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案件03:妖精忍者転生希望者 ユリカ・ミスティル

天界庁舎の朝は、柔らかな光に包まれて始まった。書類の山を静かに照らす鐘の音が、今日も転生課の机を揺らす。アルフレッドは、山積みの申請書を前に深くため息をつく。


「……今日も転生業務か」

 神様と思われる立場だが、実際はただの公務員業務そのもの。書類確認、能力調整、転生希望者の安全確保、異世界への影響の検討。毎日が同じようで、しかし毎回違う困難が待っている。


 午前九時、転生課の扉が開いた。小柄で華奢な女性が、元気いっぱいに駆け込んでくる。背中には小さな翼があり、足元には軽やかなステップ。


「こんにちは! 転生課ですか? 私はユリカ・ミスティル! 妖精忍者として異世界で活躍したいんです!」

 アルフレッドは書類を手に取り、眉をひそめた。


 ――希望職業:妖精忍者。能力は隠密行動、軽業、忍術。性格は好奇心旺盛でおっちょこちょい、森で迷子になりやすい。


「……妖精忍者ですか」

 静かに言葉を発したが、内心は戦々恐々。忍者の能力は制御可能だが、森で迷子になるおっちょこちょいな性格は、異世界で予期せぬトラブルを引き起こす可能性がある。


 アルフレッドは内部連絡用ホログラムを起動した。

 『妖精忍者転生希望者、能力制御・安全確認担当、至急』


 ユリカは目を輝かせながら、周囲を見回す。

「忍者の世界って、森とか山とかすごく広いんですよね! 冒険が楽しみです!」

「……楽しみも大事ですが、安全面も重要です」

 アルフレッドは書類に目を通し、能力制御と社会への影響を確認する。


「ユリカ・ミスティル。君の転生は条件付きで認める。能力は十分だが、森での迷子や過剰行動は控えること」

「えー……でも忍者って自由に動くのが楽しいんですよ!」

 小さな翼をぱたぱたさせて抗議するユリカに、アルフレッドはため息をつく。


 転生手続きが始まる。光の粒が部屋を満たし、書類とホログラムが交錯する。アルフレッドは一つひとつ確認しながら、手続きが正確に行われることを祈る。


 光が強まり、転生門がゆっくりと開く。黄金色の光がユリカを包み込む。

「ユリカ・ミスティル。君は妖精忍者として、新たな世界で歩み始める」


 光の中に歩を進めるユリカ。森の香りを感じるような軽やかな表情を浮かべる。

「やった! 忍者生活の始まりだ!」

 その小さな翼が光を反射し、部屋中にきらめきを散らす。


 転生後、ユリカは最初の森に到着するや否や、軽やかに木々の間を飛び回る。枝を飛び移り、葉の間をすり抜け、まるで風そのもののようだ。だが、その無邪気な動きが原因で、森の小動物を驚かせ、時には迷子になりそうになる。


 アルフレッドのデスクには、ユリカの行動報告がホログラムで届く。

『ユリカ・ミスティル、森Aで訓練中。枝移動中に小動物を驚かせる。迷子になりかけるも自己修正』


 アルフレッドは苦笑する。予想通り、だがユリカの能力は確かに一流だ。軽業、隠密行動、忍術は完璧で、森の中では敵に気付かれることなく移動できる。


 ある日、森で巨大な怪物に遭遇する。ユリカは軽やかに飛び上がり、忍術で攻撃をかわしながら、森の奥に誘導する。怪物は罠にかかり、村には被害が及ばなかった。村人はユリカの勇気に感謝し、彼女を讃える。


 報告書がアルフレッドの元に届く。

『ユリカ・ミスティル、森Bで怪物討伐成功。被害なし。村人の満足度高し』


 アルフレッドは手紙を胸に当て、深く息をつく。

「……やはり、この仕事はやめられない」


 窓の外に広がる夜空の光が、庁舎内の書類と机を柔らかく照らす。今日もまた、転生課では一つの魂が未来へ送り出されたのだった。


 机の上には、まだ次の希望者の書類が山積みだ。アルフレッドは背筋を伸ばし、再び眼前の仕事に集中する。神様公務員の一日は、今日もまた書類と未来を守る戦いで満たされていく。

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