デート回
「で、最近どうなの?」
「え?どうしたんですか?突然」
馬車の中で会話をしようと試みたが、思春期の娘を持つ父親の様なセリフを口にしてしまった。突然最近学校どう?と聞かれても、別にしか答えないよね?
とはいえ自分から始めた会話だ。何か切り出さないと。えーと女の子の好きな会話···といえば恋バナ!それに尽きる!
「いや、ほら!パール街も住民増えてピッパちゃんも気になる男の子とかいるのかなーなんて!」
ブチッ!
ん?なんか切れる音がしたような?
「シュンさん今日はデート、なんですよね?なんで今私の好きな男の人の話をしなくちゃいけないんですか?」
青筋を立てこちらを見てくる。こ、怖い
「す、すいません」
「シュンさんはデリカシーがなさ過ぎですっ!」
プイッとそっぽを向くピッパちゃん
早々にデートは暗礁に乗り上げた。だからといって引き返せる訳では無い。ちゃんと日々の労いを込めてここから立て直さないと!
と自分に言い聞かせていると王都が見えて来た。
「ほ、ほらピッパちゃん!王都見えて来たよ!」
「ソーデスネ」
うん、頑張ろう。
一方、尾行組はというと
「いや、ほら!パール街も住民増えてピッパちゃんも気になる男の子とかいるのかなーなんて!」
私は魔法は使えないのだけど、妖精と会話が出来る。そして妖精にお願いして馬車の中で何を話しているか聞いてきて貰ったのだが結果これである。
キッツ君と二人でこのダメ男の失言を聞き頭を抱える。
「シュン男爵にも苦手なものがあるのですね」
いや、苦手なものだらけですよ?ヘタレだし、サウナバカだし、服だらしないし、寝グセ直さないし、時々脇臭いし、女心わかってないし。
「けどシュン男爵のことですからきっと何か考えあっての発言なのではないでしょうか」
信者乙である。絶対会話に困って恋バナでもして間をつなごうとしただけだろう。前途多難なデートに対してピッパちゃんに同情するのだった
「んー着いた!ピッパちゃんもお疲れ様!」
馬車から降り背伸びをした後、次に馬車から降りようとするピッパちゃんに手を差し伸べる。
「···ありがとうございます」
その手をとり俯きながらお礼を言うピッパちゃん。
「さてと、それじゃブリッジさんの所で家具を買いに行こっか?」
「家具、ですか?」
「うん!せっかく二人で来てるしさ、うちに欲しい家具を一緒に選べたらなぁって思ってるんだけどどうかな?」
「良いですね!行きましょう!」
馬車を降りて手を握ってからその手を話さず、馬車の中での不機嫌とはうって変わって楽しそうに頷いてくれた。
ピッパちゃん家具好きだったのかー。良かったー。機嫌直って。
ほっとしながら、王都は人が多いのではぐれない様にピッパちゃんの手を握り返す。
「おおー大きい!」
ブリッジさんが経営している家具屋入ると、業界最大手は伊達ではない!ものすごい広い店内で、一つ一つのブース事に部屋を意識しながらタンスや机やベッドが置かれ一式揃えたくなるような、足りないものがあったら欲しくなるような購入意欲をそそられる作りになっていた。
この世界の文化はお世辞にも発展しているとは言えないが、この店だけで言うならIKEAやニトリにも勝るとも劣らない素晴らしい作りになっていて多くの人で賑わっていた。
「シュンはん!いらっしゃい〜」
小太りな身体を揺らしながらマイネル商会代表ブリッジさんが話しかけてくる
「こんにちは!いやぁ凄い良い店ですね~!目移りしちゃいます!」
「せやろ〜ウチの自慢の店やさかい。おっピッパちゃんも一緒か、デートでっか?」
「まぁそんな所です」
「お熱いですなぁ。ゆっくりしてってやぁ。それとなんか欲しいのあったら勉強させて貰いますさかい、声をかけてや」
「ありがとうございます!じゃ行こっか」
「はい!」
と元気良く頷くピッパちゃん。どんどん機嫌が良くなってきた。
うんうん!楽しいよね!家具屋!
