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掛居きあらが勇気を出すまで  作者: 刀洞 やや
10/10

漣の気持ち……?




 文化祭から数日後、すっかり元気になった深月と登校したきあらは、玄関の掲示板に生徒達が群がっているのに気付いた。上級生も多く、掲示板は見えない。「たーさーん、おはよー」

「おはよう、深月、きあら」

「おはようさん」

「おはよう、巧くん、雷太くん」

 また、いつも一緒のふたりだ。深月が巧の肩にぶら下がる。「たーさん、おぶって?」

「うん」

 巧が素直に深月をおぶった。深月はご機嫌だ。雷太が呆れ顔になっている。「橋村、大丈夫なのか?」

「へーきへーき。散々点滴されたもん。よっし、これで見えるぜ」

 にやにやしていた深月が、にやにやをひっこめた。

「深月? どうしたの?」

「……えーと」

「なに?」

「あー。きあらは、見ないほうがいいかも」

「え? ……雷太くん、おぶってくれる?」

 深月が慌てたが、雷太は頷いた。かと思ったら、ひょいときあらを肩に担ぐ。雷太はレスリング部でならしているので、きあらくらいの体重はものともしない。「ありがとう」

「いや」

「……えっ!」

「だから、見ないほうがいいっていったのに」

 きあらは両手で口をおさえている。掲示板には、校内新聞が貼られていた。「文化祭、無事終了!」という見出しのすぐ傍に、王子きあらと白雪姫漣のキスシーンの写真がでかでかと掲載されている校内新聞が。

「あれ、もしかして新聞部、ふたりに許可とらなかったの?」

「失礼な連中だな」

 巧と雷太の発言はどこか浮世離れしている。深月が巧の背から滑り降り、雷太が屈んできあらをおろした。「でも、俺らのクラスが一位とはな」

「みんな、凄く頑張ってたもの。衣装も評価されたみたいだよ」

「おはよー。なんだよこのひとだかり?」

 漣と亮平がやってきて、きあらは走って逃げた。




「……あ」

 屋上で涙をこらえていると、最悪なことに漣がやってきた。「きあら、ここだったのか。深月が心配してるぜ」

「あの」きあらは洟をすする。「連絡、しないで」

 ケータイを取り出そうとしていた漣は、手を停めて頷く。

 そのまま、彼はゆっくり歩いてきて、きあらの隣に座った。きあらは抱えた膝に顔を埋める。

「ごめんね」

「うん?」

「あの……新聞部、酷いよね。漣くん、いやでしょ」

「……失礼だとは思うけどな。許可もとらずに」

 その言葉が、胸をさした。

 きあらは顔を上げ、漣を見る。

「あの、ごめんなさい! あの日、わたしどうかしてた。緊張してて、いいわけにならないけど、ほんとに訳がわからなくて、だから漣くんになにもいってないのに、あの、キス、しちゃって……」

「ああ、そのこと」

 漣は興味なそうに、きあらから目を逸らす。「気にしてないって」

 きあらは目許をこする。漣は困ったみたいに、屋上のフェンスを見ている。

「……それは、わたしのことは眼中にないって意味?」

「は?」

「わたしにキスされても、なんとも思わないんだもんね」

 今のは、よくない。

 そう思ったけれど、いったことはどうにもならない。きあらは立ち上がろうとする。

「ごめん、聴かなかったことにして」

 漣に手を掴まれた。そのままひっぱられる。

 漣の腕のなかに収まった。「れ」

 漣の顔が近寄ってきて、きあらの鼻先に口付けてきた。


 きあらはへたりこんでいる。鼻をおさえた。顔が熱い。

「……漣くん?」

「これで、おあいこな」

 漣はにこっとして、きあらの頭を撫でた。

「きあらみたいに可愛い子にキスされて、なんとも思わない訳ないだろ」

 漣は立って、すたすたと歩いていく。「深月に連絡するから」

「待って……!」

 きあらはじたばたと立ち上がり、漣の左腕をとった。「あのね、あのね、わたし」

 予鈴が鳴った。

「やべえ」

「あ」

「きあら、急ぐぞ!」

 漣はきあらの手を掴み、走りだす。

 きあらはタイミングの悪い予鈴に腹をたてながら、でも、漣とつないだ手を見てにこにこするのだった。




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