25話 闘う理由。
25話 闘う理由。
シュブの宣言を聞いて、砦はハっと顔をあげる。
既にシュブの姿は、先ほどの場所からは掻き消えていた。
「くっ」
砦は、即座に量子刀を右手に召喚し、トコたちがいる後方へと視線を向けた。
恐ろしい速度で距離をつめているシュブ。
トコの目の前で、剣を振り上げていて――
「クソがぁ!! ディメンション・ジャンプ!!」
砦は、時空魔法を使い、シュブの目の前に転移する。
ギリギリの所でシュブの剣を、量子刀で受け止め――
「ぐぬぅぅ……ぅうらぁあああああ!!」
キュインっとはじけるような音が響いた直後、砦は、シュブの腹に前蹴りを入れた。
シュブは、吹っ飛びこそしなかったが、二人の間には、少しだけ距離が出た。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を荒くしながら、今も、砦は必死に考えている。
どうすれば、トコにとっての今後の自分が、これまでの自分のままでいられるか。
ふいに、背後から、
「な、なんで……」
トコの、そんな困惑の声が聞こえた。
――なぜ、砦は逃げない?
トコ以外の者も、それぞれ、目の前の状況が理解できないという声を漏らしている。
――この男は、なぜ闘っている?
――シュブの狙いは、どうやら私たち。
――ならばさっさと逃げ出せばいいのに。
砦は、千切れるほど頭を回し、
「てめぇら、ごらぁ! いいか! 絶対に死ぬんじゃねぇぞ! てめぇらは、大事な休憩の種だ! どうやら現状、次元ロックがかかっていて逃げられねぇみたいだから、闘うしかねぇ! お前ら全員死んだあとは、どうせ俺が狙われるからなぁ! と言う訳で、お前らは、俺がもう少し疲れてから殺す! そこのチビ以外! 絶対に死ぬんじゃねぇぞ! クソチビ、てめぇは頃合いを見て死ねぇ! 俺のために死ねぇええ! わかったかぁあ!」
シュブを警戒しながら、必死に叫んでいる砦。
彼女達の顔に納得の色がついた。
――なるほど、次元が封鎖されているのか。
ボーナスによってシュブが行動停止する時間は最大でも九分。
アウターゴッドがその気になれば、トコ達を殺すのに十秒もかからない。
つまり、砦は、この逃げられない空間に二十分以上留まらなければいけない。
二十分連続で闘い続けるより、途中で魔力回復の休憩時間を置いた方が、生き残れる可能性は高い。
砦が闘う理由は確かにあった。
(こ、こんな言い訳は時間稼ぎにすぎねぇ……いずれ、トコたちは俺の『真意(愚かさ)』に気付く。どうする。どうしたらいい……)
砦の行動、その意味と想いが理解出来ているシュブは、
「なるほど……確かに、わたくしの試験を受ける資格はあるようですわね」
ふいに、ボソっとそう呟いた。
「ぁ? なんか言ったか?!」
「あなたを試してさしあげても構わなくってよ、ともうしあげたのですよ」
「どんだけ上から目線?! ムカつくわぁ……おい、シュブ=ニグラス。後ろにいるメスブタ共は、後で俺が殺しておくから、今はシカトして、ちょっとタイマンしようぜ。ボコボコにしてやる」
「ルールに変更はございませんわ」
そう言うと、シュブの姿が消えた。
「……ちぃっ」
気配だけでシュブの位置を把握する。
南雲の背後から、極めて正確に、南雲の後頭部下方、椎骨動脈を狙っている。
「くっそがぁ!」
量子刀を投擲し、シュブの邪魔をするが、
量子刀が当たる直前、また、シュブは姿を消した。
今度はトコの真上。
正中線に沿って、頭頂部から真っ二つにしようと剣を振り下ろしていた。
「うらぁああああああああ!!」
即座に再召喚した量子刀で薬宮の頭を守る――と、またシュブは姿を消した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
荒れる息を整えながら、全力で神経を集中させる。
