文化祭へ向けて
「え、僕?」
さんせー、と声があがる。
巧は頬を掻く。隣の雷太が肘で小突いた。「やったな、色男」
「やめてよ、雷太」
文化祭の演しものについて、約半数が部や委員会の屋台を手伝うのでそちらへ行ってしまうとかで、もう半数で白雪姫をやることになり、その配役を話し合っていた。
巧は戸惑い顔だ。
「僕、王子って柄じゃないけど」
「そんなことないよ。それに近衞くんは背が高いから」
亮平が笑顔で云う。「近衞くんが王子をやれば、小人役がそれらしく見えるでしょ」
「ああ、そういうことかあ」
巧はこっくり頷く。きあらは苦笑していた。亮平の話の持っていきかたはうまい。巧はそれなりに整った顔立ちをしているのに、あまり自覚がないらしいのだ。
亮平が深月を見た。
「だから、白雪姫は橋村さんね」
「アタシ?!」
自分にまったく関係ない話だと思っていたらしい深月が、がたっと音をさせて席を立った。「どうしてだよ」
「女子で一番背が高いのは橋村さんだから」
「そうだよ、深月」咲花がくすくす笑う。「間違ってわたしやきあらがやったら、身長差がありすぎて面白くなっちゃうもん」
深月はぽすんと腰を下ろす。巧がそれに片手を振った。
「宜しくね、深月」
「……まあ、たーさんだし、いいか」
深月は結局、満足そうに腕を組み、巧は頑張るねーと暢気に宣言した。
白雪姫の脚本は、奏太が仕上げてくれた。奏太自身は、チェス部の屋台に行ってしまうのだが、脚本くらいならと一晩で仕上げてくれたのだ。
白雪姫の話自体はほとんどの生徒が知っていたし、用意するものはわかっている。康太は小人役で目立てるとご機嫌だ。彼はクラス一、背が低い。
きあらは小人役をもらった。漣は女王役だ。「目付きが悪いから」というだけの理由でキャスティングされていた。そんなことはないと思うのだけれど、連は上級生に「目付きが悪い」と因縁をつけられたり、先生に「睨んだ」と叱られていたりする。
奏太の脚本は、王子と白雪姫の恋愛に比重を置いたもので、白雪姫が目覚めてからのふたりの台詞が多くあった。巧も深月も優秀なので、すぐに台詞を覚え、演出兼照明の亮平は嬉しそうだった。各クラスが演しものをするのだが、最優秀賞をとると近所の焼き肉屋のお食事券が贈呈されるのだ。それもあって、みんなやる気である。