勇気
「綺麗だよ、漣」
亮平が驚いたみたいに云う。立ち上がって、スリッパの履き心地をたしかめている漣は、うーん、と唸る。
「ばけもんになってねえ?」
「お姫さまに見える。充分」
「あんまり嬉しくねえなあ」
「それに、相手は巧だから、漣の身長でも大丈夫」
漣は苦笑いする。男子が、漣可愛い、とこそこそ話しているのが聴こえた。弥生がメイク道具を軽く叩く。
「はい、次は小人達の化粧をしますよ」
「あ、そうだった。みんな、メイクをしてもらって、体育館へ急ごう」
「あと一時間もないですよ」
「おい!」
康太だ。息を切らして走り込んできた。
「な、なんだい、康太……」
おそるおそる訊いた亮平は、なにかいやなものを感じとっていたのだろう。
康太は頭を振る。
「深月、病院行くって。巧もくっついてっちまって」
「ええ?!」
白雪姫は代役だし、王子も消えてしまった。という訳で教室内の空気はまたも冷え、亮平が慌てている。
「どうしよう……どうしよう? 王子役のせりふ、覚えてるひと、居る?」
「亮平がやればいいんじゃ」
「だめだよ! 僕は照明やってるんだ。誰か、ライトのつかいかた、わかる? どこでどの音を出すか、わかる?」
誰も返事をしない。「ほら」
「じゃあどうすんだよ」
「そうだ、雷太……は、部の手伝いか」
「俺、呼んでこようか」
康太が廊下を示す。亮平は頭を抱えている。
「あの」
きあらはおずおずと、片手をあげた。
「わたし、せりふ、覚えてると思う……」