24話 シュブ=ニグラス。
24話 シュブ=ニグラス。
砦がギリギリと奥歯をかみしめると同時に、女性陣の顔がサァーと青くなる。
流石の茶柱も、この時ばかりは、その血色に、畏怖を孕む愚直な琥珀を滲ませた。
アウターゴッド。
外なる神。
――それは、神話の深淵。
最上の個。
つまりは、本物の神様。
S級のGOOすら、その足元にも及ばない、『絶対の真理』をその身で体現する、魂魄の頂点。
あるいは終着点。
円環の外側に御座します至高の御方々。
『聞こえるか。砦才悟。人の限界に届いた者よ』
「……ええ、聞こえていますよ……ヨグ様……」
敬語を用いた心理の大部分、その外郭となる表層の動機・理由は、もちろん非難と皮肉だが、その根幹・深層には、魂が震える畏敬が確かにあった。
『アリア・ギアス(不退転の自縛)の制御下にある今の私では、二十の高次魂魄を使っても、シュブの完全なる召喚は出来ない。シュブを現世にとどめておけるのは、精々三十分程度が限界』
(ぃや、長ぇよっ! アウターゴッドの相手なんか十秒でもキツイんだぞ!!)
『はたして、貴様は、薬宮トコを守れるかな? ああ、ちなみに、その空間は隔離しているため、時空転移の魔法で逃げる事は出来ない。さあ、貴様の輝きを魅せてくれ』
一方的に情報だけを伝えると、ヨグは通信を切った。
――砦は心の中で、
(ようするには、五人の足手まといを抱えた上で、アウターゴッド相手に三十分耐えてみせろって事か……き、きついぃ……)
必死に計算してみた。
三十分耐えるためのプラン。
(……ドライブやシステムの稼働時間は、最低燃費での運用でも十五分が精々……ドリームオーラも、『マキシマイズ(最強)化』は魔力消費量的に、三十分は絶対持たねぇ。『エターナル(永続)化』して使うしかないが……しかし、防御力的にはクソみたいな『エターナル化』でアウターゴッドの攻撃に耐えられるか?)
頭が焼き切れるほどの思考ダイブでトリップしていると、
「まずは、ご挨拶からさせて頂きますわね」
シュブは、右手を天に向け、指をパチンと鳴らし、
「黒雷龍星群」
そう宣言した直後、空が黒い渦で覆われた。
そして、その渦のあちこちで、
ビカビカッと、芯が黒い電流が走る。
「や、やべぇっ――この空間を守れ、ジェネラル・ドリームオーラ/クラスSSS!!」
無慈悲に、漆黒の渦から、無数の黒雷龍が降ってきた。
その数は千を超えていて、その一つ一つが、GOOをも一撃で殺せる火力を誇っていた。
「ぬぁああ! 多いぃいいいい! そして、重いぃいいいい! くっそぉおお! なぁめんっっっなぁあああああ!!!!!」
残像で数十本以上に見えるほど、圧倒的超高速で奇怪に指を動かし、魔力波をコントロールして、彼女達を守る砦。
仮に、砦の魔力操作が完璧でなければ、ドリームオーラを貫かれて、何人か死んでいただろう。
「ぶはぁ、ぶはぁ、ぶはぁ、ぶはぁ、ぶはぁあああ……はぁ、はぁ……」
「信じられませんね……完璧に防ぎ切るとは……ふむ。確かに、あなたは人の限界に到達しているようですわね」
「ぅ、う、麗しい女神様!」
砦は、それまでの不敵な笑みや、下劣な笑い顔ではなく、
媚び媚びの小物感・下っ端臭漂う笑顔を浮かべ、限界に届く低姿勢で、
「そこにおわします、この世のものとは思えないほど美しい女神様。ちょっとだけお話しませんか? いやぁ、そのお召し物、とても素敵ですねぇ。そこまで黒が似合う女性は、全銀河中を探しても、なかなか見つかりませんよぉ」
指紋を摩擦で消してやると言わんばかりの揉み手で話しかけてくる砦に、
シュブは、
「うふっ。砦才悟さん。よくお聞きになって」
妖艶に微笑み、
「気高く美しく高潔に闘ってくださるのであれば、範囲魔法の使用は制限させていただきますわ」
その発言を聞いた瞬間、
(……く、くそったれがぁ……何もかもぉ……)
砦は、揉み手をやめて、
笑顔を殺し、背筋を伸ばして、シュブを睨みつける。
「うふっ、素晴らしい表情ですわ。それぞ、まさしく、覚悟を決め、困難に立ち向かおうとする勇者の姿。やはり、殿方は、そうでなければいけませんわね」
言いながら、シュブは右手に、黒い稲妻を纏うフランベルジュを召喚する。
「わたくしは、今から、30分間……召喚時間終了まで、あなたではなく、彼女達だけを狙い続けさせていただきます」
「なっ……」
砦のこめかみを冷や汗が流れていった。
(め、めんどくせぇマネを……普通にやったってクソしんどいのに、そうなると、さらに、難易度がブチ上がる……)
「ああ、そうそう、わたくしとの戦いでは、いくつか、ルールを設定させていただきますわ」
「ぁあ……? ど……どんな?」
「怪訝な顔はなさらないで。あなたにとって有利な条件ですわ」
ニコっと微笑み、
「わたくしかあなたに殺された、彼女達の死体一つにつき、一分間、わたくしは行動を停止いたします」
(今度は、そうきやがったかぁ……こうなったら、何人かは切り捨てるしかないな……)
砦は、奥歯をかみしめて、
「なるほど、確かに、そいつは俺にとって有利な条件だ。ここには、五匹もメスブタがいる。一匹につき一分。つまり最大で五分も休憩できるって事か。随分と優しいじゃねぇか」
「プラス、ボーナスを差し上げます」
「……ぼ、ボーナス?」
「えーと、そうですわねぇ……『特に理由はございません』が、そこの、『小柄』な彼女にいたしましょう。『彼女』が死んだ時は一分ではなく、五分の休憩をさしあげますわ。これで、最大休憩時間は九分になりますわね。あなたの生存確率がグっと増しますわ」
シュブは、トコを指さしながら、そう言って、
「その代わり、彼女以外が死んだ時は彼女も死にます。その際に、ボーナスは発動しません。理解できましたか? つまり、彼女が最初に死ねば、五分間の休憩が得られる。けれど、彼女よりも先に、他の誰かが死ねば、ボーナスが消失してしまう」
(王手飛車じゃねぇかぁああああ! クソがぁああああああ!)
この場における王はトコ。
飛車は好感度。
確定で好感度を捨てるしかないクソ状況。
「もし、彼女以外が最初に死んだ場合、彼女と合わせて二人が死にますが、しかし、だからといって一分と五分で六分になる訳ではなく、一分の休憩だけが発動し、ボーナスが消える。そういう楽しいルールですわ」
「……は、はは……」
砦は、思わず渇いた笑い声をあげてしまった。
両目を閉じて、プルプルと肩を震わせ、
(……徹底的に……遊んでやがる……こ、こんなもん、どうしろってんだ……)
必死に考えるが、
(ムリだ……この場面で、トコ達にイメージ付けた、最低最悪のクズ野郎である俺が、トコを殺さない理由はない。というか、そもそも、俺が闘う理由がない……どうあがいたって……)
泣きそうになる。
深い絶望。
心が砕けそうになる。
「それでは、始めましょう」




