23話 これでいい。
23話 これでいい。
砦は、グっと心を引き締めてから目を開き、
トコを、不自然なほど強い視線で睨みつけ、
「俺はロリコンじゃねぇっつってんだろ、ボケェ! 貧乳チビのブスは黙ってろ」
「……ぐ、ぬっ……」
「はっは! なんだ? 悔しいのか? 悔しいんでちゅかぁ? はっは! あー、最高、楽しいぃいい! 紅院! もう土下座しなくていいぞ! このチビの顔を見たら満足した! はっはぁ!」
言いながら、砦は、
(これでいい……これでいいんだ……)
心の一番奥を抉られているような激痛から、必死に意識を逸らし、
(……ここまでくれば、俺への好感度は、何をしようと上がる事はない。最悪、紅院が、本当に報酬を払おうとしても、寝ている間の事だから、何もしなくとも分からない)
★
take17
――『美少女達と砦。2017年3月。【A級GOO(何度もトコを殺している神格)】戦』
『なんやねん、あいつ……めっちゃ強そうやないか』
『そうね。この前に倒したB級より、確実に上だわ』
『となると、A級のGOOって事ですか? ほんと、なんなんですかね、最近。強いGOOが多発しすぎじゃないですか?』
『……小腹がすいたにゃぁ』
『茶柱、後で俺が焼き肉をおごってやるから、今は、あいつを殺すのに集中してくれ』
『おごり焼き肉?! マジかにゃぁ! 才悟てぃん、もう、何を言ってもその発言は覆らないという事を肝に銘じてほしいにゃ。もしウソだった場合、才悟てぃんの腹を、チェーンソーでかっさばいて、取りだした生レバをポン酢で美味しくいただくつもりだから、その覚悟だけはしておいてほしいにゃぁ』
『きっしょい事言うな、ぼけぇ! おどれ、ほんまもんのサイコパスやのぉ!』
『焼き肉でも寿司でも、好きなだけ奢ってやる。だから、茶柱。普通に力を貸してくれ』
『うにゃぁああ!! 合点承知だにゃぁ! ……で、どこのボウズの腹をかっさばいた臓物で屏風に上手に絵を描けばいいんだにゃぁ?』
『んな事ぁ、誰も言うてへん! おどれのシナプス、どないなってんねん!!』
『さ、才悟さん……あのGOOは圧倒的な力を持っています。か、勝てますか?』
『……あいつだけは殺す。何が何でも』
『どうしたの、才悟。今回は、随分と気合いが入っているわね』
『ですよね。才悟さんって、いつも、超然としていて、どんな時でも余裕たっぷりで、何にも動じないのに、今回は、やけに力が入っているような――』
『姦しくするのもそれまでだ。リーダーとして命じる。総員、武器を構えろ。落ち着いて、冷静に、慎重に、俺の援護だけに徹しろ。……無理も無茶もしなくていい。ただ、自分に出来る最善を尽くせ。そうすれば、俺があのゴミを消してやる。この手で跡形もなくバラバラにしてやる』
★
take100
――かかった時間は、ほんの数秒だった。
宙を駆ける線状の閃光が空間を薙いだ、
――その直後、GOOたちはバラバラの死体になっていた。
青や紫の血だまりに、肉塊がピチャンと跳ねる。
十体ものGOOを、あっさりと瞬殺し、サクっと南雲を助け出した砦は、
(今回の件で、ヨグの思惑とは裏腹に、俺の好感度は完全に死んだ。トコたちの俺に対する評価は『下劣で最低なクズ野郎』。このまま行けば、なんの問題ない)
砦が今の態度を徹底させていれば、十代の女子から好感を持たれる事などありえない。
敏感で多感な思春期。
『醜いほど潔癖』で基本的に精神が不安定極まりない『お嬢様系女子高生』という特殊生物に、今の砦が好かれる事は、絶対にありえない。
(その気になれば、好感度なんて、いくらでも下げられる。俺が折れない限り、どうとでも……おっと、その前に、もう一段階、俺の評価を下げておくか)
そこで、砦は、紅院に視線を向けて、
「さぁて、紅院……お前の望み通り、南雲を助けてやった訳だから、報酬を払ってもらうぜぇ。ひひっ」
できるだけ下劣に見える笑みを浮かべた――と同時、
「「「「「きゅぃいいいいいい!!」」」」」」
『ルナを含む』全ての携帯ドラゴンが一斉に警戒アラームを上げた。
警戒アラームは、飼い主に危険が迫っている時にしか鳴らない。
ゆえに、十体程度のGOOが召喚されたぐらいじゃあ、ルナは警戒アラームを鳴らさなかった。
そのルナが、大声で警戒アラームを鳴らしている。
それは、いったい、どういう意味か――
『『――イエ! イエ! シュブ=ニグラス!』』
十体のGOO。
その死体の中から、人面を持つ小さな虫が何百匹と這い出てきて、
『『『『『イ・アール・ナムール! ウガ・ナグル!』』』』
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『イエ! イエ! シュブ=ニグラス!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
召喚詠唱の大合唱。
音で空間が埋め尽くされる。
――状況を理解すると同時に、砦は、
「ぅっぃぃいいいいいいいいいいいいっ?!」
みっともなく奇声をあげた。
畏怖と恐慌によって、全身に寒気が疾走。
久しく感じていなかった、生粋純正のコズミックホラー。
サブイボに覆われる肌。
溢れる冷や汗。
――砦は、すぐさま、
「っ、ざっけんなぁ!!」
小さな虫共に向けて、両手に召喚したナパームガンを躊躇なくぶっ放すが、
対処がコンマ数秒遅かった。
人面虫は一匹残らず焼きつくされた――が、
「ぐっ!! くそっ、間に合わ――」
空に、黒い塊が出現してしまっていた。
黒い塊はドロっと地に堕ちると、タプンと跳ねてから、ヌルヌルと人型へと変わっていく。
五秒ほどで、黒い塊は、黒い山羊の角をもつ豊満な体つきの美しい女性へと変わった。
白皙の肌を漆黒のローブで纏っている、絶世の美女。
「――うふっ」
妖艶に微笑むと、その黒羊女は、砦に一礼し、
「はじめまして。わたくしは黒き豊穣の女神。狂気を産む黒の山羊にして万物の母シュブ=ニグラスと申します」
自己紹介を聞きながら、砦は心の中で吐き捨てる。
(これが目的だったのか! くそがぁ! ウムル共と合わせた計二十体のGOOは、シュブを召喚するための生贄……ぐぬぅ……ヨグのくそったれがぁ……ざけやがってぇ)
そこで、紅院が、震えながら、
「と、砦……ぁ、あいつ……も、もしかして……」
「あぁ」
砦は苦々しい顔で、
「どれだけ強大なGOOでも超えられない『壁』の向こう側、究極位階の超生命。世界を支える柱の一本。すなわち……『アウターゴッド』だ……」