体力はもちろん、神経もドンドン削られていく。
アウターゴッド・神の一柱であるシュブの一撃一撃は、その全てが、とてつもなく重い。
たった数回受けただけで、右腕が痺れており、さっそく人差指の感覚がなくなっている。
(こ、これを、三十分やんのか……き、気が遠くなるぜ……畜生)
「時間がたてばたつほど、五分休憩の価値は上がっていくでしょう」
茶柱罪華を狙いながら、砦の心を削っていくシュブ。
シュブは、誘うように囁く。
「こんな状況です。二・三人、守りそこなったとしても仕方がありません」
黒木学美を狙いつつ、砦を、言葉の牢獄に閉じ込めようとするシュブ。
(クソボーナスがある以上、トコ以外が死んでもアウト。つまり、俺は、死ぬ気で全員を守らないといけねぇ……それは、つまり、だから、問題は……)
つい、チラっと、彼女達の顔を確認してしまう。
まだ、この現状では、彼女達の表情に変化はない。
――しかし、ほどなく、懐疑が生まれるだろう。
そして、その疑念は、前提条件を飲み込んで、容易く事実に届くだろう。
砦才悟が、ここにいる全員を守る気であるという事実に。
(最悪だ……これじゃあ、どうあがいても……くそがぁ……)
つい、天を仰ぎそうになった――が、またシュブがトコを狙ったので、嘆くヒマもない。
「くそったれがぁあ!!」
★
take0
『砦と薬宮。2017年3月。A級GOO戦』
『く、薬宮さん……あ、あんなのに……勝てるの……? この前、あれだけ苦戦して倒したB級のGOOより、全然強そうだよ……あ、あんな、とんでもない化け物……』
『確かに、あれに勝つんは厳しそうやなぁ。あー、あんたが、もう少し戦力になってくれればなぁ……』
『ご……ごめんなさい……頑張ったけど……いつまでたっても弱いままで……ほんと……やっぱり、ぼくなんて……』
『ほんま、あんたは無能や。クソの役にもたたへん』
『ごめんなさい……ごめん……ひっく……』
『けど、それやのに、この前のB級GOO戦の時も、今回のあれとの戦いにも、あんたは自分の意志で参加した』
『……そ、それは……だ、だって……』
『前にも言うたけど……あんたには可能性がある。ドヘタレやけど、根性ゼロって訳やないし、携帯ドラゴンを扱う才能もある。それに……この半年、あんたは、ほんまに必死になって努力をした。A級GOO相手では流石に使えんとはいえ、たった二年でここまで強くなったヤツをあたしは他に知らん。偉そうに言えるほど神話狩りについて詳しい訳やないけど、あんたが持つ可能性は、少なくとも、あたしよりは上や。もうちょっと経験を積めば、確実に、あたしよりも強くなるやろう。ミレーより強くなるんも時間の問題や』
『……』
『せやから、あんたに託そうと思う』
『……ぇ? な、なにを――』
『どうせ、あと二カ月以内に亡くす命や。ここで、ぜんぶ使ったる。今から、この命を丸ごとつかって、あんたを守ったる。砦、あたしの背中を覚えとけ。あんたを守るために死んだ女の事を、絶対に忘れるな』
『ぃ、いやだよ……死んじゃヤダよ、薬宮さん!』
『少しでも悲しんでくれるなら、本気で感謝してくれるなら……必死に強くなって、ミレーたちを守ったってくれ。あいつらの……ヒーローになったってくれ』
『なる! なるよ! だから――』
『ミレーのメンタルは、ああ見えて、そんなに強ぉない。あたしの家族を……頼んだで』
『ダメだ……死んじゃダメだよ……薬宮さん……ダメだ……絶対にダメ……ぅっ、ぐっ……ひっく……薬宮さんが死ぬのだけは……ぼく、絶対にイヤだよ……ひっく……』
『――ちょっとはマシになったと思うたけど、結局、泣き虫だけは治らんかったなぁ』
『ごめ……こんな……カッコ悪い姿なんて……ほんと、見せたく……ひっく』
『あたしは頑張って生きた。精一杯生きた。だから、泣くな、砦』




