27話 カラッポ。
27話 カラッポ。
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『砦と薬宮。2017年3月。A級GOO戦、終了後』
『こんな結末……認めない……』
『――』
『必ず見つける……君を生き返らせる方法……君を取り戻すためなら……』
『――』
『なんでもする……悪魔に魂を売ってもいい……時間を巻き戻す方法でも、天国までさらいに行く方法でも……なんでもいい……必ず何か見つけ出して、絶対に生き返らせる……』
『――』
『君が守ってくれたこの命を、君のためだけに使うと誓う……もし、その邪魔をするというのなら……仮に、それしかないというのなら! 喜んで! 神様だって殺してやる!!』
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――砦は闘いぬいた。
全身が真っ赤に濡れ、正常な個所などどこにもない、全身ザクロになりながら、それでも砦は立っていた。
既に歯は全て砕けている。耳介は原子に、鼻骨は粒子になった。
右大腿から下は千切れ、骨も神経もむき出しになっている。
頭頂骨から、足指尖まで。
折れた骨の数は三ケタを超えた。
が、それでもまだ立っている。
片足で地面を踏みしめ、シュブを睨みつけている。
魔力も気力も、とっくにカラっぽ。
既に武器は全て失った。
トコ達を守る盾は自分の肉体だけ。
こんな状況でも、砦の心はカケラも折れていない!
――最後の五秒間。
シュブは空高く舞い、周囲に召喚した五本の巨大な剣を彼女達に向けて放った。
「っっっ!!!!!」
砦は最後の力を振り絞って、限界まで加速する!!
残った足で、地面を蹴り、
「ぁぁっ! ぅぅ!!」
空中で体をひねり、飛翔する剣を蹴り飛ばす!!
どうにか、三本を弾いたが、
「ぬぁぁああぉおああっっっ!!!」
二本は防ぎきれなかった!
だが、逸らしはしない!
この体はトコを守る盾!
役目を果たそう!
その二本は、この身で受けてやる!!
――ザグゥゥゥゥウウウ!!!
心臓と腹部を貫いた黒い剣。
痛みなど、もはや感じない。
「こはっ……」
まだ、吐ける血が、かすかに残っていた。
視界が、一回転してから消えた。
意識が途切れた。
力なく空から落ちてきて、地面に激突する砦。
粉塵の中に横たわるは、奇怪な異形の躯。
生死の確認すらはばかられる彼のもとに、
「砦ぇえ!」
薬宮トコは迷いなく駆け寄ろうとした――が、それは、シュブに止められた。
シュブは、砦の元まで瞬間移動すると、
「三十分経過いたしましたわ」
そう言いながら、砦の心臓に刺さっている剣を抜いて、その傷跡に右手を向けた。
緑色の光がユラユラとたゆたって、砦の左胸付近を包む。
胸部の傷だけ塞ぐと、シュブは、砦を見つめたまま、
「……なるほど。確かに、あなたになら――」
最後にそう言い残して、ニコっと微笑むと、
スゥウっと、溶けるように消えていった。
★
take0
『紅院と砦。2017年。五月』
『砦。……今日、飛ぶの?』
『うん。銀の鍵は二年しか飛べない。出会いをやり直すには、今日飛ぶしかない』
『……別に、出会いなんて、やり直さなくてもいいんじゃない? それより――』
『無かった事にしたいんだ』
『?』
『薬宮さんに……【守ってやる】なんて言わせた過去を、なかった事にしたい。それは……ぼくが、彼女に言ってあげなきゃいけないセリフなんだ』
『矜持って事ね。……あんたも一応、男の子ってことか』
『まあ、ギリギリ一応、ね』
『私の家族の事……頼んだわよ』
『うん。絶対に助ける』
『あの子は、もう充分苦しんできた。幼い頃に目の前で両親を殺されて、ハイエナどもにボロボロにされて……それなのに腐る事なく、高潔に、気高く、まっすぐ生きてきたあの子が……なのに、こんな終わり方をするなんて……あんまりだわ』
『紅院さん』
『なに?』
『……これまでずっと、彼女の事を守ってくれて、ありがとう。最初の頃は、あなたに対して【なんで、そんなトゲトゲしい態度を取られなきゃいけないだ】って、ムカついていたけど、必死になって銀の鍵の捜索を手伝ってくれた今となっては感謝しかない。ぁ、いや……うん、まだちょっとムカついているっていうか、ぶっちゃけ、あなたの事は嫌いだけれど。……顔も見たくないけれど』
『ちょっと正直にぶっちゃけすぎてない? あんたの門出を、リミッター解除したクリムゾンスラッシャーで祝ってあげたくなってきたわ』
『やめてください。一撃で死んでしまいます』
『……正直、時間遡行だなんて、そんな、とんでもない大冒険を他人に任せるのは、心苦しいわ。できれば、私が飛びたいのだけれど……』
『もし、銀の鍵に、【最初に手にした者しか使えない】ってルールがなかったとしても、この役目を紅院さんに譲りはしなかったと思うよ。これは……ぼくの戦いだ』
『砦。あんた、最初に会った頃と比べると、なんていうか、その……本当に、ほんの少しだけれど、でも、ほんと……少しはマシになったわね』
『……だったら、いいなぁ』
★
take100
――シュブとの戦闘が終了してから三時間が経過した時、砦は、ゆっくりと目を開けた。
見慣れた天井を見つめ、
(第五校舎の保健室か……何回目だろうな……ここで目を覚ますの……)
視線を左に向けてみると、
黒木が、『治癒の携帯ドラゴン・アポロ』の全機能を駆使して砦の治療をしていた。
肉体の再生は、ほぼ終わっているが、
体中の至る個所が、まだ激痛を訴えている。
「ぁ……みなさん、砦さんが起きましたよ!」
黒木学美が声をあげると、周囲で待機していた美少女たちが、いっせいに砦の顔を覗きこむ(茶柱だけは我関せずでゲームをしていた)。
――まず先に、トコが、
「……砦。聞こえとるか? 目ぇ見えとるか?」
激痛の中、砦は、必死に頭を回していた。
(……ダメだ……後半は必死すぎて、自分が、あの場をどう切り抜けて、何を口走ったか、ほとんど覚えてねぇ。最悪だ。『汚名挽回』の為に言い訳しようにも、覚えてねぇんだから、どうしようもねぇ)




