20話 性犯罪者。
20話 性犯罪者。
金を見た瞬間、砦は、寸前まで発していたドス黒いオーラを完全に消し去って、
「足でも舐めましょうかぁ?! ひゃひゃ!」
下卑た笑い声をあげながら、アレスが吐き出した札束を、
『誰にも渡さへんで、これはワイのもんや』といわんばかりの勢いで、
恥も外聞もなく慌ててかき集めると、
それを、
「クソ龍、出てこい! ――よし、口あけろ! おらおら、モタモタすんな、グズが!」
ルナの顔面を殴りながら命令し、
強引に口をあけさせると、その中に放り込んでいく。
「ひっひっひぃ! よっしゃ、まずは、吉原だぁ! 巨乳でドスケベなメスを食い散らかしにいくぞぉ! ひゃひゃひゃぁあああああああああああああああ!!!」
最後までキモさ抜群のまま飛び去っていく砦に、
その場にいた美少女たちは、ゴキブリの大群を見つけてしまった時のような目を向けていた。
罪華だけは、初代ゲームボーイで遊んでいた。
★
take0
――『砦と薬宮。2016年12月。教室』
『性犯罪者って、もはや、即死刑でええんちゃうかなぁ』
『ぇ、えっと……薬宮さん、急にどうしたの?』
『いや、今朝のニュースで、レイプ犯の報道してたんを思い出してなぁ。力ずくで嫌がる女とセックスするとか、ほんま、意味わからへんわ。そんなん、なんも気持ちよぉないやろ? そこまでヤリたいんやったら、普通に風俗いけや。どう考えても、その方が楽やろ』
『……薬宮さん。ここ教室なんだよ? そういう、その、風俗とか、セッ……とか、その、卑猥な事を、公衆の面前で口にするのはやめようよ。常軌を逸して恥ずかしいよ』
『なに、顔を真っ赤にしてんねん。逆にキモいで?』
『き……キモい……』
『ガチで泣きそうな顔すんなや、うっといのぉ。あんた、繊細すぎんねん。女がちょっと性関係の単語を口にしただけで顔を真っ赤にしたり、軽い冗談で真剣に傷ついたり……そんなガラスハートの豆腐メンタルでは、これから先の人生、やっていけへんで?』
『ぼ、ぼくは、ただ、薬宮さんは、女の子なんだから、当り前の恥じらいみたいなのを持った方がいいと思っただけで……べ、別に、ぼくのハートはガラス細工じゃ――』
『なんか、あんた、将来、悪い女に騙されてボロボロになって自殺とかしそうやな』
『ひ、酷い……』
『まあ、それがイヤやったら、もうちょっとメンタルを鍛えた方がええなぁ。よし。金やるから、一回ソープ行って、DT卒業してきぃ。少しはマシになれるかもしれへんで?』
『だから、そういう卑猥な事を大声で言わないで! そもそも、ぉ、女の人をお金で買うなんて、ありえないよ! そ、そういう行為は、大好きな人とやる事だよ!』
『なに、園児みたいな事いうてんねん』
『幼稚園児は風俗の話なんかしないよ!』
『あんたの無垢さは、ほんまにキモいなぁ。よし、砦、ミッションを言い渡す。今夜、学校の裏にある、あのでかいマンションに干されとる下着を全部盗んで、ついでに入浴シーンを覗いてこい』
『なにゆえ?!』
『清らかすぎてムカつくから』
『理由がサイコパス! 最低って次元じゃない! ていうか、性犯罪者即死刑推奨派の人が、性犯罪教唆しないでよ! 言っておくけど、ぼくは女性の下着を盗むとか、絶対にしないからね! ノゾキとか、最低だよ! まず、そんな事する意味わかんないし!』
『あんたって、ほんま、潔癖でキマジメやなぁ。つまらん男やわぁ』
『銭湯をノゾいたり下着を盗んだりするクズが面白い男なら、ぼくは一生つまらない男で結構だよ!』
★
take100
――第六校舎の屋上で、大の字に寝転がり、満月を見つめながら、砦は、
「ルナ、おいで」
簡易召喚した小さな龍を、寝転んでいる自分の胸に着地させると、
先ほど殴ってしまった右頬をさすりながら、
「殴って、ごめんな」
「……きゅいっ」
『全然痛くなかったよ』とでも言いたげな、
満面の笑みを浮かべるルナの頬を撫でながら、
「さっきの二千万、MSF(国境なき医師団)にでも寄付しておいてくれ」
そう命じると、ルナは可愛く返事をした。
砦はニコっと微笑む。
少しだけ冷たい風が流れていく。
満天の星に視線を戻した砦は、
「トコ……」
ボソっと、
「メンタル、強くなったぜ。お前を守るためなら、誰に、どれだけ嫌われようが……たとえ、死ぬほど軽蔑されようが、心底どうでもいいと思えるようになった。お前を守るためなら、俺はなんでもする。なんでもできる」
そう呟いた直後だった。
砦の頭に声が届く。
『はははははははは! まさか、あそこまでするとは思わなかった』
「……ヨグ……」
『貴様は本当に面白い。実にイジり甲斐がある』
「第一印象最悪から、極端なピンチを救わせることで、トコの俺に対する好感度を一発で限界まで上げる最良のギャップを演出したつもりだろうが、逆に利用させてもらった。俺は、トコにとって『死んだ方がいい変態』……俺が死んでも、トコは何の痛みも感じない」
仮面か何かで顔を隠し、
『謎の男』という設定で『彼女達を救う』という手段も考えたのだが、
前後の流れから、その『謎の男』が『砦ではないか』と疑われる可能性を危惧した結果、
今回のようなゲスい手段を取る事と相成った。
『貴様がその胸に抱いている覚悟の程は理解した。実に興味深い。まだ、現世で使える魔力は残っている事だし、もう少しだけ、チョッカイをかけさせてもらう事にしよう。ふふ……楽しい。楽しいぞ。砦才悟。是が非でも、貴様に対するあの女共の好感度を上げてみせよう。楽しみにしていたまえ』
そう言ってテレパシーを切ったヨグ。
――星空の下、砦は、
「俺が主役のギャルゲーにハマる神様か。……笑えねぇ」
砕けるほどに、ギリギリっと奥歯をかみしめ、
「死ぬ気で抗ってやるぞ、ヨグ……てめぇが何をしようと、俺は必ず、トコをトゥルーエンドにつれていく!!」
★
――翌日の夕方。
窓から西日が差している。
朱色の雲がゆっくりと流れていく。
たっぷりの夕陽を浴びているのに、砦の顔は、どの角度から見ても青白かった。
目の下には濃いクマ。
水分を求めている渇いた肌。
ボサボサの髪とカサカサの唇。
砦は、帰ってきてからずっと、自室で、ガリガリとスケジュール表に修正を加えていた。
(今のヨグに、最大で、どの程度の嫌がらせが出来るのか……まだ、ハッキリとした事は分からないが……少なくとも、GOOの複数召喚程度は可能らしい。鬱陶しい……計画が大幅に狂ってしまう……)
どこを、どの程度修正すべきなのか、必死に考えている途中で、
「ロケハンは……やはり、すべきではなかったのだろうか? しかし、ヨグのスペックを知っておくのは絶対に必要な一手だった」
つまらない言い訳を口にしてしまった、
が、すぐに、
(いや……俺が知りたかったのは、結局のところ、『トラベゾを使わなくても、ヨグを倒せるのかどうか』という、その一点だけだった。……ぁあ……弱いな、俺は。何百年を積もうと、根本がクソ以下のヘタレ野郎である事に変わりはない)




