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エルヴィア国の第二王女として生まれた。
品行方正で、才色兼備の第一王女――姉に比べて、私は劣っていた。
十六歳となった今も私は何か秀でた能力を持たずに、呑気な立場で生きていた。
弟は跡継ぎとして、幼い頃から熱心に教育を受けていたし……。私は本当にパッとしない人間だ。
褒め言葉としては、「容姿端麗」ぐらいしか言われない。
姉の容姿と私の容姿はかなり正反対だ。父親譲りの姉の外見はクールビューティーという言葉が良く似合う。母親譲りの私は穏やかで柔らかい雰囲気だ。
お互い腰ぐらいある髪の長さは同じだが、艶やかななストレートの金髪である姉に対して、私はふわっと少し癖のある金髪だ。姉の瞳は突然変異による非常に珍しい赤色の瞳だが、私の瞳は淡いブルー。
威厳のない私の外見に対して、姉はまさに物語の主人公のような人だ。
私は、頭は悪くはないが、良くもない。運動はあまりしてこなかったから、自分の運動神経がどれぐらいなのかも分からない。
魔法は……、これについてはほとんど触れたくないほど、私には才がなかった。姉は奇跡の子だと言われるほど優秀だった。魔法の技術も魔力もまさに伝説そのものだった。
父が王位継承者を弟よりも姉にするべきかと悩んだほどだった。この国では「女王」という立場はよほどのことがない限り認められない。
……姉があまりにも優秀過ぎる。それに、性格も漢気があって完璧なのよね。
私は完璧には程遠い。もはや、誰も私に期待しているものなんていないもの。
元々、自分の力量は分かっているつもりだったが、今日、改めて、私は何も持っていない、ということを痛感した。
私は第二王女という地位があっただけで、空っぽなのかもしれない。
死を目の前にして、初めて「何か行動しなければ」と強く思った。心の底から熱いものがこみ上げてきた。今まで眠っていた私の熱意が命を奪われる少し前にして、初めて現れたのだ。
……遅すぎ。
だが、今回のようなきっかけがなければ、私は死ぬまでずっとぬるま湯につかったまま、時間をただ消費するだけの毎日を送っていたに違いない。
…………それは私の中で「生きている」とは言えない。
そして、現在、私は鉄格子のなかで地面に座り込んでいる。
何もできない。この牢屋から出る力など私にはない。……ただこの冷たく暗い場所で処刑の日が来るのをじっと待ってるの?
……無理、我慢できない。
私はその場に立ち上がり、乱暴に髪を一つにまとめた。
魔界に入ってから、かなり汚れてしまったドレスと身体。こんなボロボロの状態なんて初めてだ。
…………誰一人味方がいないところでどうやって戦えばいいのかしら。
私は意気込んだのはいいものの、これからのプランを全く考えたなかった。こんなにどうしようもない状況なのに、心のどこかでワクワクしている自分がいた。
今まで経験したことのない興奮がそこにはあった。
「ねぇ! そこの貴方! 貴方よ、貴方!」
私はこの地下牢まできた階段の前に立っている魔族に声をかけた。
大きな刃がついた槍のようなものを持った牢の門番は私の方へと視線を向けて「黙れ!」と怒鳴る。
その声に私は少し委縮してしまった。
…………これぐらいでビビっているようじゃダメよ。
「私、魔王様に話があるの!」
「お前のような下賤な人間が魔王様にお会いできるわけないだろう!」
人間界では紛れもなく私は王女だった。それが今では罪人のような扱いだ。
本当に私はこの世界の者ではないのだと改めて実感した。屈辱と悔しさが入り混じった感情になる。
荒い声を出す魔族に私も負けてはならないと気持ちを固める。
「もうすぐ死ぬ者の願い事ぐらい聞いてくれてもいいじゃない」
私の言葉に門番はニヤッと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「どうしてお前だけが特別扱いが許されると思うんだ? この牢にいるもの、全員処刑が決まっているんだぞ?」