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第43話 地上

 そうして数世紀、何千年という時間が流れた。

 一方ユーディスというエネルギー源を失った『帝冠クラウン』は、途轍もない時間の流れの経過とともに徐々に衰え、今では運気の存在しない荒廃した土地と化していた。

 その外観は蓋を開きっぱなしになった箱同然となり、水源は枯れて地上は衰亡し、そこからは生命の気配がほとんどせず、すでに滅亡した死亡惑星となっている。上空を公転していた宙の天球も姿を消し、地上はさらに薄暗い状態となっていた。

 月経秤が崩壊し、運気の影響がなくなった『帝冠クラウン』は、この数千年の間で滅亡していたのだ。


 と、その上空にゆっくりと下降してくる一つの球体がある。

 その正体は、かつてアラインとユウを乗せた宙の天球だった。その宙の天球はアラインによって整備され、『帝冠クラウン』に近づいても急加速しないように調節されていたため、いきなり惑星に衝突することなくゆっくりと地上に降りてくる。

 他方で地上では、降りてくる球体に接近する人影があった。その人影は黒装束をまとっており、顔には不気味な仮面を被って、接近してくる球体の周囲へと集まってくる。


「ついに来たか、このときが」

「あれが約束の箱舟か。さあ、我らで彼らの子孫を迎え入れよう」


 仮面を被った不気味な者たちがこそこそと話し合っているうちに球体は地上に降り立つと、早速隔壁が空いた。

 だがなかなか外に出て来ない。地上からは奥でなにかが蠢く気配があるが、複数の影がもぞもぞとしているだけで、なにやら躊躇っているようにも見える。

 すると奥の方から、状況確認をするように影が一体だけこちら側に姿を現す。

 その姿は、ゼリー状の黒い塊だった。そこに目や耳といった発達器官はなく、なにで周囲の状況や環境を認識しているのか、辺りを警戒するように地上へと降り立った。

 ようやく正体を現した謎の生物に、黒装束の者たちは代表して一人が前に出て、その黒い謎の物体へと接近した。そして腰を折ると黒い塊を手に乗せ、近くで観察する


「……間違いない。彼らの肉体には吉と凶――呪いと祝福が付与されている」


 黒装束が答えると、彼の後ろにいた仲間たちは静かに歓喜した。

 そして黒装束たちは確信する。この黒い塊は、この宙の天球の乗組員たちの――アラインとユウの子孫であることを。そしてその子孫は、この宙の天球にまだまだいることを。


「この黒い塊、一体一体に呪いと祝福が植え付けられている。これは推測だが、この球体にいた乗組員たちは、交配することでお互いの運気を半減させていたのだろう。だがそれは、我ら軸の番人で例えれば、ただの人間に戻る行為。なぜそんな愚行を働いたかはわからないが、あるいはこの未来を予測して行ったのか――」


 黒い塊を持った黒装束の者が告げる。そして手に持ったそれを高々と掲げた。


「なんにしても、我らユーディスを追放された軸の番人の役目が、ついに回ってきたのだ――これでなぜ我らが故郷を追放され、この地に残されたのかが判明したぞ」


 黒装束はようやく謎が解けたと、自分たちにも役割が来たと歓喜する。

 それまで持っていた黒い塊がパシャッと音を立てて弾けたのはそのときだった。

 途端に液状化したそれは地面に落ちると、枯れた地表に染み渡り干ばつを起こした地面にみるみる吸い込まれていく。すると地表が盛り上がり、それまでこの惑星に存在しなかった新しい生物たちが穴を掘って、あるいは地表深くまで潜って四方に散らばっていった。

 それは人間でもなければ、彼ら軸の番人でもない新しい種族。


「ああ、これで『帝冠クラウン』――もとい、この静止遊星は我らの第二の故郷となって、いずれ富み栄えることになるだろう」


 予言をするように黒装束の者が言ったときだった。それまで沈黙していた宙の天球は再び駆動音を唸らすと、下部から筒状のものを出現させて地面に突き刺した。

 それから宙の天球は再び浮上すると、筒状のそれを伸ばしながら上空へと静かに登っていく。やがて定位置――かつて月経秤のあった位置にまで着くと、今度は至るところから筒状のものを伸ばし、タームを超えて『帝冠クラウン』の各地へと突き刺していった。


 すると、その筒状のものを通って先程の黒い塊が地上へと滑り降りてくる。まるで種をあらゆる場所にばら撒いて行くように、あるいは養分を分け与えるように。

 それから黒装束の者たちは、上空の宙の天球を囲うように広がっていった。やがて彼らは黒い帯となると、各タームの縁の方に集まりグルグルと回転を始める。

 まるで新しい周期を生み出すように。いつまでもグルグルと同じところを。

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