同棲!?
頭が良く回らない内にピッパちゃんの家にお世話になることが決まった。宿屋にあまりない荷物を取りに行き、ジヤンヌを馬小屋に戻し、今ピッパちゃんの家の前に立っている。
ちなみにその間ずっと手を握られたままだった。荷物をかたしている時に流石に両手を使えないと不便なのでピッパちゃんをみたら
「なんですか?」
笑顔で返されたので何も言えなかった。馬の事になると凄い圧が強くなるのは知ってたけど、たまに凄い怖い。いや、優しくて思いやりのある良い子なんですけどね。
なんて事を考えてながらぼーっと突っ立っていると
「?どうしました、どうぞ入って下さい」
と促された。
ちなみに岩崎駿28歳。女性の家に行くのは人生初めてである。
小学生の時、劇の練習をするので愛ちゃんの家に集合だったはずなのに自分が来ると言ったら公民館集合になった。愛ちゃんち僕が行くにはちょっと小さかったのかなぁー。
「・・・シュンさーん?」
と目の前を手でパタパタ振ったので、くだらない前世の思い出から戻される。
「あ、ごめん、じゃあ、お邪魔しまーす」
彼女の家の戸をくぐる
すると異世界だからか、ちょっと想像してたのとは違う殺風景な部屋だった。いや、少し散らかってるかな?しかし無理もない。お父さん亡くなってからあまり日が経っていないと言う話だし、出会った時のあの塞ぎ込んだ状態だったら掃除とか手につかないだろう。最近は大分表情豊かになったけど、この前の戦だ。散らかっててもしょうがない。
「あ、掃除してなかった!す、すいません!今片付けますね!」
「お構いなく。いや、それじゃ自分も掃除手伝おうかな?ここのテーブル片付けるねー。」
「あ、大丈夫です!私やりますからシュンさんは座ってて下さい!」
と、片付けようとした自分の手と、止めようと伸ばした彼女の手が触れ合う。
さっきまで手を握られていたのに、家の中だと妙に意識してしまう。
それはたった数秒だったのに、もの凄い長い時間に感じた。
近づいた彼女の顔に目をやると、透き通った大きな瞳、シュと整った顔立ち、サラリとおりた栗毛色の髪の毛、そこから香るほのかな甘い香りに目を奪われる。
「す、すいません・・・じゃあシュンさんはテーブルお願いします。私はあっちの方を片付けて来ますね!」
とパタパタの歩いて行った
あ、危なかった。もともと綺麗で可愛らしい娘だなぁとは思っていたけど今のは完全に不意打ちだ、未だに胸の音が高鳴る
必死にその高鳴った音を抑えつつ掃除をする。もともとそれほど物があるわけでもなかったので数十分で片付け終わる。
さて、一段落と落ち着こうとすると日も暮れていて、少し肌寒く感じた。ブルルッと身体を震わすと
「少し寒いですね、待ってて下さい。今暖炉に火をつけますね。」
と暖炉の前で何やらカチカチとやっている。
「なかなか、点かないっ、お父さんはこれ上手だったんですけど、私ちょっと、苦手で」
と言って苦戦していた。
ちょっと変わって、と言って今まで使うことの無かった火魔法レベル1を使ってみる。すると良い具合に火が灯りホワッと温かい空気が部屋に巡る
「凄い!シュンさん火魔法使えるんですね」
「うん、レベル1だけどね。あ、そうだコップ2つ持って来て貰えるかな?」
と言うと、分かりましたと言ってコップを持ってくる。
そのコップに水魔法レベル1と氷魔法レベル1を使ってみる。するとコップに水が注がれ氷がコロンと2つづつ入る。
「水と氷の魔法も使えるですか!本当にシュンさん凄いです!」
「いや、これもレベル1だけどね。生活には困らない程度だよ」
と言って、二人でコップを持ちながら暖炉の前に佇む。
コップから氷が重なり合う音と、暖炉からパチっと火を焚べる音のみ、ただ二人何も言わず二人寄り添い暖炉の火を眺める。今まで女性といる時は「な、何か喋らないとー」と無駄に混乱しアワアワしてたけど、今はこの静寂がとても心地よく感じた。
どれくらいたっただろうか、暖炉の火が大分大人しくなってきた時に彼女が少し語りだした。
「あのね、私、お父さんがもう帰って来ないって分かった時、目の前が真っ暗になって何も出来なくなったんだ。ジャンヌが話しかけてくれても、お父さんの畑が荒れてきても、何にも出来なかった。本当に弱いだ、私。けどね、シュンさんが私の前に現れて歌ってくれて、お父さんが居なくなってから初めて涙が出たの。シュンさんはそんな私の横で泣き止むまで演奏してくれたよね?」
うん・・・
「そしたら少し元気が出たんだ。やっぱり辛かったし、今でも辛いけど、私シュンさんの音楽聞くと頑張ろうって思えるの。私、シュンさんの音楽すごく好き」
うん・・・
「けど、やっぱり私弱くて・・・街にノーザン帝国が来るって聞いたら震えが止まらなくなっちゃって・・・お父さんさんみたいにジャンヌやシュンさんがいなくなったらどうしようって・・・」
うん・・・
「そうしたら、シュンさんが馬に跨がれる様にしてくれて、私に力をくれたの。大切な人を守れる力。シュンさん、本当にありがとね」
うん・・・
「けどね、私弱いから、この広いお家でもう独りぼっちは寂しいよ・・・シュンさん、私寂しいよ・・・」
と言って潤んだ瞳で自分を見つめ、胸に顔を埋めてくる。
戦場では勇ましく凛として、普段も少し大人びている彼女が、今は肩を震わせ自分の胸の中で泣いている。
そんな彼女をギュッと抱きしめたい。
普段表情をコロコロと変えるあどけない彼女を
しっかりとした口調で話す少し大人びた彼女を
戦場で馬に跨がり、誰よりも美しく、誰よりも強く、誰よりもカッコ良かった彼女を
だけど、その感情を抑え彼女の肩に手をやる
「大丈夫だよ、ピッパちゃん。僕は君が幸せになるまでずっといるから。僕を君のお父さんの代わりに居させてくれるかい?」
と言って胸から彼女を離す。
そう、今の彼女は、好きだから必要なのではなく、必要だから好きなんだ。
そんな彼女の寂しさに付け込んで彼女の気持ちを奪う事は絶対にしてはいけない。
僕なんかより彼女を幸せにしてくれる人が現れるまで、彼女を支え続けよう。
そんな僕を見て一粒涙を零し、それを拭って
「はい、喜んで」
と言って、はにかんだ
前回はダラダラと作者が語り、引き伸ばせるだけ引き伸ばして、最近見た映画の名ゼリフをパクると言う暴挙に出てしまい申し訳ありません。
けど身を捩りながら一生懸命書きました。寛大な心で読んで頂きたく存じます