前兆
「えっ、これって…」
天使の少年は引き金に指をかける時になって、始めて何かに気付き動揺する
背中合わせに立って応戦していた悪魔の少年は、苛立たしげに「引き金を引け!早くしないと死ぬのは俺たちだ!」と彼を急かした
程なくして二人が同時に武器の引き金を引く
筒状の砲身から5100℃のメギドの炎が轟音と共に迸り、銀行の行員たちを物理的に破壊した
そのまま二人は背中合わせに立ったまま、360°を水平に薙ぎ払う
最初に破壊による暴風が、そして次に熱による死が命を奪った
「お前の言う道徳が、これを与えてくれたか?」
「落ちぶれてまで正しさにしがみつく意味はねえ、楽しくやろうぜ」
悪魔が、それに相応しい嗤いで天使の子供を視る
銀行内には非常ベルが鳴り響いていたが、それに応えて集まるべき者達は総て粉々になっていた
「見ろよ、これだけあればお前と一生遊んで暮らせるかも知れねえ」
悪魔の子供が金庫の扉を開き、恍惚と札束を手にした
天使の少年は、それを浮かない顔で眺める
「どうした、またいつもの『予感』か?」
「なんかあったら知らせろよ」
「その『予感』を察知するために、お前なんかと組んでるんだからよ」
悪魔の少年は鞄に次々と札束を投げ込んでいく
その時、物陰から近付く気配があった
気配の源を探し、天使の少年は周囲を見渡す
「ねえ気を付けて」
「誰かいる…!」
悪魔の少年は札束に夢中で、小声での警告を意に介さない
天使の少年が大きい声を出すか迷っていたその時、銃声が響いた
本来神聖だった筈の血が、金庫を紅く染め上げる
銃声に気付いた悪魔の少年が振り向くと、そこには自分を庇うように両手を広げて立つ、一人の天使の背中が視えた
「君の言う欲望が、いま君を守っていると思う?」
「こんなにも落ちぶれているのに、過ぎた欲望にしがみつく必要は僕は無いと思う」
「僕は君さえいれば、本当はそれだけで良かったよ」
一つの生命が喪われた