初めての乗馬
この街に1000もの軍勢が押し寄せている。到着予定は明日。
この街で戦えるのは100に満たない、王都に援軍を要請しようにも往復で二日はかかる。
時間も戦力もない。正に絶対絶命。
それを打開するにはピッパちゃんと彼女の馬の力がが必要だ。
しかしまだ幼い彼女を戦争に関わらせていいのか?余所者の自分にそんな権利があるのか?
けど街の人と打ち解けて少なからず愛着もある。ピッパちゃんはもちろん、エルラさん、ザキオさん、自分の演奏を聞きにきてくれる人達、ギターを教えてくれと慕ってくれてる人達。そんな人達を失う事は絶対に出来ない。
ピッパちゃん!どこにっ!
街は、敵国が攻めに来ていると聞いたのか人達は混乱していて、そんな中呆然と立ちすくむピッパちゃんの姿を見つける
そして何かにすがるように
「はぁはぁ。。。ピッパちゃん!ノーザン帝国がこの街に向かって来ているんだ。このままだとこの街の人も大変な事になる!君と君の馬の力を貸してくれないか?」
息絶え絶えにそんな事を口にした。彼女の前では気丈に優しく振る舞おうと決めていたのに、本当に情けない。
彼女を見ると手は震え、顔は青み掛かっていた。
やっぱりこんな事をお願いしてはいけない。他の方法を考えないと、と思考を巡らしていた時
彼女はブツブツと馬に話しかけ、それと同時に彼女の手の震えは止まり、青白かった彼女の顔は色付き始めものすごい強い意志のある視線ではっきりと
「分かりました。私とジャンヌで良ければ力になります!」
と言った。
前世でもこんな目は見たことがない。テレビに映っていた日本代表の選手達に少し近いが彼らの目には少し野心がかった色をしていたが、今の彼女の目には野心など何もなく、言葉にするのが難しいが、凄い生命の力を感じる。
「ありがとう、では着いて来てくれるかな」
と気の利いた言葉も言えず、いやむしろ彼女のその強眼差しに気後れしてしまったのかも知れない。
しかし自分の方が大人だし何とか会話しないとと考えていると、先程気になった事を口にした。
「ひょっとしてピッパちゃんは馬と話せる?」
するとピッパちゃんは少し慌てた様子で
「えっ!?何でその事を!?」
「いやさっき馬と会話していたように見えたから。」
やっぱり!これはでかい!
その話を聞いてから色んな事に考えを巡らせ急いで宿屋に向かい、前に買っておいた革や布、鉄を持って領主邸に向かった。
領主のサクシードは外で落ち着きの無い様子で待っていた。
「おぉ、吟遊詩人様、そして彼女は確かピッパと言ったか。すまない先の戦では君の父を無事に帰すことが出来なかった。本当にに申し訳ない。」
うちの上司なんて人に頭下げた事なんて一度も見たがないのに。なんて前世の事を考えいたらピッパが
「いえ、今はその事はいいです」
と彼女は自分を見て自分に話しの続きをと促した
そんな彼女を見てサクシードさんもこちらをみて
「では吟遊詩人様、考えとは?」
「シュンで構いません。王都の援軍要請にはピッパちゃんとこのジャンヌに行って貰います。」
「いや先程も言ったが馬に跨った所で馬は人間の言う通り動かないだろう。」
「はい、そのまま跨ってもサクシードさんの言う通りです。思い通り動いて貰うには道具を使います」
人類と馬の関係は紀元前に遡る。人類は馬を使うことにより、より早く、より多くの物を運び、そしてより強くあり続けた。
それを可能にしたのは『ハミ』という道具だ。
馬の歯は前歯と奥歯の間に空間があり、その間にハミを咥えさせ、そのハミと繋がった手綱という縄を手にとり、迅速にかつダイレクトに人間の意思を伝える道具。
競馬場の中にある博物館にそんな資料と道具を何度もみた。
その道具を想像しハミを作り上げる。さすがクラフトレベル99!全く同じ物をが出来上がった。
次にジャンヌの負担を軽くするために馬の背に装置する座布団のようなもの、俗に言う『鞍』も作る
ピッパちゃんやサクシードさんはものすごい勢いで出来上がる道具に困惑しつつ
「それでシュン、その道具はどの様に使うのだ?」
「はい、この道具はこの様に使います。ピッパちゃん、ジャンヌにちょっとびっくりすることをするけど痛くはしないから大丈夫って伝えてくれる?」
「え?あ、はい!ジャンヌ、シュンさんを信用してあげて?大丈夫。シュンさん嫌な事はしないから」
と、ジャンヌを撫でながら話かける。
するとジャンヌはすごく穏やかな表情をする。
本当に会話出来るんだ。これなら大丈夫そうだ
本来馬に跨るには馴致という段階を踏む。ハミや鞍は危ないものじゃない、人を跨っても怖くない。というのを数日間かけて、より慎重にゆっくりと時には褒め、時には叱り教え込む。
けどピッパちゃんが話しかけてくれればその段階かなり省く事が出来そうだ。
ものの数分でジャンヌにハミと鞍を着け終わる。
うお、素人の自分が出来るなんてピッパちゃん本当に凄い!
「なんとこの様な・・・しかしこれで本当に馬を思うように操る事が出来るのか。」
「はい、可能かと、ピッパちゃんジャンヌに跨ってくれる?」
「はい!分かりました!ジャンヌいいかな?」
とジャンヌを撫でなんの躊躇いも無くジャンヌ跨る。
「わ・・・カッコいい。」
馬に跨った彼女は今まであった幼さはまるで無く凄い凛々しい。すごい間の抜けた表情でそんな事を呟いてしまった。サクシードさんもそう思ったのか見惚れていた。
少し照れた表情で
「・・・で、ここからどうしたら良いんですか?」
はっと我に返り
「ごめん、軽く足でジャンヌのお腹を挟んでくれるかな?」
「はい、分かりました。」
と脚てジャンヌのお腹を挟むと、ジャンヌはトコトコと歩き出す
「そうそう!そんな感じ!そしてより強く挟むとより早く動いて、持っている手綱を引くと止まるはず!右に曲がりたい時は右を引いて、左に曲がりたい時は左に引いてみてー!」
「はい!」
そう言うとジャンヌは彼女を乗せて早くなったり止まったり、右に左にと動く。
ピッパちゃんは今までに見たことがないくらい楽しそうだ
「なんと、こんな事があるのか。」
サクシードさんは呆けてそんな事を口にする
よし!完璧だ!
自分は確かな手応えを掴んだ。
てかピッパちゃん、そろそろ話の続きがあるからやめてくれるかなー?
楽しそうな彼女を見てるとなかなかその言葉を言えずにいた