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斜め後ろの杏さん  作者: あさぎ
I.違和感だらけの異世界
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3.魔法使いリナ

 


「……あっ!思い出した、思い出したぞ!君は有名なあの『魔法使いリナ』だね?」

「へっ?」


(有名な?『魔法使いリナ』?)


 魔法使いだなんて、とふと自分の姿を見ると……いつもの地味なオフィスの格好から一変、綺麗さっぱり変わってしまっていた。


 パッと目を引く、鮮やかな紫色のワンピース。

 ストンと真っ直ぐストレートな、飾りも何もない、いたってシンプルなデザインの。

 でもなんだか足がスースーするなと思っていたら、かなりの超ミニ丈で……むしろ大きめのシャツとかチュニックですって言った方がしっくりくるくらい。


 下着が見えるんじゃないかって思わず下に引っ張るも、ピンと張るばかりで布が全然足りてなくて。

 地味に結構恥ずかしい。


 その上には黒の長いマントを羽織り、そして頭にはいかにも魔女って感じの三角形の帽子が乗っていて。

 履き慣れたパンプスは、皮のブーツに変わっている。


(うわ。杖といいこの格好といい、ほんとに魔法使いじゃん……)


 男は穏やかな笑みを浮かべたまま、静かにしている。

 どうやら私の返事を待っているようだ。


(とりあえず、私がそのリナですって答えちゃおうかな……いや、でも違う世界から来たってここは正直に言っちゃうべき?どうせ後で帰らなきゃいけない訳だし。いや、でもやっぱり……)


「えっと、え〜っと……」


 うまく返事を返せずにいると。







「いた!見つけた!やっと追いついたわ!」


 静かに悩んでる私の鼓膜をぶち抜くような、ハイテンションで甲高い声。


 声が終わってもまだ耳がキーンと鳴っている。




 驚いて声の方に振り向くと、こちらにズンズン近づいてくる三人の女性達が見えた。


 スタイル抜群の美女二人に、可愛らしい少女が一人。




(女戦士とシスターと……盗賊、かな?)


 聞かずともなんとなく分かる。

 ご丁寧に、三人ともとても分かりやすい格好をしているから。


 一人は兜を被り背丈以上もある大きな斧を担いでいて、もう一人はベールを被り聖書らしき本を抱えて十字架模様が描かれたローブを着ている。

 そして最後……三人目は腰にドルマークの書かれた何やら重そうな小袋をいくつも下げ、太もものベルトにナイフを携えている。




 さっきの声の主は、そのシスター風の女性。


「もう、勇者様ったら!す〜ぐ私達の事置いてくんだから!……あら、新入りさん?」


 そう言いながら、サラサラと長い金髪を靡かせて優雅に振り向く。


(金色っていうか、もうこれほぼ黄色じゃん……随分変わった色味だなぁ。地毛というより、何かで染めてる?)


 こちらを見つめる青い瞳も、まるで絵の具で塗ったかのように鮮やかだった。


「そうだよ……この人はリナさん。あの『魔法使いのリナ』だ」

「あら、あの有名な方ね?お会いできて嬉しいわ。私はシスターのシャーロットよ」


 やっぱり見た目通り、シスターだったようだ。




 ずいっと近づいてきたシャーロットに、思わず後退り。


(うわでかっ!嘘でしょ、こんな……)


 大きすぎる彼女のそれに圧倒され、思わず夢でも見てるんじゃないかと自分を疑う。

 しかし頬をつねったり瞬きを数回繰り返してみても、目の前の光景は変わらず。


(えっ、ほんとにこの人シスターなの?)


 遠くから見た時は何も問題なかった。

 けど、いざこうして対面してまじまじと見てみると……


 なんかちょっと……いや、だいぶおかしかった。


(でっか!えっ……いや、いくらなんでも大きすぎない……?)




