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 私は劣悪な環境であるこの場所で眠ることができなかった。

 日の光が入ってこないここでは、今が本当に夜なのか分からない。だが、ここにいる者たちは、この環境になれているのかいびきが聞こえてくるほどぐっすり眠れているようだ。

 ……お腹が減った。

 やはり、あのパンだけでは足りなかったようだ。……それにお腹が痛い。冷や汗がさっきから止まらない。

 私はお腹が両腕で抱え込むようにして、地面に横になっていた。

 王族だから、毒に対しての免疫力はある。だが、菌に対しての免疫力は皆無だ。


「……なにか楽しいこと」


 楽しいことを思いうかべて、気を紛らわせようとした。

 …………魔界は人間界とは全く違う。ずっと、空気が重い。慣れるまでに少し時間がかかった。

 魔界に来る、はやりたいことリストの中にはなかった。……それなのに、こんなところまで来てしまった。

 私の「やりたいことリスト」など、傍から見れば、なんの面白みもないものばかりだろう。

 それでもいい。笑われても、自分のしたいことをできない人生など歩みたくない。

 世界は思っていたよりも私たちに優しくない。だからこそ、私はもっと強くなって、優しさを忘れないでいたい。

 腹痛に耐えながら、私はそんなことを考えていた。


「お前、死ぬのが怖いか?」

 

 突然のその言葉に私は咄嗟に体を起こした。

 柵の方へと視線を向けると、今日パンを配布してくれたマントを被った少年が立っていた。暗闇で良く分からなかったが、彼だということは分かった。

 闇に輝く黄色い瞳に私はやっぱり綺麗な瞳だと思った。月光を放つようなその目に私は引き寄せられる。

 …………どうして彼がここに?

 私は不思議に思いながらも、柵の方へと近づいた。お腹が痛いと何も考えられないし、動きたくない。これぐらいの苦しさで、何もしないわけにはいかない。

 彼の方へと近づくと、柑橘系のさっぱりとした匂いが鼻をかすめた。


「こんばんは」


 私は、まず挨拶をした。


「質問に答えろ」

 

 少年の言葉に私は「ええ、とても」と微笑んだ。

 死ぬことが怖くないわけがない。いくら肝が据わっていても、「死」という恐怖からは絶対に逃れられない。


「なぜ、笑っていられる?」


 私はその言葉に少し間を置いて答えた。

 

「泣いても笑っても同じ道、ならば、私は笑っていたい」

 

 それが答えだった。

 彼の黄色い瞳が見開くのが分かった。固まったままこちらを見つめる彼に私は付け足した。


「避けられぬ恐怖への対峙の仕方など知らない。だから、今、必死にそれを見つけようとしている。今になって必死に『生』に執着しているなんて馬鹿らしいかしら? ……これほど多くの命を奪っていても、奪われる側の気持ちを考えたことはないでしょ? 私も今までなかったわ。自力で抜け出せないような絶望がそこにある」


 そう、どうしようもないぐらい怖い。

 独りだということも、抗えない力も、何もかもが惨めで、やるせない気持ちになる。

 私がそこまで言い終えた後、暫く沈黙が流れた。

 …………そもそも、どうしてこの少年は私の元へと来たのかしら。

 魔族が人間を気に掛けるとは思えない。


「お前の処刑日は七日後だ」


 透明感のあるその声に血の気が引いた。

 この現実は変えられようのないものだという現実を突きつけられた気がした。

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