13話 ウムル・ラト。
13話 ウムル・ラト。
トコの言葉に、誰もが顔をしかめた。
目の前に広がっている地獄のせいで、容易に想像できてしまう世界の終わり。
――トコは、ため息をついてから、
「まあ、何はともかく、最大の切り札であるあたしらは絶対に死んだらあかん。即時、撤退して、とにかく、まずは、この事を三百人委員会に――」
と、トコが『これから』について語っていると、
召喚されたGOO十体中の一体
――この中のトップだと思われる『金のヴェールをまとった男』のような異形が、
前触れもなく、ギロっと、彼女達の方に視線を向けて、ニタァァっと笑った。
「ぬぅぉお! ぁ、あかん! ここにおんの、バレて――」
――その直後、その異形はパチンと指を鳴らした。
その瞬間、彼女達の景色が一瞬、グニャっと歪んだ。
「な、なんやっ?!」
景色の歪みはすぐに収まった。気付いた時には、
「「「「「っ?!」」」」」
異形達の目の前に立っていた。
(転移魔法? 他者を五人も強制的にテレポートさせるとか、相当な魔力! あかん!)
先頭に立っている『金のヴェールをまとった男』のような異形が、
「認識阻害の魔法は、屈折率の操作も同時に行わなければ意味がないのだよ」
淡々とダメ出しをしてから、上品に右手を左胸にあてて、
「それでは、改めまして、ごきげんよう、お嬢さん方。私はウムル=ラト。偉大なる神に仕える者。得意技は時空操作。よろしく、どうぞ」
ウムルのオーラにあてられ、トコは思わず一歩後退りする。
(こいつ、これまで闘ってきたGOOとは魔力の質が違う……間違いなく上級……ぃや、もしかして、最上級のGOO?!)
「私はとても寛大なので、君達に、作戦をたてる準備をあげよう。君達が行動を開始するまで待っていてあげるから、さあ、存分に話し合いたまえ。さあさあ、私達という脅威に対し、どのように立ちまわるかね?」
ウムルの言葉が切れるとほぼ同時――紅院は、反射の速度で叫ぶ。
「総員、退避!!」
紅院美麗が、神話生物対策委員会の七代目リーダーという地位につかされた理由は三つある。
・神話狩りとして最強であり、
・危機感知能力が高く、
・判断力が優れているから。
「私が時間を稼ぐ!」
勝てない。
死ぬ。
その数は少ない方がいい――
「全員、はやく逃げなさい!!」
額にびっしりと冷や汗をかいている紅院。
プルプルと震えながら、しかし、その目はウムルを睨みつけている。
ウムルは、くつくつと笑いながら、
「好手ではない……とだけ言っておこうかな」
そのたしなめるような口調に、トコは不快感をあらわにした。
ふざけやがって、という言葉を噛み殺しながら、
「……アホか、ミレー」
これまで、トコは、『紅院がリーダーとして下した命令』ならば、
それが、たとえ、どれだけ無茶な内容であろうと、
必ず頷いて、即時実行し、完璧に遂行してきた――が、
「この状況でミレー一人が稼げる時間なんか、二体を相手に二十秒がええところやろ。こっちは、残り八体にボコられて終了や。もっとマシな案だせぇ」
「融合すればいいでしょ! 全員、携帯ドラゴンを私に譲渡して! 五体融合すれば、十体を同時に相手取っても二分は稼げる! いえ、稼いでみせる!」
寝言をほざいている紅院の額に、トコは、
「ぁうっ!」
デコピンを入れた。
「五体融合状態で死なれたら、この世に存在する全ての携帯ドラゴンが死んでまう。そうなったら、ジ・エンドや。人類は、この先、無防備な状態になる。考えてからモノ言えや」
「……だ、だけど!」
「テンパる気持ちは分かるけど、落ちつかんかい。まず、相手に時空魔法の使い手がおる時点で逃走は不可能って事を理解せぇ」
「くっ……」
「ミレー、こうなったら、戦うしかない。まあ、負けるやろうけど……でも、あたしらは、家族やろ? 最悪の時は、一緒に死のうや」
トコの言葉を聞いて、紅院は、両目をギュっと閉じて、軽くうつむき、
「……ごめんなさい」
かすれた声で、ボソっとそう言った。
「ごめん? はぁ? 何が? まさか、自分のアホさ加減を謝っとんの? もし、せやったら、気づくん遅すぎやで」
「守ってあげられなくて……ごめんなさい」
「……最後まで姉貴気取りか。腹たつわぁ」
トコは、薄く微笑んでから、キっと表情を締めて、
「猛毒の携帯ドラゴン、起動。ヒドラ、来ぃ」
現れた二頭身のドラゴンが、パタパタと空を飛びながら、敵を威嚇している。
飼い主に似て気合いが入っている。
――トコは、視線を、敵に固定させたまま、
「マナミ。ツミカ。ナオ。あんたらは逃げぇ。あたしとミレーの二人で、どうにか――」
「治癒の携帯ドラゴン、起動。アポロ、来てください」
「撃滅の携帯ドラゴン、起動。メギド、来てほしいにゃぁ」
召喚される二体の小さなドラゴン。
アポロは若干怯え気味だが、決して目は死んでおらず、
メギドは、飼い主に似て、ポケーっとしている。
臨戦態勢に入った二人を尻目に、トコは苦笑する。
「……アホばっかりやなぁ。しゃーない、ナオ。あんただけでも逃げぇ。それで、この緊急事態を全世界に伝えるんや。とりあえず、まずは、この名刺の番号に連絡を――」
「わ、私も戦うっ。何もできないかもしれないけど、みんなを置いて逃げるなんて無理っ」
「……あんた、ほんま、ええ根性しとるな。……よっしゃ、ほな、全員で、このクソみたいな運命に抗おうとしよぉか。実際のところ、新人の神話狩りが一人だけ生き残った所で先は知れとるしな。――さあて、ミレー。ショータイムや。全力で援護したるから、あのクソったれ共に、一泡吹かせたれ!」
皆の覚悟を受け止めた紅院は、グっと奥歯をかみしめて、
「……トランスフォーム。モード・GOO/レベル2」
宣言した瞬間、紅院の体が、真っ赤な闘気を放つ龍化外骨格に包まれた。
脈動するジョイントは焔を纏っていて、時折、黒煙を吐きだしている。
顔だけが見えている兜の額には、燃え盛る火炎を象った猛々しいブレードアンテナ。




