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案件10:剣聖になりたい男 宮本小次郎

朝の光が差し込む転生課本部。

書類の山を前にため息をつくアルフレッドは、今日も慌ただしい業務に追われていた。


「ふぅ……今日も転生希望者が多いな……」


そこへ、ひときわ異彩を放つ青年が現れる。

背筋を伸ばし、黒髪に日本風の小袴を着たその姿は、まるで時代劇の主人公がそのまま転生課に迷い込んだかのようだった。


「はじめまして! 私、宮本小次郎と申します!」


アルフレッドは眉をひそめる。

「……また、面倒そうな人が来たな」


小次郎は興奮気味に説明を始める。

「異世界転生が大好きで、いつか自分も剣聖になりたいと夢見ていました!

 異世界でも、ぜひ日本に似た世界で修行したいです! 武器は刀で、もちろん侍のように振るいたいです!」


アルフレッドは書類を見ながら小声でつぶやく。

「剣じゃなく刀……しかも和風世界希望……いや、転生課にこんな希望出す人、初めてだ」


小次郎はさらに熱弁をふるう。

「私はこれまで数百冊の剣術書を読み漁り、刀の扱いをイメージトレーニングしてきました!

 異世界に行ったら即座に剣聖の道を歩みます!」


アルフレッドはため息をつきながら、内部ホログラムで上席に確認する。

『特例承認依頼:異世界転生希望者・宮本小次郎。希望世界:日本風。武器:刀。目的:剣聖。』


ホログラムからの返答は早かった。


「……ええと……特例として受理。ただし現地指導者は必須」


「……やっぱりか」

アルフレッドは深く息をつく。


小次郎は興奮のあまりメモ帳を取り出す。

「えっと、異世界に行く前に、転生課での手続きも全力で学ばせてください!

 書類の意味とか、魔力補正とか、事前調整とか、全部理解してから転生したいです!」


「……面倒だな、君」

アルフレッドは頭を抱えたが、職員の顔はどこか楽しげだった。

「まあ、ここまで熱意ある人は珍しい……いや、初めてだな」


小次郎は書類に目を通しながら質問を続ける。

「魔力補正はどうやって決まるんですか? 知識補正はどうですか?

 転生後の成長速度も重要ですよね! あ、武器適性はどう評価されるんですか!」


アルフレッドは一つ一つ答えていく。

「魔力補正は生まれ持った素質と現地環境で決まる。知識補正は事前の研修で加味される。武器適性は……実際に現地で試すまで分からない」


小次郎は熱心にメモを取り、目を輝かせる。

「わかりました! すべて把握しました! これで転生しても失敗しません!」


アルフレッドは深く息をつき、つぶやく。

「……いや、現実はそんなに甘くないんだぞ……」


その後も、アルフレッドはホログラムで魔力補正、体質適合、刀の扱い方などを逐一チェックし、小次郎の転生申請を「異例の特別案件」として優先処理することに決めた。

書類が整い、転生課のホログラムルームで最終説明が行われる。


「宮本小次郎さん、あなたの転生は正式に承認されました」

アルフレッドは深呼吸しながら伝える。


「ありがとうございます! これで夢が……夢が叶う!」


小次郎は嬉しさのあまり、空中に刀の構えを取ってポーズを決める。

アルフレッドは思わず眉をひそめる。

「……まずい、現実の刀は持ってないのに……」


転生課の規定により、現地での初期装備は調整されることが説明され、刀も現地製の最適な一本が用意されるという。

小次郎はホログラムで仮想体験を行い、刀の振り方や姿勢を確認。


「……これなら大丈夫……」

「いや、現実は甘くないからな……」


アルフレッドは最後に忠告する。

「転生後は思った以上に環境が違う。理想と現実の差に苦しむかもしれないぞ」

「ええ、もちろん覚悟してます! 俺、剣聖になるんですから!」


こうして、宮本小次郎の異世界転生への第一歩は、転生課の書類とホログラムに囲まれた中で始まった。


アルフレッドは静かに息をつき、机の上の書類を見ながら独り言をつぶやく。

「……毎回、こんな面倒な希望者ばかりだけど……」

そして少し笑みを浮かべて付け加える。

「……やっぱり、この仕事は辞められないな……」


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