたを召喚して堂々と闘うと誓う。だから、もう、嫌がらせは――」
『嫌がらせ? 何を言っているのかな? 私は、あの女たちの誤解を解いているだけだが?』
(……この……クソがぁ……交渉する気も歩み寄る気も一切ないってか……)
ギリギリと歯噛みする。
ヨグに対する憎悪が膨れ上がっていく。
「ああ、そうかよ……分かった。よく分かった、外道でクソったれな邪神、ヨグ=ソトース。俺はお前を殺す。必ず殺す。もう、わずかも揺るがない」
砦は宣言する。
ここにきて、改めて固まる、絶対決死の覚悟。
「どんな困難だろうが全て乗り越えて、絶対にトゥルーエンドに辿り着いてやる」
『宣言など不要。好きにすればいい。さて、それでは本題といこう。貴様は人狼ゲームを知っているかね?』
「……村に紛れ込んだ『人間に変身できる人食い狼』を探し出して殺す遊び。それがなんだ?」
『サードステージではソレをやろうと思っている』
「は? ……ぉ、おい、ちょっと待て……まさか――」
『あの五人の女の中に一人、狼がいる。見つけ出せなければ、その狼が、あの五人の誰かを食い殺す』
「……」
『狼というのは比喩で、実際は寄生型のGOOだ。既に精神の乗っ取りには成功している。本人との意識切り替えと、操られている際の記憶操作は自由自在。ちなみに、《誰を乗っ取るか》と《誰を襲うか》はランダムで決めるようにした。もしかしたら、薬宮トコが寄生されているかもしれないな。はははっ』
愉快気に笑ってから、三オクターブほど下げた声で、
『怪しいと思う者を見つけ出して殺せ。それがサードステージのミッションだ』
「……見つけて終わりじゃなく、殺さないといけないのか?」
『対処は自由だ。しかし、精神寄生から解放させる手段はないため、殺処分以外の手段はないと思うがね』
「……」
『ちなみに、狼は本当にランダムで選んだ。神様だって、たまにはサイコロを振る。【薬宮トコが選ばれたら、私と貴様のゲームが終わってしまうから除外する】などという事はない。もし、ランダム選択の結果、薬宮トコが選ばれたら、それが【コスモゾーンの選択(非意匠性を持つ純粋運命)だった】というだけの話。さあ、砦才悟。人の限界に達した者よ。お遊戯の時間だ。かわいらしく踊って、私を楽しませてくれ』
神との繋がりが切れた直後、砦は、
「ついには、園児扱いか……は、はは……」
ワナワナと肩を震わせながら、
「……ルナ、この部屋の壁を、一時的に……防音状態にしてくれ……」
そう頼み、自室の壁が一瞬、ボォっと青く光ったのを確認してから、
肺がパンパンになるほど息を吸って、
「くそったれぇええ! うぁああ! ふざけんなぁああ!! あああああああああああ!!!」
頭をかきむしり、喚き散らす。
「完全ランダムだとぉおおお?! トコが選ばれていたら、その段階で詰みじゃねぇかぁああああああ!! くそがぁああああああああああああああああああああああ!!」
全身の毛孔が開く。
おびただしい油汗。
体が熱い。
なのに、芯は冷たくて、立ちくらみがした。
いっそ、今すぐ捨ててしまいたくなるほど、
心ってヤツが、どんどん重くなっていく。
「精神寄生されているヤツなんざ、どうやって見つけろってんだ! 仮に見つけたとしても、殺すしかないってルールじゃあ、確実に、あの中の誰かが一人死ぬ! それがトコだったら、何もかも全部終わりだろぉがぁああ!」
目がくらむ。
クラクラする。
このままでは、『誰かの死』が確定してしまう。
これまでのループでは、どこかで『どうせ、やり直す』とタカをくくっていた。
最後の『take100』で帳尻を合わせばいいと、楽観視していた。
だが、今はそのtake100。
死を無かった事にする術はもうない。
生命エネルギーが少なすぎる人間に蘇生魔法は使えない。
基本的に、人は死ねば終わる。
「銀の鍵は、すでに100本全部使っちまっている! もうやり直せねぇんだぞぉおおお! なのに、なんだ、この、どうしようもねぇ、クソ状況ぉおお! ここまでの2回の嫌がらせと違って、こんなルールだと、最初から詰んでんだろぉぉがぁぁああああ!!」
必死に頭を回して、対処方法を考えようとするが、
「だめだぁああああ!! 考えれば考えるほど、対処方法がねぇええええええ!!」




