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蹄鉄と女心

「・・・私さっきの笑い方嫌いです」


「ごめんよぉ・・・」


マイネル商会でブリッジさんと商談の際、2人で大人の嫌らしい笑い方をしてからピッパちゃんの機嫌を損ねてしまった。


確かに前世で親父が上司を家に招いた時、どんな事を言われてもヘコヘコヘラヘラしてるのを見た時少し見損なってしまったことをあった。


彼女もそういうのを目の当たりにして嫌気が指したのか、それとも単純に生理的に受け付けなかったのか、ずっとソッポを向いたままだ。



年頃の女心は難しい。

前世で姉が絶賛反抗期だった時、親父のパンツと一緒に洗濯しないで!はもちろんの事、お父さんのトイレの後は臭い!最悪!と言われ、洗面所使ってるだけで舌打ちされてた。


今なら少し気持ち分かります。全国のお父さん頑張れ!



と全国のお父さんにエールを送りつつ、さてどうしたものかと悩んでいるとちょっとお洒落な喫茶店を見つける


「ピッパちゃんちょっとそこで休憩してかない?」


と誘って見るとちょっと素っ気なく分かりましたと頷いた




中に入り窓際の席に座る。

「女性が機嫌悪くなったら甘いものとプレゼントっす」

って大月君が言ってたのを思い出し、ショートケーキとコーヒーを注文する。ちなみにこの店は業界一位のコスモ商会の直営店である。味はきっと美味しいはず。


「わっシュンさんこれ美味しいです!」


と言って目をキラキラさせてショートケーキを食べるピッパちゃん。少し機嫌も直ったかな?大月君すげぇなぁ。と前世の大月君に感謝しつつ自分も食べてみる


「おっ!本当に美味しい!」


と素直に感想を述べると、ですよね!とピッパちゃんも嬉しそうに頷く。コスモ商会やるな。




と楽しくお茶をし、会計をしようとするとウエイトレスさんがお代は結構ですと言って手紙を渡してきた。



え?何で?その手紙を読んでみると




『この度は男爵おめでとうございます。馬車というものは素晴らしく是非うちで取引したかったのですが残念です。もし他にお困りの事がありましたら是非うちの商会をご贔屓にお願いいたします       コスモ商会会長バルクより』




怖っ!馬車ってつい1時間前の話だよ!ブリッジさんも言ってだけど本当にどこで見られてるか分からない!



商人の底の深さを思い知りつつ、お言葉に甘えてお茶をご馳走になった。






さて、一通りの事もやったし、問題は山積みなのでそろそろパール街に帰ろうとピッパちゃんに告げ帰り支度を整え出発しようとした時




「えっ!ジャンヌ大丈夫?あ、蹄かけてる・・・」


「ん?どうしたの?ピッパちゃん」


「いえ、この街道が舗装されてるのは良いのですが、さっきジャンヌが石を踏んじゃったみたいで、少し痛いって言ってます」



そう言われてジャンヌの蹄を見るとちょっと右前の蹄が欠けていてジャンヌも少し痛そうな表情をしている



あらら、困ったな。帰るのにこのままじゃ辛そうだ。どうしたものか。

あ、あれがあるじゃん!と前世の競馬の事を思い出す。



「ピッパちゃん、ちょっと待ってて!」


と言い残しマイネル商会を目指す


「ブリッジさん。度々すいません。ちょっと鉄を少し頂けますか」


「なんや、シュンはんですか。鉄ですか?えぇですよ。おいシュンはんに鉄を渡したってー」


と2つ返事で了承してくれた。


「で、シュンはん鉄を何に使われはるんですか?」

とワクワクしながら聞いてくる




「すいません話は今度!鉄はつけといてください」

と言い残し急いでピッパちゃんのもとに向かう




ピッパちゃんは取り残され、少し不安そうにジャンヌを心配していた。


「はぁはぁピッパちゃんごめんね。お待たせ」


「いえ、けどジャンヌ大分痛いみたいです。ちょっと帰るの遅らせますか?」


と不安そうに聞いてくる。ジャンヌ自身も痛みが増して来ているのか、右前の足を少し浮かし気味に立って苦痛そうな表情をしている



「治せるか不安だけど頑張ってみるね」



と答え、競馬の時、競走馬に履かせる蹄鉄を作る。



馬の体重は400キロ以上あり、全速力で走った時は一本の足にかかる負担は数トンと言われている。

馬の爪は人間より頑丈にはできているもののその何トンもの負担を受けて続けると、欠けたり内出血を起こしたりする。その負担を軽減させる為に発明されたのが蹄鉄と言われる馬用のくつである。

競馬場の博物館に色々な形の蹄鉄を見てきたがオーソドックスなコの字の蹄鉄を作りあげ、その鉄と蹄を繋ぎ留める釘を作る



「ピッパちゃん、ジャンヌにちょっと最初痛かったりするかも知れないけど大丈夫だから少し我慢するように言ってくれる?」



「分かりました。ジャンヌ大丈夫だから少しだけ我慢してくれる?」

と優しく話しかける。ブルルッとジャンヌが答える




もちろん馬に鉄を打つのは初めてだ。釘を打つ時失敗すると出血し、より痛みが増す場合がある、とても繊細で難しい作業である。

そのため装蹄師と言う専門にした職業があり何年もの修業の後、鉄を打つことを許されると言われている。

素人の自分にそんな事ができるのだろうかと、少し不安になり手が震える。



するとピッパちゃんが

「大丈夫です。シュンさんなら出来ます」

と手を握り励ましてくれる



本当にありがとう。君はいつも僕に勇気をくれる。



手の震えが止まりジャンヌの痛い場所を避けつつ慎重に鉄を打ちつける





・・・出来た。大丈夫だろうか?





「シュンさん!ジャンヌもう痛くないって!良かった!」

と自分の事の様に喜んでくれた。


良かったぁ。本当に良かったぁ。そしてピッパちゃん勇気をくれてありがとう


そして続けて余った鉄でさっとあるものを作る




「それとこれ、プレゼント。いつも僕に勇気をくれてありがとね」



さっきも述べたが蹄鉄は馬の蹄を護るために作られ、西洋では厄除けのお守りとして玄関等に飾ったりもしている。

その意味を込めて小さい蹄鉄をあしらったピンク色のリボンを彼女に渡す。




ちょっと驚いた後、目を細め


「ありがとうございます!大事にしますね!」


と満面の笑みでその髪飾りを髪に着けた


「どうですか?似合ってますか?」


と振り返り軽くポーズを取って見せた



挿絵(By みてみん)


「うん!とっても似合ってるよ!」


大月君、本当に君は凄いよ。さっきまで機嫌を損ねていた女の子がこんなに喜んでくれるなんて。もう少し早く感謝の言葉やらプレゼントとかしてあげれば良かったなぁ

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