誓い
うぃー眠い。。。
馬の朝は早い。朝5時から飼い葉をつけて手入れをした後お外に放牧する。
毎日の日課ではあるのだがやっぱり眠いものは眠い。
しかも前日発情した牝馬に身体を寄せられ、壁に挟まれバキバキされたので体中痛い
重い身体を引きずりながら、飼い葉を持っていったのだが
いつもの「おーい早く持ってこーい!」と言わんばかりの鳴き声と前掻きの音が聞こえてこない。
ん〜どしたー?お腹でも痛いんかー?
と馬房の中を見るとジャンヌが馬房の中央で横たわり、ピクリとも動かない
!?
慌てて馬房に入り横たわるジャンヌに触れるともう既に固く、冷たくなっていた
「おいっ!ジャンヌ!」
現実が受け止められず、身体を揺すりながら必死に声をかけるが、反応はない。
「おはようございます。シュンさん、どうしましたか?」
「ピッパちゃん!ジャンヌがっ!」
自分のただならぬ雰囲気を感じ取り、ジャンヌに駆け寄りジャンヌの身体に触れる
それで全てを悟ったのか、開いていた目をそっと閉じて自分の羽織っているものをジャンヌの顔に被せる。
それで自分も受け止めたく無かった現実を受け止めざるを得なくなった。
どうしてこんなことに。。。
自分がちょっとかじった知識をひけらかす様にジャンヌに種付けを強要したからだ。
なんで15歳過ぎても種付け出来ると思った?その根拠は?
そもそも競馬を走らないって言った時点で体に異変はあったはずなんだ。
こっちの世界に来てから、元いた世界の知識をひけらかすだけでみんなに凄い凄いと言われて調子に乗った結果がこれだ。
「オレがジャンヌをころし」
「違いますっ!!」
自分が全てを言う前に遮る様にピッパちゃんが否定する。
「シュンさん、見てください。馬房の寝藁荒れもせず綺麗ままでしょう?ジャンヌは苦しまず、静かに息を引き取っていたんです。」
「ジャンヌは寿命だったんです。誰かのせいとかそんな事はありません。」
「それにね、私がジャンヌの子供でレースに勝ちたいって言ったんです。シュンさんは何も悪くありません」
何も言えない自分にピッパちゃんが優しく語りかける。
すると目から涙が流れ出し止まらなくなる
「うぅ、うわぁぁぁぁぁ!」
そこからはもう子供の様に泣きじゃくり、そんな自分をピッパちゃんが優しく抱き寄せてくれた。
どれくらい泣いていただろうか。その間ずっとピッパちゃん抱きしめてくれていた。
「ごめん。もう大丈夫だから。」
と言うとピッパちゃんがスッと解き離す。
「シュンさん。私決めました。絶対ジャンヌの子供でレース勝ちます!」
ジャンヌが居なくなって一番悲しいのはピッパちゃんのはずなのに、その目には悲しみの思いは全く無く強い意志でそう宣言した。
「うん。僕も勝ちたい!いや、絶対勝とう!」
と言うとピッパちゃんは「はいっ!」と力強く返事をする。
後悔してもしょうがない。ジャンヌだって僕らの気持ちに応えて最後まで種付けをしてくれたのだ。
なら僕らに出来る事は1つ。レースに勝つ!それだけだ。
その後家の近くにジャンヌを埋葬しお墓を立てる。
ピッパちゃんと二人でそのお墓に
「ジャンヌの子供でレースに勝つ」
と刻んだ
どんなに辛いこと、苦しい事があってもレースに勝つその日までは全力を持って取り組む事をこの墓標に誓おう。
それからはいつもの生活が始まる
いつもの様に馬の世話をし、事務仕事をし一日を終える。
そんな代わり映えの無い毎日が続いたのだが、なんだか少し違和感を覚える。
ピッパちゃんが馬を世話する時少し手を焼いている様に見えるのだ。
いつもの彼女は馬に声をかけ馬もそれに従いスムーズにこなしていくのだが、最近は途中で馬があらぬ方へ行ったり立ち止まったりしている
そんなある日、ピッパちゃんの引っ張っている馬が暴れ放馬をしてしまう。
自分も慌ててその場に向い無事に捕まえる事が出来たのだが
「ピッパちゃん、大丈夫?怪我はない?」
「はい。私は大丈夫です。馬は怪我してませんか?」
「うん、それは大丈夫だけど。。。最近どうしたの?なんか上手くいってない様に見えるけど」
と言うと、少し困った様な顔しながら
「シュンさん、私、馬と会話出来なくなっちゃいました」
と言った
馬の仕事をして30年近く、今まで数多くの馬の死に携わってきました。
老衰、病死、怪我による安楽死など
見るに堪えない壮絶な現場にも関わってきました。
何度見ても居た堪れない気持ちになります。
けどこの仕事続けている以上避けては通れないものです。
毎回自分の無力さを痛感しつつ、なんとかできたのではないかと自答自問します。
自分は育成スタッフなので、より早い馬に育てる事が馬の為になると信じて日々精進してます。




