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斜め後ろの杏さん  作者: あさぎ
I.違和感だらけの異世界
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4.勇者様とハーレム

 


 でも。


 でも、だ。

 これでも、こんなでも……私を助けてくれたんだから。


 見た目がどうであれ、命の恩人って事に変わりはない。

 お礼くらいはきちんと伝えたい。


 なんというか。落ち着かないというか、気持ち悪いというか。

 私の性格上、このままじゃなんだか気が済まなくて。


「あの……さっきは、本当にありがとうございました」

「ん?お礼なんていいのに。僕は目の前の敵を倒しただけから……困ってたら助ける、人として当たり前の事だろう?」

「オガミさん……!ありが……」


 ぷらぷら、ぷらぷら……

 ジャラジャラジャラジャラ……


 とってもいい事を言ってるんだけど、視覚的になんとも微妙な気持ち。

 あと、俺かっこいいみたいな言い方もアレ。


 なかなかうるさいぞそれ、見た目が。

 せめてチェーンだけでも取らない?


 わずかに残っていた私の感謝の気持ちは、綺麗にどこかへ吹き飛んでいった。


(これはない、ないわ。色々もう駄目。ありがたみなんてゼロだ……)




「……あ、ありがとうございます!もう、なんとお礼を言ったらいいか……」


(見た目がどうとか考えてる場合じゃない、今度は先のことを考えないと。生き延びないと……)


 揺れる紐達に持って行かれた意識を無理矢理戻し、なんとか社交辞令。

 そして軽く目を潤ませ両手を胸の前で組み、お願いのポーズを取って、嬉しさに感極まった感じを演出。


「いやいや。そんなのいいって、いいって……」


 そう言って立ち去ろうとするオガミを、涙目でなんとか引き止める。

 こっそり顔を伏せて瞬きをしばらく堪えて、なんとか作った嘘の涙。本人には秘密だけど。


「待って!お礼もせずに立ち去るなんて……!そんな失礼な事、私はできません……!」


 女優ばりの猛演技。

 なにせ生死がかかってるんだから。


 ここで気に入られて、仲間として連れてってくれれば、とりあえず一安心できる。


 だから、そのための一芝居。


(お願い、連れてって!お願いだから……!)


「そうだな、僕達のチームにはちょうど魔法を使える人がいなくてね」


(……きたっ!よっしゃ!)


 心の中でガッツポーズ。

 しめしめ、うまくいった。


「だから、その……どうだい?一緒に行かない?」

「わっ、いいんですか?!そんな、私なんかが……」


 前のめり気味な内心をぐっと抑えて、あくまで控えめで謙虚な態度を貫く。


「ああ、もちろんさ!」


 答えは満面の笑みでイエス。




「……っ!ありがとう、ございます……!」


(ああ、よかった。これでしばらくは安心だ……)




「むしろ、こちらからお願いしたいくらいなんだよ。これからの戦いに備えて……」

「これからの戦い?」




 彼は軽く俯くと、おもむろに片手を前髪にわしっと突っ込む。

 反対の手は腰に軽く当てて、眉をハの字に下げて……なにやら悩ましげな表情。


 なかなか痛々しいけど、周りの誰も言及しないので黙っておく。


(もうこれ、私になんか突っ込んでほしいのかな……いや、やめとこ)




 そのポーズのまま、彼は説明を始める。


「僕達にはとある使命があって……そのためにこうして旅をしているんだ」


(頑張るなぁ。前髪かき上げてる腕、つらくないのかな……)


「ある日、お姫様が魔王に拐われてしまったんだ。僕達が調べたところ、どうやら彼女は魔王の城で幽閉されているらしくて……」


(あ、下ろした……)


「といっても、誰でも助けられる訳じゃなくてね。魔王やその配下の魔物達は強い闇の力を持っているから、いくら屈強な戦士であっても太刀打ちできない」


「でもたった一人だけ、戦える人間がいる……それが……」




「……僕だ!」


 ドヤ!


 ジャーン!みたいな効果音が聞こえてきそうなキメッキメの顔。


(うわ……)


 気のせいか、背中がちょっとひんやりしたような。




 さすがにこれはないだろうと思って、仲間達の方を見ると……まるで初めて恋に落ちた学生のように切ない顔。

 桃みたいにうっすら頬をポッと染めて、両手を頬に添え腰をくねくねさせている。


 三人とも揃って同じリアクション。




(えっ……?ときめいたの?今ので?)


 いや、ない。さすがにそれはない。

 むしろ、今のでキュンとくるようなポイントあった?って聞きたいくらい。




 そんな私の心の内なんて知らずに、オガミは話を続ける。


「僕だけが闇と戦い、魔王を討つ事ができる。そして姫様を救える……」


「とはいえ、魔王も魔王で僕みたいな勇者がいずれ現れるのを知っていて……配下の魔物を世界中にばら撒いて、僕らの行く手をどうにか阻もうとしていた」


「だからこうして、仲間と共に魔物と日々戦っていたんだ」


 へ〜。よくある感じの話だなぁ。




「……でも。でもね、勇者様ったらすごいのよ。旅に出てからまだ一年も経っていないというのに、もうほとんどの魔物を駆逐してしまったの。すごいでしょ?」


 そう言うシャーロットの胸。

 喋るリズムに合わせて不自然にぽよんぽよんと揺れている。


 跳ね方からしてだいぶ軽そう。

 胸というより、丸い形そのまま揺れていて…‥.スイカというよりこれじゃあ風船だ。


「す、すごいですね……」

「ふふっ、でしょう?」


(いや、そう言うあなたもなかなかすごい事になってますけど……)


「だからね。あとはもう、やる事は一つだけ……魔王を倒してお姫様を救う。それだけなの」


 ぽよん、ぽよんぽよん。

 謎の揺れ。この会話くらいでそんな揺れる?




