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掛居きあらが勇気を出すまで  作者: 刀洞 やや
2/10

きあら、高校一年生




「まーた見てる」

 びくっとして、掛居(かけい)きあらは右方向を見た。

 クラスメイトの橋村(はしむら)深月(みつき)が、教科書とノートを肩にのせるような格好で、にやにやしている。きあらは深月を叩くふりをした。低声(こごえ)で云う。「おどかさないで、深月」

「へえー、別にこっそり近寄った訳でもないのに、気付かないくらい集中してたんだ? れ」

「深月」

 きあらは深月の口を塞ごうとする。深月は笑いながらそれを避けた。


 月曜日の四時間目、実験室での実習が終わって、きあら達のクラスの生徒は、お弁当の待つ教室へ向かっているところだ。が……きあらはクラスメイト達からだいぶ遅れていた。階段の踊り場で身を隠すようにし、上の階をうかがっている。

 その理由は単純で、こっそりと、やはりクラスメイトの海山(みやま)(れん)を見ていたのだ。別のクラスの女子生徒に呼びとめられ、話し込んでいる彼を。

 深月がきあらの肩に軽く腕を置いた。フランスとのクォーターの彼女は、背が高い。きあらよりも頭ひとつ半くらい大きく、それなのに体重はたいして重くない、所謂モデル体型をしている。

 ちびのきあらは、友人のプロポーションのよさをたまに、ひどく羨ましく思う。深月当人は、そういうことには頓着しないで、言動も男の子のようだが。

「告られてんじゃねえの」

「えっ」

「あいつ、顔は結構いいじゃん。きあらが見惚れるくらいには」

 なにもいいかえせず、きあらはぎゅっと深月を睨む。深月はにやにやしていた。

 上の階でなにか動きがあった。きあらはそちらを見る。

 漣が頭をかきながら降りてきた。


「あ」

「よ、漣」

「きあら、深月。……なにしてんだ?」

「えっと」

 慌てたきあらの手から、細身のペンケースが滑りおちた。かしゃんと小さな音をたてて、ペンケースが開き、中身がこぼれる。「あ」

「あーあー」

 漣は苦笑いし、屈みこんでシャーペンや消しゴムを拾う。きあらと深月も屈み、散らばったものをかきあつめた。

 漣はペンケースに拾ったものをいれ、きあらへさしだした。

「ごめんなさい……ありがとう」

「いや」

 ペンケースをうけとろうとしたきあらの指に、あたたかいものが触れた。それが漣の指だとわかって、きあらは少しだけ、赤面する。



 もう一度礼をいい、きあらは自分が拾ったものをペンケースへおしこんだ。深月が拾ってくれたものもうけとる。

「あー、思い出した」

 深月がわざとらしく云って、立ち上がった。「アタシ、たーさんと飯くう約束だった。じゃあまた後で。きあらは漣と飯くったら?」

「深月……!」

 深月が階段を飛び降りていなくなり、漣が呆れ顔で立ち上がる。きあらはどんな顔をしたらいいかわからず、漣から顔を背けて立った。

「なんだよ、あいつ」

「あの、漣くん、ごめんね。深月が変なこと云って」

「変?」

 漣は小首を傾げた。きあらはそれをちらりと見て、可愛い、と思う。

 漣は頭をかいて、にこっとすると、云った。「一緒に教室、帰る?」


 特別なことではない、というのはわかっているのだけれど、きあらはあしどり軽く、漣と並んで歩いていた。なにか喋りたい気持ちはあるが、男子とどんな会話をしたらいいのかわからず、きあらはなんとか思い付いた共通の話題を口にする。

「漣くん、今日のお弁当なあに?」

「なんだろ。きいてねえや」

 漣は素っ気なく云ってから、申し訳なげにきあらを見た。「ああ、いや。朝、ぎりぎりで家、出たから」

「そうなの? 漣くん、お寝坊さんなんだね」

 漣は微笑んでくれた。きあらも微笑む。

「わたしはね、今日はオムライスとハンバーグなの」

「へえ。うまそうだな。俺、ハンバーグ好き」

「あのね……」

 よかったらおかずを交換しない? とか、ひと口食べてみる? とか、そういうことをいいたいのだが、声が出なかった。緊張している、と自覚する。

「漣、おせーぞー」

 教室まであと数メートルのところで、教室から真野(まの)康太(こうた)がひょいと顔を覗かせた。おう、と漣は片手をあげて、そちらへ小走りに向かう。康太がひっこんだ。

 きあらは数秒、康太が居た辺りを睨んでいた。




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