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掛居きあらが勇気を出すまで  作者: 刀洞 やや
3/10

ひとりでごはん




 深月は本当に、近衞(このえ)(たくみ)と約束があったのか、ふたりの姿はなかった。巧くんは深月にとっても甘いから、ときあらは思う。もしかしたら、深月が突然、外で食べよーよ、と云いだしたって、いいよとついていくのかもしれない。

 たまに一緒にお弁当を食べている、御堂(みどう)雷太(らいた)松井(まつい)咲花(えみか)も、姿がなかった。スカートの下にジャージを履いた稗田(ひえた)弥生(やよい)が、購買のパンのことで康太と大きな声で話していた。


 きあらは席に着き、お弁当箱をとりだす。いつもは深月と一緒に食べている。それに最近は深月が誘うので、巧と、巧の幼馴染みの雷太と咲花も、昼食をともにすることが多かった。咲花は美人だけれど、とっつきにくいなんてことはなく、朗らかで可愛い子だ。中学校まで深月しか女友達が居なかったきあらの、深月以外の初めての女友達だ。

 無口だけれど、女の子に対して自然に接してくれて優しい巧と、どことなくずれた言動が面白い雷太、朗らかな咲花は、一緒にご飯を食べるのが楽しいよき友人だ。

 深月は巧を好いていて、最初は咲花に敵意むき出しだった。咲花が巧にたいして恋愛感情を抱いていないと知ってからは、巧の小さい頃のことや、好きなもの嫌いなものを教えてくれる咲花を、深月は大事な友人として扱っている。

 深月は巧に露骨にくっついたり、同じ班になりたがったりするが、巧はそれを自然に受け容れるものの深月の気持ちに気付いた様子はない。いつもにこにこしている。

 だが、巧も深月を好いていると思う。男女でペアにならないといけない場合、彼はあたりまえのように深月のところへ行くのだ。勿論深月も、あたりまえのように巧と組む。それが恋愛かどうかはともかく、巧の深月に対する気持ちは、マイナス方向ではない。


 わたしは……。


 男女ペア、の場合、いつも深月と一緒のきあらは、やはりいつも巧と一緒の雷太と組むことがほとんどだ。咲花が、きあらちゃんのことちゃんと見てなさいよ、と雷太に云うと、雷太はおどけた様子で敬礼する。咲花は社交的で、男女ともに友人が多いから、ペア作りでも班作りでも外れることはない。きあらは友人と呼べる程の付き合いをしているクラスメイトは少なくて、気兼ねなく男女ペアをつくれるのは雷太か巧くらいだ。

 雷太は紳士的だし、深月や咲花が居ないと面白い言動は減る。巧が居ないから、かもしれない。どことなく、きあらとは距離感がある。それでも、ほかの男子達よりは接しやすい。

 雷太以外の男子も、ほとんど同じようなものだ。剣道少年の神藤(しんどう)陽樹(はるき)と組んだことはないが、それ以外のほとんどの男子は丁寧で、紳士的で、どことなく距離がある。

 それを感じないのは、巧くん、それに漣くんだけ。


 巧は女の子にもてる。とても。

 背が高いし、整った顔立ちで優しそうな目をしている。ミックスらしい、と聴いたことがあるが、どことのミックスかは聴いたことはない。だが、日本人離れした顔立ちではある。浅黒い肌に、くしゃっとした黒髪と、長いまつげにふちどられた目をしている。

 成績はとてもいいし、体育でも雷太といつもトップを争っている。所属しているバスケ部では、一年生なのにエース扱いされているらしい。あの身長なら当然だろう。

 それに、いい意味で男子らしくない。ほかの男子達みたいなばか話をしないのだ。思わず眉をひそめてしまうような言葉は、巧の口からは出てこない。いつも身ぎれいにしていて、清潔感がある。

 しかも、女子の扱いに慣れている。重たい荷物を持ってくれるし、高いところのものをとってくれるし、なによりそれらの行動がすべて自然で、なんのいやみもない。この間なんて、体力測定で転んだわたしを抱えて、救護室まで運んでくれたし。

 だから、巧は「隠れ優良株」として、上級生の女子からも目をつけられている。深月が彼女らしくなく、かなり大胆に巧に近付いているのは、ほかの女子達に対する牽制でもあるのだ。

 きあらが深月と一緒に巧と話していることが多いので、きあらと巧が付き合っていると誤解している生徒も居る。どう見たって深月のほうが巧と距離が近いのだが、まわりはきあらのことを云々したがる。きあらはどうしてだか、その手の噂にずっとつきまとわれてきた。

 漣くんは、そういうのがない。


 漣くんはよくわからないひとだ。きあらはそう思っている。

 康太達と男子らしくばかをしていると思ったら、赤点をとった弥生に真剣な顔で理科を教えている。陽樹と騒々しく喧嘩していたと思ったら、学年一の成績を誇る井上(いのうえ)奏太(かなた)と本格的にチェスをしている。付き合っている男女を見て毒づいていると思ったら、漣と幼馴染みで生徒会役員の坂下(さかした)亮平(りょうへい)と、生徒会のことを真面目に話し合っている。

 そのよくわからない、可愛らしいところを、いつの間にかじっと見ているようになった。多分、好きなんだと思う。


 ハンバーグはひとつ残っている。今朝、自分でつくったものだ。今日こそ、漣をご飯に誘おうと思っていた。だから、わざとあしを遅くして、漣とふたりになろうとした。漣の好物がハンバーグだというのは、この間声の大きい康太と弥生が話していたので、知っている。

 でも漣は、別クラスの女子生徒に呼びとめられ、きあらは隠れてふたりの会話を聴いていた。深月には云わなかったけれど、本当に漣は告白されていたのだ。

 断ったのか、承諾したのか、わからない。

 弥生と雷太が戻ってきて、きあらは咲花に残ったハンバーグをあげた。




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