 シスターと言う割に布面積がやたら少ない、金髪(黄髪?)碧眼の美女。

 着ているローブの丈が短すぎて、太ももはガッツリ露出し、もはやパンツが思いっきり見えてしまっている。


 しかし格好はまだいいとして。




 極め付けはその大きな胸だった。


 さっきから、でかいでかいとぼやいているのはまさにそれの事で……スイカでも服の中に入れてるのかってくらい、とんでもなく巨大なそれ。


 もう羨ましいとかそういう次元じゃなくて、怖い。

 呼吸に合わせて微かに揺れるそれに、目は釘付けだった。ある意味。


 さらには、服の胸元の十字架模様がその膨らみでぐにゃりと歪み、そのサイズ感をさらに気持ち悪いくらい強調していた。


(うわ!なにこれ、胸の形に服がピタッと張り付いちゃってる……!そんな、いくらなんでも……二次元じゃないんだから……)


 正直ホラー画像を見せられているような気分。

 心の中が恐怖と気持ち悪さで溢れていた。




 しかしそんな私の動揺に、誰も気づいていないようで。

 落ち着く暇なんてなく、話はどんどん進んでいく。


「それじゃあ、二人も自己紹介しましょうか。ほら次、オリヴィアの番ね」


 呼ばれるなり、かなり大柄な女性がシャーロットの後ろからのっしのっしと出てきた。


「次はアタシか。オリヴィア……戦士だ」


 ぶっきらぼうな話し方。

 いかにも戦士って感じだけど、だけど。


 今度もまた、格好が……


(えっ、あれって……いわゆる『ビキニアーマー』ってやつだよね……?)


 ビキニの形をした鎧を身に纏っている。

 これまた面積がえらく控えめの。


 っていうか、ぶっちゃけもうほぼ全裸だ。


 裸の上に紐で繋がれた小さな金属片がちまちまっと乗ってる、そんな感じ。

 守る気あるのか?ってくらいやる気のないアーマー。


 なんとなく恥ずかしくなって視線を逸らす。

 いや、一応大事な部分はちゃんと隠れてるし同性なんだけど……なんか、なんかね。


 彼女もまたシャーロット同様、ペンキで塗ったみたいな真っ赤な短髪に同じ色の瞳。

 明るめの褐色肌で、腹筋バキバキの屈強な女戦士。




(こっちもこっちで、でかい……)


 もちろん彼女もシャーロット同様、立派なバストをお持ちで。

 大きく重そうな肌色のスイカが二つ、そこにくっついていた。


 彼女の方がシャーロットよりもさらに際どい装備だけど、筋肉隆々の肉体美って感じでさっきほどのインパクトはなかった。




(髪の色も目の色も、それに肌の色も……なんだかちょっと嘘っぽいなぁ。なんかゲームとかのキャラを見せられてるみたいな気分。むしろこれが本当にゲームだったら、こんなにびっくりしないんだけど……)


 もう一度強く頬をつねる。

 シャーロットの、おや?という顔になんでもないです、と答えながら。


(でも……これは現実……)




「じゃあ!最後はボクですね!」


 一瞬間が空いてようやく一息つけると安心したのも束の間、自己紹介はまだ続いている。


「へへっ、ボクは盗賊のリネット!ちっちゃいけど、これでもオトナなのです!」


 毒々しいピンク色のツインテールにとんがったエルフ耳、背が低く全体的に華奢で他二人と違って胸はぺったんこ。

 そんな、まるで幼い子供のようなエルフの女性。


 いや、大人って言ってるから見た目は幼くても精神年齢はそこそこって事なんだろうけど。


 彼女もまたお尻丸見えのローブを着ている。

 でも、こっちはうさぎの耳がついたフードがついてて可愛らしいデザインだ。


(他二人よりはまだマシ、かな……お尻出てるけど)




 三人とも何かのキャラみたいな、どこかわざとらしい雰囲気で。


 本人達には申し訳ないけど……なんか、怖い。




(まさか、こんなのがこの世界の普通なの?これが当たり前?まさか、この世界全員こうなの……?)


