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第4話

 ジルは今しがた自分が出てきた建物の中に突き飛ばされると、警備隊の死角に入る。アラインはすぐさま踵を返すと、ジルがなにか言う前に駆けだした。


 そのあとを追って警備隊が建物の横を通り過ぎると、アラインの目論見通り、ジルは否応なしに身を隠す他なかった。慌てて奥に引っ込むと息を潜めて難が去るのを待つ。


 相方が隠れている間に、すでにアラインは人が通る道を外れていた。金網に指を絡めると腕力でよじ登り、塀を飛び越えて建物の間に身を滑り込ませる。


 移動範囲は屋外だけに限らなかった。


 穴の開いた壁から再び廃墟に侵入すると、通路を無視して割れた窓を突っ切る。二階の高さから大通りへと飛び降りて受け身を取り、突然現れたアラインに驚く人々の流れを横切って、今度は狭い通路に入ると、パルクールの要領で壁を上った。それからどこかのベランダからベランダに繋がれた洗濯ロープにジャンプすると、ぶら下がった状態で逆上がりし、そのままサーカスのピエロよろしく絶妙なバランス感覚で綱渡りをして、綱の向かいの建物に辿り着く。


 いくら警備隊から逃げるためとはいえ、一見道理から外れて見える、危険かつ無謀でアグレッシブな逃避。だがそこには本人だけが心得ている一貫性があった。


「さて、次は?」


 口の中で呟くと、3階の高さにいたアラインは、壁に設置された排水管に掴まりながら、ざわつく意識をリセットするため、片手で顔を覆って目を閉じた。


 心に凪が訪れると開眼し、指の間から飛び込んで来た周辺の景色を視野に収める。


 再度、この星の大きな流れに沿って靡いた因果を認知した。運命を司った実体のない潮は国全体に蔓延っており、それこそ海中のように縦横無尽に蠢いている。


 巨大な生物のように見える流動は、一つ一つに規則的な流れがあった。アラインが時計塔からここに至るまでの道のりも、それに沿ったものである。


 アラインは今までむちゃくちゃに動き回っていたのではなく、規則に従ってルートを選んでいたのだ。


 セーフポイントを探す過程で得た抜け道の知識量は凄まじく、摸索や探究で常に更新されたこの国の地理はもちろん、地形や風向きに至るまでをもアラインは熟知していた。国の防衛のため日々見回りしている警備隊を庭の番人とするなら、数年に渡って視認した因果を辿ってほぼ毎日国中に『因果歪曲計(ウェザー)』を設置し、往来や難所を問わず駆けずり回っていたアラインは、庭のプロフェッショナルと言えよう。


「流れが続いてるのは――ぐっ!?」


 続けられるはずだった言葉は、不意に訪れた急激な眩暈により中断した。


 突然ぐにゃりと世界が歪む。歪曲した風景は強烈なサイケデリックに彩られると、視界から直接脳を揺さぶり、凄まじい幻覚症状を引き起こした。


 刹那の奇襲はアラインの感覚を麻痺させると、排水管を掴む手からも力を奪う。すぐ真下の古びたプラスチック屋根の上に落ちるとそのまま屋根をぶち破って、コンクリートに全身を打ちつけた。


 屋根の材質が完全に朽ちていなかったのは不幸中の幸いだった。それでも今しがた粉砕されたプラスチック片の表面には、茶色い変色や色褪せに水垢で汚れており、それなり年月が経っていたことが窺える。


 ほんの一瞬とはいえ、よくアラインの落下に耐えたものだ。もしこのワンクッションがなければ、確実に打撲だけでは済まなかっただろう。


 そんな強運とも悪運とも取れない自身の定めに狼狽しつつ、アラインは全身の鈍痛に耐えながらも、先程の幻覚に当惑した。


「あ……が……! 今のっ、眩暈……は!?」


 痛みに呼吸もままならぬまま混乱したのも束の間、そう遠くない距離から慌ただしく鉄のぶつかる音が聞えてきた。金属音は真っ直ぐこちらに向かっている。

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