根拠のない自信
ダルクのデビューが近づいてきてテンションは最高潮!
今ならどんな馬でも乗りこなせる自信がある!
これは覚醒しちゃいましたかねー!
「あれ?シュンさんどうしたんですか?ダルクに馬装なんかして。今日は私が乗る予定だったと思いますが。。。」
「うん!そうなんだけどね!今日は何だか身体が軽くて上手く乗れそうな気がするんだ!だから今日は僕が乗ってくるよ!」
「そうなんですか。。。まだ気難しい所は直ったわけではないので気を付けてくださいね?」
不安そうな目でこちらを見てくるピッパちゃん。
「了解!よしダルク行こっか!」
とダルクに声を掛け飛び乗りをする。
いつもは飛び乗りも
いよっしょ!
という感じなのだが、今日はふわっと身体が浮きスムーズに跨る事が出来た。
これ本当に絶好調なんじゃないかしらっ!?
根拠のない自信は自分の中で確信に変わり意気揚々と馬場入りする。
さぁ行こうかダルク!今日の自分は一味違うぜ?
軽くお腹を蹴り早速駆け足を出す。
ダルクは基本最初の半周は大人しく走る。
しかし第2コーナーを抜けて向正面の直線から一気に加速しだして人の言う事を聞かなくなる。
ただ向正面を折り合えれば最後のコーナーから気持ち良く加速しはじめ最後の直線は惚れ惚れするくらい素晴らしい末脚を見せてくれる
何回もピッパの騎乗を見てきたので大分理解しているつもりだ
第2コーナーを曲がって向正面!
ダルクはいつもの様に勝手にハミを取り加速しようとし始める
甘い!
いつもより身体を起こし全力で手綱を引っ張る!
「シュンさん!それは駄目ですっ!」
大声で指示を出してくるピッパちゃん
え?なんで?ちょうど良いスピードでコントロール出来てるじゃん。多少ダルクはきついかも知れないけどこのペースでコーナーに入れば、、、
手前が変わらない!?
いつもならコーナーに入る際自然と手前を変えスムーズに曲がっていくのだが、今日は脚を入れようが手綱を片方だけ引こうが手前が変わらない。
「それなりのスピードが出ている時に逆の手前でコーナーを走ってしまうと馬は上手く曲がることが出来ず外に膨らんでしまいます。その為正しい手前に変える必要があるんですけど、コーナーに入る前から強引にハミを引っ張ったりすると、いざという時に言う事を聞いてくれなくなったりするので注意が必要です」
前にピッパちゃんが教えてくれたことを思い出したが、時すでに遅し。
ダルクはどんどんと外に膨らみ外ラチ手前で急ブレーキをかける。
その時慣性の法則で自分は空に舞い地面に叩きつけられる
いてぇ!地面が砂なので大事にはなってない様だかそれでも凄い衝撃が身体中を駆け巡る
だが、そんなことより!
「ダルクっ!ごめん!」
慌てて起き上がりダルクの元に駆けつける。
ダルクは少し右前脚を浮かし痛そうにこちらに向かってくる。
「ダルク!動かないでっ!」
一部始終を見ていたピッパちゃんがものすごい勢いで駆けつけダルクを静止させる
そして触診をしながら状態を確かめる
「骨は大丈夫だと思うんですけど、ちょっと捻ってるのかな?曲げると少し反応しますね」
球節を曲げると屈伸痛があるのかビクッと反応するダルク
「なんであんな乱暴な乗り方したんですか?らしくないですよ」
冷たい声で叱責してくる
「ごめんなさい」
「謝罪はダルクにしてください。当分乗れる訳では無いですが良くなってもシュンさんはダルクに乗らないでください」
「はい、すいませんでした。。。ダルク、ごめんな?」
自分がダルクを撫でようとすると自分に身体を擦り寄せてくる。
自分のせいなのに、なんで馬はこんなにも優しい目で僕を見れるんだろう。。。
情けなさと申し訳無さで涙が溢れてくる。
それを黙って見守っているピッパちゃん。誰よりも馬を大事にするピッパちゃん。本当は怒ってるはずなのに。。。
二度とこういう事はないように反省しよう。
今回こんな事があり、もちろんダルクのセリは欠場し治療に専念した。
脚を良く冷やし運動制限をかける。
やれることは少ないが早く痛みから開放されるよう必死に治療を続けた。
ちなみにセリはサークルとサクシードの子供が史上最高値を大幅に更新。金貨30000枚で取引され、サークル宰相が買い戻すという結果になり
サークルオブザイヤーと名付けられた。
自分も若い時は馬乗りしてましたが、馬乗りは残酷です。
めちゃくちゃ努力したって下手な人は本当に下手です。チャランポランな人でも馬乗りは上手
なんて人もいます。自分は完全に前者でした。。。
そして上手で努力する人が立派なホースマンになるのです。
ただね、馬乗りは難しくて残酷だけど、あのスリルと爽快感は馬乗りでしか味わえない、暴風にでもなったかの様な感覚になります。最近ジョッキーカメラがYouTubeに上がってますが、牧場の調教でもほぼ同じ感覚です
人生始めての本気の挫折を味わいましたが牧場仕事は馬乗りだけではないので、お世話に日々精進してお馬さんのケアに努めております。