 うわぁ。

 たった三人ですらなかなかビジュアルがきついっていうのに、他の人なんて出てきたらそのうち卒倒しそう……


 げんなりする気持ちを奮い立たせ、いざ最後はあの男の自己紹介……と思いきや、彼は何やら考え事をしているようで。


 彼の方を見ると、何やらぶつぶつと独り言が聞こえる。


「う〜ん、おかしいよなぁ……」


「新しい子追加なんて、考えてなかったはずなんだけど……」


「どうやってここに入ってきたんだろう……それもいったいどこから……」




「勇者様!」「おい、勇者!」「勇者さん!」

「……はっ!み、みんな!」

「勇者様!もう、ボーッとして……次はあなたの番ですよ!」


 シャーロットにそう促され、すまなそうに笑いながらポリポリと頭を掻く。


「へへへっ、悪い悪い。いやぁ、ちょっと考え込んでてね。すまない……では改めて」




 男はこちらに向き直し、姿勢を正した。

 彼の赤い瞳が真っ直ぐ私を捉える。


「僕はオガミ。みんなからは勇者オガミと呼ばれているけど……まぁ、ただのしがない剣士さ」


 そう言って腰に下げた剣をおもむろに鞘から出し、目の前で軽く振ってみせた。


 べっとりと赤い血や緑色の謎の体液が混ざり合ってこびりついている刃。

 さっきのオークのものかもしれない。


 細かい傷がそこらじゅうについていて、かなり使い込まれているようだ。

 なんだかいかにも剣豪って感じの雰囲気。


 わぁ、すごい……!と私が思わずこぼした言葉に彼は満足そうに剣を戻す。




 オーバーサイズの黒いローブに身を包み、髪の毛の色から履いているブーツまで真っ黒で。

 オールブラックコーデとでも言いたくなるくらい、見事に全身黒で統一されていた。


 背は私よりは高いけど、男性としては平均的な感じ。


 全体的に細身だけど肩幅はそれなりにあって。

 襟の隙間から見える胸元や、捲った袖から覗くがっしりした腕には程よく筋肉がついてる。


 顔は丸顔で青年というより、少年っぽい。

 詳しい年齢は分からないけど、他の大人女性二人と比べてなんとなく幼く見える。


 真っ白な肌に、白ウサギみたいな赤い瞳がよく映えていて。




 ベースはそれなりにイケメン。

 素材はいいんだけど、だけど……


 そうなんだけど、これまたやっぱり格好が……




 謎の黒いベルトが右肩から斜め左下に向かってぐるっと巻かれていて、余った先が宙に浮いて変にぷらぷらしている。

 サイズミス?そういう仕様?


 さらに、腰の周りに謎のシルバーのチェーンを左右交差するようにかけて、正面にバツ印を作っている。


 ベルトぷらぷら、そしてチェーンがジャラジャラ。

 なんとも目が落ち着かない。


 なかなかアレな格好だけど……本人はかっこいいと思ってんのかな、これ。

 子供ならまだしも、大の大人が……


 そのうち右目が疼き出したりするんじゃないかって、ちょっと心配になってきた。


 よくよく見たら、手の甲にちゃんとそれっぽい紋章あるし。


(闇の力が〜って言うやつじゃん、これ。うわぁ……)




 女性三人とはまた違ったインパクトに、うまく言葉が出ないでいると彼……オガミはこちらを見ながらわざとらしく襟を立てて、俺かっこいいでしょ?と言いたげにアピールしてくる。


 やたらと前髪直したり首の後ろをさすったりしてるけど、これもかっこいいって思ってやってるっぽい。


 ナルシスト?厨二病?

 あんまりこんな強烈な人に会ったことがないから判別つかないけど、ともかく割と重症な感じ。


 素材はいいのに。素材は。

 少なくとも顔は悪くないはずだし、体型だってほどよく筋肉質でいいのに。


 なんでそうなっちゃったんだか……







 ともあれ、自己紹介してもらって正体がはっきりした今。

 助けてくれたのは勇者……もとい、痛々しい感じのお兄さんだった。


 なんだろう、このあんまり嬉しくない感じ。

 いや、助けてもらった事に変わりはないんだけど……


 そしてその他に、痴女……じゃなかった、個性豊かな皆さんもいると。


 なんだか、なかなか癖の強い人達に出会ってしまった。

 オーク倒せたんだし腕は確かなんだろうけど、この先どうなることやら。


(う、う〜ん。なんだか先が思いやられる……)



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