第28話 謁見の間
突如『帝冠クラウン』を襲った大規模な揺れに驚いたのは、国民だけではなかった。ここ月経秤の宮殿にある謁見の間で玉座に座っていた帝王も、突然の地震に顔を強張らせる。
「なんだ、この途轍もない揺れは! いったいなにが起きている!?」
生まれてこの方一度も経験したことのない大地震に帝王は、枯れた声を大にして目下にいた3人のダースロウに尋ねる。一方でなにが起きたのかわかっていたダースロウたちは、別段慌てた様子もなく淡々とした調子でただ事実だけを告げた。
「どうやら『倖の神巫』の失踪で受け皿がなくなり、ユーディスのエネルギーが暴走したらしいですな」
「受け皿が『禍の神子』しかおらず、それまで均衡だった負荷が大きく偏っている」
「聖儀祭もいよいよ終盤に来て、吉凶の影響も強く『倖の神巫』と『禍の神子』にも強く作用するはず。元々ユーディスのエネルギーの放出量は多かったが、ここ何年かでユーディスも膨張しているため影響も強い」
ダースロウたちは三者三様の意見を述べると、それぞれ順番に帝王に告げた。
「このまま聖儀祭終日までに『倖の神巫』が戻らなければどうなる」
落ち着き払っているダースロウとは対照に、帝王はハラハラした様子で聞くと、早急に答えを求めた。ダースロウたちは顔を寄せてヒソヒソ話すと、やがて帝王の方を向く。
「元々『倖の神巫』はユーディスのエネルギーを少しずつ分散させて和らげるために作られた存在。膨張を続けるユーディスは、謂わば少しずつ蓄積されたダメージの塊。このまま受け皿が戻らなければユーディスが一気に解放されてしまい、凄まじいエネルギーにより『帝冠クラウン』は消滅するでしょう」
滅亡を宣告されると、帝王は目を見開いて愕然とした。しかしそこはあらゆる権威の最上位に君臨する者、すぐに落ち着きを取り戻すと、威厳のある声で告げる。
「ただでさえ聖儀祭の期間に入って吉凶地帯の影響が極端になって、双方に強力に作用している。絶頂と苦悩が限界まで高められれば、国民がそれに堪えられまい」
帝王は枯れ木のように朽ちかけた体を起こすと、厳格な様子で静観する。その静かな視線はやがてダースロウに向くと、帝王は重い口を開いた。
「軸の番人たちよ。我ら王族との間で交わした契約、よもや忘れたわけではあるまいな?」
未だ収まらぬ揺れの中、帝王は三人のダースロウを見据えながら聞く。するとダースロウたちも帝王の腹を探るような視線を向けながら答えた。
「忘れるはずもない。時が来ればユーディスを解放するという盟約」
「そうだ。この星の直系の王族として、我が一族はその契約に基づきユーディスを解放せねばならん。しかしそれがどうしたことだ、今やそのユーディスは暴走を始めている。このままではこの国も消滅しかねない。ユーディスが暴走すれば、おぬしら軸の番人も帰る故郷を失うというもの」
帝王はまるで情けをかけるようにダースロウたちを見た。それでもダースロウたちはなんの反応も示さないまま、ただ静かに、じっと帝王の言葉に耳を傾ける。
故郷を失うのはダースロウにとっても痛手だ。そうと知った上で帝王は告げた。
「これは命令ではない。あくまでお前たちのことを思って告げる。早急に『倖の神巫』を見つけ出すのだ」
命令ではないと言いながら、それは半ば強制的なものだった。そうと知ってか、ダースロウたちは依然として身動きを取らないまま静寂を貫いている。
「今回の騒動が無事片付いたあと、あなたはどうするおつもりか?」
やがてダースロウは口を開くと、不意にそんなことを聞いた。その意味するところはつまり、今後のユーディスに関する方針のことである。
しかし帝王はそうとわかっていながら、わざと的の外れたことを言った。
「今回の聖儀祭が終わったら、わしは子孫を残すために子を儲けるつもりだ。わしの母のときと同じように、一般人から選ぶ予定である。それがどうかしたか?」
惚けるように、しかし威厳のある声でそうとは悟らせぬよう、非常に優れたニュアンスで躱す帝王。しかしダースロウには、それがなにを意味するかわかっていた。
まだユーディスを解放するつもりはない。もうしばらくはこちらで預かる予定だ、と。
だがそれに対して意見することはなかった。ダースロウたちは小さく首を振る。
「いえ。ただ今後の方針を知りたかっただけに過ぎません」
「そうか。なら予定としてはそんな具合だ。他に聞きたいことはあるか?」
「なにも。では、我らはこれにて」
もう話すことはなかった。ダースロウたちは帝王に背を向けて謁見の間をあとにする。そんなダースロウたちを、帝王は過ぎて行く厄災を見つめるような目でじっと見ていた。




