16話 たのむから……
16話 たのむから……
苦々しい顔で睨みつけてくるトコに、ウムルは、
「はははははは!! おやおや、どうしたのかな? 何か怖い目にでもあったのかな?」
心底楽しそうに笑ってから、ウムルはゆっくりとトコに近づいてきて、
「いやぁ、こんなに楽しかったのは久しぶりだ。君達のように、ちょうどいいオモチャはなかなかいないのでねぇ」
「……オモチャ……か……」
「ん? 自分達の事を、それ以外の何だと思っていたのかな?」
そこで、トコは、さらに奥歯をかみしめて、グっと顔をあげ、ウムルを睨みつけた。
最後の意地。
矜持を込めて、視線に力を入れる。
「ほう……この状況で、まだ、そんな目ができるのか。いいねぇ。本気で褒めてあげよう。そこまで追い詰められて、まだその目が出来る動物は、そうそういない」
ウムルは、少しだけ目を細めて、
「本当に褒美を与えよう。もう少し、なぶってから殺そうと思っていたのだけれど、苦しまないよう、一太刀で殺してあげようじゃないか」
右手を切れ味鋭い刃に変形させると、それをゆっくりと振り上げた。
「残りの連中も、一刀のもとに切り伏せると約束しよう。せめてもの慈悲というヤツだ」
「最後に聞く。助けて……くれへんか」
「おっと、みっともなく命乞いするっていうなら、褒美はなしになるが、いいのかな?」
「勘違いすな。あたしは殺してくれてええ。そのかわり、あいつらは見逃したってくれ。頼む」
「……おいおい、随分とつまらないセリフを吐くねぇ。なんだい? まさか、自己犠牲の精神を見せれば、私の殺意が揺らぐとでも?」
「自己犠牲? 訳のわからん事をぬかすな」
「ふむ。じゃあ、今、君がしている事はなんなのかな? 興味深いから、ぜひ、言語化してくれたまえ」
「ここにおる人間の中で最も価値があるんはあたしや。単純に出せる瞬間火力の大きさだけやったら、あそこにおる赤い脳筋の方が上やけど、総合的に見て、最も価値があるんは、ぶっちぎりで、このあたし。薬宮トコこそが人類の至宝」
「……随分とほざくじゃないか。で、何が言いたいのかな?」
「そのあたしを殺せるんや。他は何もいらんやろ」
「……ふふ……はははははは!」
ウムルは、心底から楽しそうに笑ってから、
「ここで『君にそれほどの価値はない』なんて反論するのは無粋なんだろうね。くく……本当に楽しい時間だ。あっはは……で、まだ何か歌うかい? どうせだから、最後まで聞いてあげるよ」
「あたしの家族を……親友を……殺さんといてくれ。頼む」
「ふむ、で?」
「頼む」
「同じ事しか言わないなら、特に面白くもない。ネタ切れなら、ここでお開きにしよう」
「……頼む。あいつらだけは……」
「終わりだね。さて、じゃあ、そろそろ死のうか」
薬宮トコは、喋りながらも、必死に頭をまわして、この場をどうにかしようともがいていた。
時間は稼げた。
ほんの数秒だったが、確かに。
薬宮トコは神話狩り。
ゆえに、何も出来ない訳ではない。
携帯ドラゴンは万能の兵器。
それなりに鍛えてきた彼女のヒドラは無数の攻撃手段を持つ。
その全てを用いればどうにか……と、
稼いだ時間の中で、この状況の対処方法を彼女は全力で考えた。
――けれど、結果は散々。
詰み。
それ以外の解答が出ない。
(ない、ない、ない! くそがぁああ!! 今のあたしでは、あいつらを守れん!)
自分の無力さに激しい怒りを覚える事しかできない。
それでも必死に考えている。
『諦める』は選択肢にない。
探す。
この死に際で、それでも、どうにかして美麗たちを助ける方法。
けれど!
浮かばない!
どうしようもない。
この状況をどうにか出来る術などあるはずがない。
敵は、圧倒的な力を持ったGOO10体。
最初から詰んでいる。
ここが、この場所こそが終着点。
なんとあっけない……
(誰でもええ。神様でも、なんでもええ! 奇跡でも、なんでも! とにかく、なんか起こってくれ! あいつらを助けてくれるんやったら! あたしはなんでもするから! 頼むから、誰か……助け――)
「まずは、一匹っと」
無慈悲に、トコを殺そうと、刃を振り上げた。
――その時、
「いいから、早く殺せよ。なに、チンタラやってんだ」
男の声が聞こえて、その場にいた全員が、反射的に、その声の出所を探った。
探すまでもなかった。
――すぐ、そこにいた。
その男は、ウムルから見て右手側五メートルほどの位置に立っていた。
紅院の龍化外骨格よりも遥かに神々しい輝きを放つ龍を纏った男。
「ふむ……お仲間がいたのか。それは本当に聞いていないぞ。というか、我が神に見せて頂いた映像記録にはいなかった。まあ、女の中にも、知らない顔が一つ混ざっているが……どちらも新人さんなのかな? ……まあ、いい。――急に現れたのは、瞬間移動を使ったからかな? 私と同じく、時空系魔法の使い手という解釈でよろしいかな?」
「はぁ? お前、バカか? たかが転移ごときを、なに固有技能扱いしてんだよ。時空魔法なんざ、ある程度のヤツなら誰でも使える『ただの必須技能』じゃねぇか。もちろん、そこにいるザコ女どもは使えんだろうけど、そんなカス共は比較の対象にならねぇ」
「……」
訝しげな顔をしているウムル。
その眼前にいるトコは、
「あんた……さっきのノゾキ魔……まさか、あんたも……携帯ドラゴン――」
「どうも、さっきの変態でーす」
トコの言葉を遮るように、狂ったような笑顔でそう言うと、変態は、ウムルに視線を向けて、
「どれほど楽しい殺戮ショーが始まるのかなぁってワクワクしていたのに、てめぇ、ほんと、一々手緩いっていうか、出来が悪いというか……絶望の演出が下手クソすぎんだよ」




