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案件11:王都一のパン屋を目指すアンジェラ

朝の天界庁舎。澄んだ鐘の音が鳴り響き、転生課の机には今日も山積みの書類が置かれていた。


「今日も転生業務スタート……」

若き神官アルフレッドは、深いため息をつきながら山のような書類を整理する。光の差し込む庁舎、浮かぶ魔法ホログラム、書類の束。それらすべてが、彼の日常であり、戦場でもある。


午前九時、光の扉が開き、一人の女性が現れた。


「わたくし、アンジェラと申します」

落ち着いた雰囲気で歩く彼女は、黒髪をまとめ、手には小さな袋――焼きたてのパンの香りがほのかに漂う。


「異世界でパン屋を開き、王都一を目指したいのです」


アルフレッドは書類をめくりながら眉をひそめる。

「技能系の転生希望者ですね。腕前と経済知識があるそうですが……具体的な希望は?」


アンジェラは落ち着いた声で答える。

「腕前は一流です。材料や道具の扱いも熟知しています。さらに、異世界の商売に必要な経済観念も学んできました。人々に喜ばれる店を作り、王都一のパン屋になりたいのです」


アルフレッドは魔法端末を操作し、候補世界のリストを映す。魔力文明の発展度、都市人口、経済の安定度。慎重にチェックしなければ、転生後に望む生活が保証されない。


「……この『カルディア王国・王都ルクシオン』が適当でしょう」

彼は指を止める。安定した都市で、パン職人として活躍できる。資源や材料も入手しやすく、魔法文明も発展している。アンジェラの希望に最適だ。


「ありがとうございます!」

アンジェラの瞳に希望の光が宿る。アルフレッドは軽く頷き、厳しい声で最後の確認を加える。


「転生は希望通りにいかないこともあります。困難も待ち受けるでしょう。それでも覚悟はあるか?」


「もちろんです」

アンジェラは力強く頷く。

「技術も心もすべて注ぎます。人々に笑顔と美味しいパンを届けることこそ、私の使命です」


アルフレッドは深く息をつき、光の転生門を開く。アンジェラは胸を張り、未来の王都へ一歩を踏み出した。


門が閉じ、静寂が戻る転生課。アルフレッドはデスクに肘をつき、ため息をつく。

「……やはり、この仕事はやめられないな」


その日の書類を処理しながら、次々と訪れる転生希望者を思い浮かべる。どの希望者も個性豊かで、奇抜で、時に無理難題を言ってくる。しかし、それを調整し、未来へ送り出すのが彼の仕事だ。


今日もまた、天界の片隅の小さな部署で、未来を紡ぐ物語が静かに始まるのだった。

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