8
処刑日まで、残り六日。
「起きろ! シャワーの時間だ!」
その乱暴な言葉に私は目を覚ます。瞼をゆっくりと開けて、見慣れていない景色に魔界の牢獄にいることを再認識させられた。
そうだった、私、あと少しで死ぬんだったわ。
「ほらっ、とっととお前も出ろ」
門番によって、乱暴に牢から出される。
私はぼさぼさの髪や服装を整えずに牢獄の廊下へと出された。そこにはここにいる死刑囚たちが皆並んでいた。
色々文句を言ったりしているが、ちゃんと並び、ぞろぞろと歩き始める。
どういう状況かまだはっきりと理解していない状態だが、彼らに連なって足を進めた。鼻をつくような激臭に思わず顔を顰めてしまいそうになる。
魔物のような者も沢山いる。あまりにも危険そうな人物には足枷がついている。
シャワー室がどのような場所か分からないが、私がこのまま一緒の場所へ行って、殺されたりしないのだろうか。
「おいおい、人間のお嬢ちゃんがいるぞ」
「えらく別嬪だなぁ」
「こりゃ、うまそうだ」
「高貴な血の匂いがするぞ」
綺麗な顔をした魔族たちが私のことをじろじろと見てくる。
四人に囲まれて、私は前に進めなくなった。屈強な体を持つ彼らに敵うはずがない。けれど、ここで肩をすぼめていても余計に狙わるだけだ。
ここには姉はいない。助けてくれる人など一人もいない。
「通してちょうだい」
「なんだ、お前。自分が置かれた状況が分かってねえのか?」
「これだから人間は俺たち魔族より劣っているんだよ、頭の弱い生き物だ」
魔族たちはガハハと下劣な笑い声を上げる。
そんな風に人を馬鹿にすることしか能のない魔族の方がよっぽど頭の弱い生き物なんじゃないかしら。
そう言い返したかったが、グッと言葉を飲み込んだ。
「こいつでちょっとぐらい遊んでも怒られないだろ」
魔族の中の一人が私の髪を少し触る。その瞬間、背中に悪寒が走った。
気持ち悪い。こんな品性のない男に性的な目で見られるなんて……。無礼者、と声を出したかったが言葉が出なかった。
「なれ合いは禁止している」
私が恐怖で動けなくなっていると、マントを被った見覚えのある子が男の腕を掴んだ。その反動で私の髪から男の手が離れる。
……ヴァリス!!
思わぬ彼の登場に私は固まったまま彼を見つめた。
ガタイのいい魔族の隣に並ぶと本当に「少年」という雰囲気がある。それなのに、ヴァリスが負けるとは思えなかった。
「小僧、今お楽しみなのがわかんねえのか?」
「早く行け」
ヴァリスの言葉に男が舌打ちをする。男は無理やりヴァリスの手をふりほどき、「行くぞ」と魔族四人はシャワー室の方へと向かった。
ヴァリスが握っていた男の手は少し赤くなっていた。
……一体どれだけ力をかけたの。
「ありがとう」
私は短くお礼を伝えた。
「秩序が乱れると困るだけだよ」
「もう既にカオス状態だけどね」
私はそう言って、笑った。小さな震えを必死に抑えながら、笑顔を作った。
これから向かうシャワー室はああいう輩が沢山いる。
処刑日までに死ぬ可能性の方が高いような気がしてきた。
「弱いものは簡単に死ぬ、それだけだ」
私の心を読み取ったのか、ヴァリスは静かにそう言った。私は弱々しい声で「そうね」としか返せなかった。
強くならなければいけない。そう気づくのにはあまりにも遅すぎたし、時間がない。
今まで第二王女の立場に甘えてきた私には何も戦える武器などない。