自分もIKEA言った時、買う予定無くても椅子に座って見たり、ベッド触って見たりとかして
テンション上がり過ぎて全く必要ではなかったけど触り心地が良かったってだけで座布団とか買ったりした。
そんな事を考えながらピッパちゃんと色んな家具を見て回る。
するとピッパちゃんがテーブルに置かれたティーカップを手に取り
「これとっても可愛いです!」
「うんうん!おしゃれだね。それ買おっか!」
「ありがとうございます!もし、良かったらお揃いで買いませんか?」
「いいねー!せっかくだしキッツ君とミルフィアさんの分もお土産で買おうか!」
「いいですね!」
一方ミルフィアさん
はぁー。嬉しいですけどね?嬉しいですけど、そこはペアでいいでしょ。
「僕、家族ともお揃いのもの持った事ないんで凄い嬉しいです。」
無表情のまま目を潤ませるキッツ君。これが人たらしめる所以か。
こういう所は魅力的ではあるんですけど、違う違う今日じゃ、今日じゃない〜♪
まぁピッパちゃんも楽しそうですし良いとしますか。
「なんやティーカップだけかいな?そんならデート記念でウチからプレゼントや」
と、おっさんらしからぬ器用な手さばきでラッピングしてくれるブリッジさん。
「「ありがとうございます!」」
二人でお礼を良い店を後にする。
「ふー、楽しかったけど人混みで少し疲れたね。そこのベンチで一休みしよっか。」
ピッパちゃんは分かりましたと言って、二人で路地沿いのベンチに腰を下ろす
すると向かいにアイス屋が列が出来ていた。
「ピッパちゃんアイス食べる?」
「いいんですか?」
「うん!んじゃ買ってくるからピッパちゃんはここで待ってて!」
と言って列に並びアイスを2つ買いピッパちゃんに渡す
「ありがとうございます!あ、これ凄い美味しい!」
と笑顔でアイスを食べるピッパちゃん
「良かった!どれどれ?本当だ!美味しいね!」
と二人でアイス食べる。
ピッパちゃんといると本当に居心地の良い。
前世では人の顔色をうかがってしまうクセがあり、どれだけ親しくなってもどこか気を使ってしまっていた。けどピッパちゃんといる時はありのままの自分でいられた。
そんな自分をピッパちゃんは受け入れてくれて、ピッパちゃんもありのままで色んな表情を見せてくれる
そんな彼女がとても愛おしく思っていた。
彼女が幸せになれるまで一緒いると約束したので、それが明日か明後日か来年か分からないけれど、それが何時までも続けばいいのにと思うようになっていた。
「改めてなんだけど、いつもありがとうね。ピッパちゃんに好きな人が出来るまで一緒に居させて下さい」
と心にも無いことを口にすると
ピッパちゃんは少しムッとした表情をしたあと、不意にこちらに顔を寄せてきて
唇に柔らかい感触を感じる
何が起こったのか理解出来ずに近づいた彼女の顔を吸い込まれる様に見つめていると
「シュンさんのバカ!私はずっとシュンさんと一緒いたいです!好きな人はシュンさんなんです!もー大嫌い!知らない!」
と、どっかに行ってしまうピッパちゃん。
好き?嫌い?好き?思考回路はショートして彼女を追いかけられず、唇に残る感触と甘いバニラの味だけ残った
一方
ピッパちゃん!偉い!良く頑張った!帰ったら全力で抱きしめてあげたい。
「アレどうしますか?」
デートに行くまではシュン信者だったキッツ君は追いかける事も出来ずに呆然とベンチに座っているシュンさんを指を差し『アレ』呼ばわりである。
「あんな男〜ほっておきましょ~。私達も帰りますよ〜」
「分かりました。シュン男爵でも苦手なものがあるんですね。とても勉強になりました。」
「あれは女心に関しては下の下なんで〜なんの参考にすることないですよ〜。」
と私達もボーッしてるアレを残し王都を後にした




