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「どうしてあれだけ馬鹿にされても言い返さない?」
言い返す勇気がないのか、と煽られている気持ちになった。
それが酷く恥ずかしく、私は自分を守るような言い訳をしてしまう。
「馬鹿にされるのは慣れているから」
ああ、なんて惨めなのかしら。
こんな羞恥を感じながら生きたくはない。誇りを持って、胸を張って生きたい。
「そんなものに慣れるな」
重く強い口調でヴァリスはそう言った。
…………私は傷つかない方法を探していただけだ。見返す力を手にいれてこなかった。
私はヴァリスの言葉にハッとした。恥ずかしくて、悔しくて、泣きたかった。……けれど、ここにはもう私の泣き場所なんてものはない。
グッと下唇を噛み、私は静かに決意をした。
自分が弱いことが許せない。
「ソード」
私は小さくそう呟いた。
ゆっくりと私の右手に先端の尖った剣が現れる。
魔法の才能がない私ができる数少ない魔法。剣を生み出すなんて、ほとんど役に立たないと言われたが、それは王女の私にとってだ。
この場所で生き抜くには必ず剣が必要になる。
「はっ、まじかよ」
ヴァリスは私が剣を作り出したことに驚きの笑顔を浮かべた。フードで顔はよく見えなかったが、笑っていることだけは分かった。
「残り六日の命、生き抜いてやる」
「それは楽しみだ」
私はギュッと剣を持つ手に力を込めた。
剣だけ持っていても何の役にも立たない。剣術など習ったことがない。……それでも、ないよりかはあった方がましだ。
実戦で強くなるしかない。
私には守りたい存在がいるわけではない。だけど、己の誇りは守り抜きたい。
「じゃあ、まずはシャワー室を生き抜いてこい」
ヴァリスはそう言って、私をシャワー室の方へと背中を強く押した。
その勢いに思わず転んでしまいそうになる。
私はなんとか姿勢を戻し、剣を手から消した。そして、背筋を伸ばしシャワールームの方へと足を進めた。
ヴァリスが小さな声で何か言ったような気がしたが、聞き取れなかった。
「魔法を無効化されている牢獄で魔法を使ったか……」