 困惑する気持ちを抑えて、冷静に返す。


「なるほど……つまりあと少しなんですね」


 あと少し(で私は元の世界に帰れる状況)なんですね。


「ええ、そうよ」


(帰れるって事?やった……!)


 突然現れた希望に、思わず顔が緩む。


「だから、もう一踏ん張り。お互い頑張りましょうね」


 ぽよんぽよん、ぽよんぽよんぽよん。


 たゆんたゆんではない。結構激しめの上下の揺れ。

 周りの皮膚が変に引っ張られて痛くなってないかちょっと心配。




 でも、いい話を聞いた。

 彼らの旅はもう少しで終わる。つまり、帰れる。


(やった〜!もう少しでこの世界ともおさらばだ!こんなサックリ進めるなんて!ラッキー!)


 知らない世界、先が分からない不安から解放され……そして帰る目処まで立って。


 緊張から解放された、スッキリした気持ち。

 今この場で飛び上がって喜びたいくらい。




 でも、そんなルンルン気分の私そっちのけで会話はまだ続く。


「そうだ。オガミが世界に蔓延る魔を払ったのだ。ああ見えても、その剣の腕は確かなもの……」


(……うわっ!)


 急に視界に入ってきたビキニアーマーに、やっぱりどうにも恥ずかしくて顔を少し逸らす。


「……オリヴィア!まさか、君がそこまで褒めてくれるなんて……!」


 嬉しそうなオガミはオリヴィアの方に手を伸ばす。


「はぁ?!ば、馬鹿言うな!褒めてなどいない!事実を言ったまで……別に好意がある訳じゃないからな!勘違いするな!」


 そうキツく言いつつ、伸ばされた手を優しく払い退ける。


「ふふっ、素直じゃないなぁ」

「ふんっ!なんとでも言え!」


 オリヴィアはそう言い放ち、プイとそっぽを向く。


 その顔は真っ赤っか。

 髪も強めの赤だけど、今の頬の色もなかなかいい勝負だった。


(ツンデレってやつ?べ、別にアンタの事なんか好きじゃないんだからね!みたいな?)




「ちょっと……!ずるいわオリヴィア!私だって勇者様の素晴らしいところ、百個以上言えますわ!」

「えっ!待ってよ二人とも、ボクもです〜!」

「なっ!ア、アタシだってそれくらい言える!」


「それに、私の方が先に好きになったんですよ!だから勇者様は私のものです!」

「はぁ?!先か後かなんて関係ないだろう!アタシの方が好きなんだから!」

「待って、待ってください!ボ、ボクが一番好きなんですよ〜!」


 オリヴィアがデレたかと思ったら、今度は三人で揉め始めた。




「おいおい、喧嘩はやめろって……」


 オガミはそう言いながらも満更ではなさそうで、デレデレとだらしなく鼻の下を伸ばしていた。


 整った顔面は完全に緩みきっていて、なんだかまるで別人のよう。




 なにこれ。


 女三人が男を取り合い、当の本人はずっとニヤニヤニヤニヤ。


 それもアニメやゲームのキャラクターのような、乳やら裸やらエロ要素をやたら強調した女キャラ達が男を取り合っている。


 これまでに何があったのかは知らないけど、三人とも見ていて怖いくらいオガミにベタ惚れで。


(えっ、なにこれ。ほんとなにこれ。ギャルゲーかなんか?ハーレムってやつ?)


 でも、もしこれがそういうゲームだったとしても、キャラ作成失敗したんじゃないかってくらいひどい。


 男性向けどころか……男性すら引くぞ、これ。




 なんていうか、人間らしくないというか。

 人の形をした意思のない別の何かみたいな。


 まるでオガミの思い通りになるよう、影で誰かが操っているかのような気持ち悪い女性達。




 えっ、なにこれ。

 まさかこの先ずっとこんな感じ?


(えっ、無理……無理すぎる……帰りたい……)


 あんなのとずっと一緒なんて無理。しんどすぎる。

 もしこれがこんな知らない世界じゃなかったら、魔物に襲われるとかそんな危険がなかったら……とっくに全力で逃げてる。

 今のこの状況だからこそ、大人しく我慢してるけど。


 さっさと帰りたい気持ちが、おかげでさらにどんどん募っていく。




「あの……勇者様?あまりここに止まっていては……」


 控えめな口調にしつつ、はよ出発しろと目で訴える。

 帰りたい気持ちは最高潮。


「おっと、すまない。そうだった、そうだった……それじゃあ、皆!行くぞ!」


 何がおっと、だよ。


「「「お〜!」」」

「はぁ……」


 気合を入れる三人。


 私だけはお〜と言う気になれなくて、思わず大きなため息が漏れてしまった。

 彼女達の声がうまくかき消してくれたから、セーフ。




 問題しかない仲間達。

 色々見せつけられた今じゃ、気持ち悪くて仕方ない。


 しかし、元の世界に無事帰れるまでは……そんな人達でも頼るしかなかった。


(もう少し、もう少しの辛抱だ……)



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