17話 最低のヒーロー見参。
17話 最低のヒーロー見参。
「それは申し訳ない。ところで、どちら様なのかを窺っても?」
「俺? 砦才悟。永遠の十五歳で、蟹座のA型。好きな女のタイプは、ダイナマイトボディのドスケベで、座右の銘は『金で買えないモノは売れないから要らない』。他に知りたい事は?」
「……では、ここに何をしに来たのか、教えてもらっても?」
「何をしに? んなもん、決まってんだろ。このクソかったるいショーの演出家を説教しにきたんだよ。肉体言語でなぁ」
――ドガンッッッ!!!
と、豪快な音がしたかと思うと、ウムルの体は吹っ飛んでいた。
トコは、状況を理解するのに二秒を費やした。
どうやら、目の前にいる変態が、ウムルを殴りつけたらしい。
それは、諸々の残滓で理解できた。
吹っ飛んでいるウムル。
かたく拳を握り、右腕を振り切っている砦。
(な、なんや、この状況……はぁ?)
トコが困惑していると、ウムルが、百メートルほど吹っ飛ばされた所――空中で、ピタっと停止し、グっと上半身を上げ、砦を睨み、指をパチンと鳴らした。
その直後、殴られる直前まで立っていた場所に戻ったウムルは、
口から流れている青い血を左手で拭いながら、砦を睨みつけ、
「なるほど。ただのザコではないようだ」
「まあ、少なくとも、お前よりザコじゃねぇわな」
「……」
「自己紹介が足りなかったな。はじめまして。ぼくは、『ノゾ=キマ』という名の変態系アウターゴッドだよ♪ こんにちは」
「……」
ウムルは、警戒心を増幅させつつ、
右手に禍々しい剣を召喚して、ゆっくりと構えた。
「そこにいる彼女達とは違い、そこそこ面白いオモチャを駆っているようですが、所詮、ただの人間。高次生命に進化した私の前では、なんの脅威にもなりえない」
キラリと光る剣の刀身を、ユラユラとした黒い粒子が纏いだす。
ゼロの黒炎。
魂を焦がす幻想のエネルギー。
ウムルの中核である魔力。
「こーじせーめー?! ゼロコゲ程度の低次魔法がコアオーラなのに?! ははっ! こいつはまた、随分と、どぎついボケを放り込んできたな! お前はアレか? 二年目の芸人か?」
バカにし尽くしながら、両手にファルコンソードを召喚する砦。
軽さだけがウリの、さほど魔力は込められていないフルーレ。
「俺からしたら、お前も、あそこにいるカス女共も、大して変わらねぇ。どっちも、ただの養分。俺に食われて死ぬだけの家畜だ」
「ガキがぁ……調子に乗る時間はおしまいだ。いつだって、見下すのは私で、見下されるのは貴様ら。それが覆しようのない現実だと体に刻んでやるぞ、ゴミクズがぁ」
「口調が荒々しくなっているぞ? どうした? 何か怖い目にでもあったのか?」
「黙って、死んでろぉお!!」
一瞬で間を詰めて刺突。
恐るべき速度だったが、砦は難なくサバく。
奇怪に飛び散る黒い火花は、次弾の斬撃と残像にかき消される。
ウムルは無詠唱の瞬間移動を駆使した一フレの隙もない怒涛の連撃を繰り出すが、
砦は、その、どこから来るか分からない音速を超えた猛攻に対して、完璧に剣を合わせる。
その場から、ほとんど動かずに対応している砦は、
まるでオーケストラの指揮者、あるいは超絶技巧で打鍵するピアニスト。
対するウムルは荒々しいダンサー。
全空間を踏みしめる無限のステップは、異次元のブレイクダンス。
オーディエンスを圧倒する高次の舞踏は、限界を超えて、いつまでも加速していく。
「なあ、ウムル。そろそろ、体もあったまっただろ? 本気で動いていいぞ」
「なっ……ぐっ……ガキが、ナメた事をぉ……」
「んー、どうした? あれぇ? もしかして、これで本気だった? こんなショボい攻撃が? マジで? ……ん………………あー、悪い、悪い。お前、GOOだもんな。アウターゴッドと違って、このへんが限界だよなぁ。あっはっは」
「まるで、神と戦った事があるかのような口ぶりだなぁ!」
「ん? あるけど?」
「ほざくなぁあああああ!! 神に牙をむいて生き残れる人間など、いてたまるかぁああああああ!!」
胸の前で両腕を交差させながら、両手の指でパチンと指を鳴らすと、
空間に六本の剣が召喚される。
六本すべて、黒炎を纏っており、異質なオーラを放っている。
――宙に浮かぶ黒炎刀は、
「黒零の剣翼! 踊れぇ!!」
ウムルの命令に従い、六本の剣が一斉に、砦へと襲いかかる。
超高速で飛び交う刃の嵐。
残像を量産する剣の弾幕。
そんな、黒い暴力の雨を、
砦は、極最小の動きで回避しつつ、アクビをしながら、
「ふぁぁーあ。苦し紛れのオールレンジ兵器とか……しょーもねぇなぁ。戦闘の基礎から勉強し直せ、クソザコが」
そう呟くと、右手のファルコンソードを軽く薙いで、
「二本で充分だな……ISEファイルコード/セイバーサテライト‐システム発動。リリック、エクスカリバーコール」
宣言の直後、砦の周囲に、二本の日本刀が召喚される。
宙に浮かぶ二本の刀は、ウムルの黒い剣とは質の違う速度で空を舞い、
至極アッサリと六本の黒い刀を蹴散らしてみせた。
――刀身を叩き切られ、粒子になって消え去る黒い剣。
その光景を茫然とした顔で見つめるウムル。
「なっ……あっ……」
絶句して、口をぱくぱくさせながら、
「……ありえん」
――すっかりノケモノにされている美少女たちは、
ウムル以上の唖然とした顔でポカンとしていた。
「な、なんなん、あいつ……」
トコが思わず、ボソっと声を漏らした。
その場にいた誰もが、砦の圧倒的な強さに茫然とする。
性格は酷悪で、態度も醜悪。
だが、その強さだけは一々芸術的だった。




