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「…………それ?」
私は何のことを言われているのか分からず、思わず首を傾げてしまう。
ヴァリスはゆっくりと私の方へと近づいてくる。柵のギリギリまで近づいて来て、私を射貫くように見つめた。
彼の言動全てが理解出来なかったが、私は黙って、彼からの言葉を待った。
「お前の放っているその異質な魔力はなんだ」
……どういうこと? 異質な魔力って何?
私には放つほどの魔力なんてものはない。
「気付いていないのか?」
「気付いてるもなにも、私は魔力をほとんど持ち合わせていないわ」
魔力があったら、もっと魔法の才能を伸ばしている。……王家直属の魔法教師に見てもらって、このレベルだ。なかなか救いようがない。
「…………まぁ、いい。俺はもう行く」
何か隠されたのは確かだったが、これ以上問い詰めてもヴァリスは何も答えてはくれないだろう。
……処刑日が分かったということは、彼は魔王とは繋がりがあるはずだ。
彼の立場がどういう位置なのか分からないが、手助けしてもらえるかもしれない。
私が彼の名を呼ぼうと思った瞬間、ヴァリスは私の前から消えていた。それと同時に門番が目を覚ます。
私が鉄格子の前に立っているのを見て、「早く寝ろっ」と注意する。門番の声は耳に届いていたが、私は今の出来事に呆気にとられて暫くぼんやりと立っていた。
『お飾りの第二女王様』
『エマ女王に比べてオリビア女王はあまりにも……』
『才を全てエマ女王に取られてしまったんじゃないかしら』
『しっ、聞こえてしまいますわよ』
煌びやかな舞踏会で、扇子で口元を覆いながら私の悪口ばかり。
それでも私はずっと笑っていた。何も知らないふりをして無邪気に笑っていた。
父は私に何も言わなくなり、私を見る度、ため息をつく。弟は私がいないかのように扱い、姉を慕っていた。
私専属の侍女シェリー以外は私のことを鼻で笑っていた。直接何かを言われたことはないが、使用人たちの私を見る目で彼らの気持ちを察することができた。
母と姉はいつも私の味方だったが、母は弟を産んですぐに亡くなった。
『大丈夫よ、オリビア。オリビアには私がいるから』
姉は優しかった。そして、強かった。
私には誰かを守れるようなそんな強さはなかった。ただ、泣きじゃくることしかできなかった。
『お姉様はどうしてそんなに強いの?』
『守りたいと思う人がいると、人は強くなれるのよ。だから、オリビアが私を強くしてくれているの』
そう言って笑った姉の顔がずっと忘れられない。
寂しい心を必死で押し込めて、弱い私のために涙を流さずに微笑んでくれた。
……姉の泣き場所には私にはなれなかった。